「あおり運転」とは?新たな罰則「妨害運転罪」・10項目の違反を解説

「あおり運転」とは?新たな罰則「妨害運転罪」・10項目の違反を解説

追い越されたり、割込みされたなど些細な理由から、故意に特定の車の運転を邪魔するなど、「あおり運転」の被害にあったことがあるかもしれません。

そこで、この記事では、あおり運転とは何かについて、新たな罰則の「妨害運転罪」、罰則、取り締まり件数、10項目の違反、対策について解説しています。
「あおり運転」にあっても困らないように事前に把握しておきましょう。

あおり運転とは?

「あおり運転」とは、後方から極端に車間距離をつめて威圧する、理由のないパッシング、急停止、故意に特定の車の運転を邪魔するなどの迷惑行為のことです。

「ロード・レイジ」とも呼ばれ、この言葉は、あおり運転などの危険運転をするドライバーや、危険運転そのもの・報復行動のことを指しています。

あおり運転は、もともと違反行為の処罰の対象となっていましたが、2017年の「東名高速夫婦死亡事故」をきっかけに問題視されるようになりました。この事件によって、警察庁は対策として「あおり運転」の罰則強化を打ち出しました。「あおり運転」は飲酒運転と同様に悪質な違反行為として社会にも認識されつつあります。

東名高速夫婦死亡事故とは

東名高速夫婦死亡事故とは、2017年6月5日に神奈川県足柄上郡大井町の東名高速道路下り線で「あおり運転」をきっかけに発生した交通事故です。

事故の前、被害者ら4人家族の父親が、パーキングエリアで加害者の車の道路を塞ぐように枠外に駐車していたのを注意しました。そのことを逆恨みに思った加害者は、被害者らが高速道路に入ると約700mの間、「あおり運転」を計4回行い、邪魔をするように走行してきて前を遮りました。

被害者らがやむなく止まると、男性と女性が出てきて、注意されたことについて抗議します。両親のうち被害者である父親を引きずり出そうとし、高速道路上で口論になりました。そして、そこから間もなく、ワゴン車にトラックが追突します。被害者の両親は死亡し、車内にいた被害者の長女、次女は助かりました。加害者と、同乗者の女性も重傷を負いました。

あおり運転の新たな罰則「妨害運転罪」

「東名高速夫婦死亡事故」をきっかけに警視庁は「あおり運転」の罰則強化を打ち出します。2020年6月30日に「妨害運転罪」が創設され、あおり運転に該当する違反行為や罰則を明確に定めました。

対象となる行為 刑事罰 行政罰
妨害を目的とした「あおり運転」 3年以下の懲役、または50万円以下の罰金       ・免許取り消し

・違反点数25点

・欠格期間2年

(前歴や累積点数がある場合最大5年)

「あおり運転」により著しい交通の危険を生じさせた 5年以下の懲役、または100万円以下の罰金 ・免許取り消し

・違反点数35点

・欠格期間3年

(前歴や累積点数がある場合最大10年)

「妨害運転罪」では、妨害を目的とした「あおり運転」によって、3年以下の懲役または50万円以下の罰金といった刑事罰のほか、欠格期間(運転免許の再取得ができない期間)を2年とした免許取り消し、違反点数25点となります。
また、「あおり運転」によって国道や高速道路上で他の車両を停止させるなど、著しい交通の危険を生じさせた場合、5年以下の懲役または100万円以下の罰金、さらに欠格期間を3年とした免許取り消し、違反点数35点となります。
前歴や累積点数がある場合、欠格期間が最大5年、さらに交通の危険を生じさせた場合には、欠格期間が最大10年となります。

あおり運転の罰則

「妨害運転罪」以外にも「あおり運転」の一連の行為によって、以下の罰則があります。

器物損壊罪

「あおり運転」によって相手の車体や車の部品を壊した場合には、故意が認められ、器物損壊罪が成立します。罰則は「3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料」です。

