友人・他人と貸し借りした車で交通事故が起きたらどうすればいいのでしょうか。この記事では主に、事故を起こした運転手の責任、車の所有者の責任、自動車保険について解説していきます。
事故を起こした運転手の責任とは?
友人や他人の車を貸し借りすることがあるかもしれません。もし、貸し借りした車で事故を起こした場合はどう対応すればいいのでしょうか。ここでは、損害賠償を支払うのは誰になるのかの疑問についてお答えしていきます。
貸し借りした車で事故を起こした場合
貸し借りした車で事故を起こした当事者の運転手は、全面的に被害者への責任を負うことになります。この範囲は、人身事故や物損事故に関係なく、相手の全ての損害に対して賠償や示談金・修理費の支払いの責任までおよびます。
事故を起こした以上は、実際に運転した運転手は加害者であり、その損害を賠償する責任が発生するのです。
貸し借りした車で事故を起こした運転手の点数の減点
事故を起こした運転手本人に対して、以下のように点数の減点が行われますが、車の所有者に対しては減点は行われません。
交通違反の点数一覧
被害者の負傷程度 | 加害者の不注意により事故が発生した場合 | 相手にも非がある場合 |
死亡事故 | 20点 | 13点 |
・治療期間が3か月以上
・後遺障害が伴う傷害事故 |
13点 | 9点 |
治療期間が30日以上3か月未満 | 9点 | 6点 |
治療期間が15日以上30日未満 | 6点 | 4点 |
・治療期間が15日未満
・建造物の損壊あり |
3点 | 2点 |
事故を起こした車の所有者の責任
車を貸した所有者であっても「運行供用者責任」が規定されているため、事故の責任が発生します。
「運行供用者責任」とは
「運行供用者責任」とは車の所有者にも事故の賠償責任を課す制度です。
「自賠法」(正式名称:自動車損害賠償保障法)の中に規定された決まりとして、被害者の救済をします。ただし、「運行供用者責任」がおよぶのは「身体に対する損害」のみで、自賠責保険が適用される範囲のみで賠償責任が発生します。
つまり、物損事故の場合に被害者に対して責任を負うのは、貸し借りされた車で事故を起こした運転手本人のみです。
貸した車の運転手に対して賠償の請求ができる
もしも、車の所有者が損害の全額を被害者に対して賠償した場合、車の所有者は事故起こした運転手に対して、その賠償した金額を請求できます。