過失運転致死傷罪

「過失運転致死傷罪」は車の運転上必要な注意を怠り(不注意により)、人を死傷させた場合に成立する犯罪です。「7年以下の懲役もしくは禁錮または100万万円以下の罰金」です。

危険運転致死傷罪

「危険運転致死傷罪」は、一定の危険な状態で車の運転を行い、人を死傷させると問われる犯罪です。人を負傷させると「15年以下の懲役」、人を死亡させると「1年以上20年以下の懲役」に処されます。

自動車運転処罰法の改正が行われ、2020年7月2日に他の車の通行を妨害する行為の「あおり運転」が「危険運転致死傷罪」になります。
高速道路や自動車専用道路において、通行を妨害する目的で停止・接近し走行中の自動車を停止もしくは徐行させ、負傷・死亡させた場合も「危険運転致死傷罪」の対象に追加されることになりました。

暴行罪

「あおり運転」などをきっかけに、相手の胸倉をつかんだ、車両を殴った、物を投げたなどの行為があった場合に「暴行罪」に問われます。刑事罰として「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金」になります。

傷害罪

「あおり運転」などをきっかけに、殴る・蹴る・物を投げる等の行為で相手に怪我を負わせた場合に「傷害罪」に問われます。刑事罰として「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」になります。

脅迫罪

「あおり運転」などをきっかけに、「殴る」「殺す」などの暴言を吐いた場合に「脅迫罪」に問われます。刑事罰として「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」となります。

殺人罪

「あおり運転」に異例の「殺人罪」が適用された事例もあります。
2018年7月の「堺あおり運転死」では堺市で「あおり運転」をした末に故意に車で追突し、バイクに乗った人を死亡させました。これには、殺人罪の成立が認められ懲役16年の判決となりました。

あおり運転の取り締まり件数とは?

警察はあおり運転の取り締まりを強化しています。昨年、「あおり運転」に関係する違反として「車間距離保持義務違反」の取り締まり件数が1万件を超え、「あおり運転」の取り締まり件数が急増していることがわかります。

車間距離保持義務違反の取締件数の推移

年度 2014 2015 2016 2017 2018
車間距離保持義務違反の取締件数 9,581 8,173 7,625 7,133 13,025
上記のうち高速道路の取締件数 9,033 7,571 6,690 6,139 11,793

あおり運転に関連し刑法を適用した件数

あおり運転に関し、運転行為や人身交通事故に刑法を適用した2018年の件数は次のようになっています。

種別 殺人罪 傷害罪 暴行罪
件数 1 4 24

あおり運転に当てはまる10類の違反

「妨害運転罪」では、次の「あおり運転」に当てはまる10類の運転行為を罰則の対象としています。各違反行為について、具体的に解説します。

①通行区分違反「逆走」

通行区分に違反して、対向車線を逆走してはいけません。(道路交通法第17条)

②急ブレーキ違反「不必要な急ブレーキ」

危険防止のためにやむを得ないとき以外は、急停止や走行速度を急に落とすような急ブレーキは禁止されています。(道路交通法第24条)

③車間距離不保持「前車への異常接近」

直前の車両などが急停車した時でも、追突しない距離を保たなければなりません。(道路交通法第26条)

目測による車間距離ではなく、時間をカウントする「車間時間」で適正な間隔を捉える方法が推奨されています。車間秒数については、一般道で3秒~4秒、高速道で5秒~6秒が良いとされています。自分が車間コントロールし、常に安全な空間をつくることが大切です。

④進路変更禁止違反「危険な進路変更」

進路変更により、その進路の後方を走行している車の速度や、進路を急に変更させるような進路変更は禁止です。他の車の進路前へ急に割込み、走行の邪魔をしてはいけません。(道路交通法第26条2第2項)

⑤追越し違反「左側からの追越」

左車線から前の車を追い越すような場合には、追越し違反になります。(道路交通法第28条)

⑥減光等違反「必要のないハイビーム・執拗なパッシング」

視界が悪い時の運転にライトは必須ですが、道路状況などによって調節しないと、前方や対向車の運転手の視界を悪くし、事故を起こすきっかけとなります。
交通の妨げになるにもかかわらずハイビームで走行し続ける行為は違反となります。(道路交通法第52条2項)

⑦警音器使用制限違反)「クラクションでの威嚇」

不必要に警音器(クラクション)を鳴らす行為は違法行為です。
警音器は、左右の見通しのきかない交差点や、曲がり角の走行時、道路標識によって指定されている道路の通過時など、鳴らすべき場所や状況が規定されており、それ以外の場所では原則として鳴らしてはいけません。(道路交通法第54条)

⑧安全運転義務違反「幅寄せ・蛇行運転」

無理な幅寄せ行為、蛇行運転などをしてはいけません。
運転者は、ハンドル、ブレーキなどを確実に操作し、道路・交通状況等に応じ、他人に危害をしない速度と方法で運転をする義務があります。(道路交通法第70条)

⑨最低速度違反(高速自動車国道)「高速道路で遅い速度で走行」

車を運転するときは、スピードが極端に遅いとかえって事故を起こしてしまうことがあります。
特に、高速道路では追突のリスクがあるため危険です。最低速度に達しない速度で走行してはいけません。(道路交通法第75条の4)
最低速度については、道路標識に定められている速度に従い、特に定めのない道路では毎時50キロメートルと定められています。(道路交通法第27条の3)

最高速度標識は、白い円形に赤いリングと青い数字で表示。最低速度標識は数字の下に青い下線で追加されます。

同令で定める対象道路は高速道路なので、最高速度標識がない限り、一般国道は法定最低速度が存在しません。しかし、片側一車線の道路で、後続車が追い付いてきたら左に寄せて進路を譲り、追い越しの間、加速してはならない決まりがあるため、ノロノロ運転で車の交通を阻害してはいけないことになっています。

⑩高速自動車国道等駐車違反「高速道路で停車・駐車」

高速道路での駐車・停車は原則禁止とされています。走行の妨害を目的に、被害者の車両を強引に停車させる行為は違反です。
なお、パンクやガス欠などのやむを得ない事情の場合は適切な方法での停車が求められています。(道路交通法第75条の8第1項)

あおり運転の対策

警察への通報

「あおり運転」にあったらすぐに警察へ通報しましょう。
ドライブレコーダーの録画があった場合は、「あおり運転」の事実を証明でき、相手を罰してもらえる可能性があります。

「あおり運転」のトラブルは現行犯でない限り口頭注意で終わってしまうケースが多いため、ドライブレコーダーを事前に設置しておくことが大切です。

あおられても相手にしない

「あおり運転」をされた時は、相手を無視するか、安全な場所への一時停車をします。「あおり運転」の相手と対話しようとすると、暴力事件などのトラブルに巻き込まれる可能性もあります。

そのため、車を停止したときには、相手が車から降りてきても、ドアや窓を開けて対応しないようにし、すぐに警察へ通報しましょう。

急ブレーキは厳禁

あおられた仕返しに急ブレーキを踏んでしまうという人も多いです。しかし、急ブレーキが原因で事故が起きれば、自分も事故や刑事罰の責任を問われることになることがあります。

急ブレーキによる対応はリスクが高いため、絶対にしないようにしましょう。

まとめ

あおり運転に該当するのは、次の10種類の違反行為となります。

①通行区分違反「逆走」
②急ブレーキ違反「不必要な急ブレーキ」
③車間距離不保持「前車への異常接近」
④進路変更禁止違反「危険な進路変更」
⑤追越し違反「左側からの追越」
⑥減光等違反「必要のないハイビーム・執拗なパッシング」
⑦警音器使用制限違反)「クラクションでの威嚇」
⑧安全運転義務違反「幅寄せ・蛇行運転」
⑨最低速度違反(高速自動車国道)「高速道路で遅い速度で走行」
⑩高速自動車国道等駐車違反「高速道路で停車・駐車」

「あおり運転」の10種類の違反行為について、死亡事故に発展する大変危険な行為のため、早い段階で警察へ通報し、やめさせることが大切です。

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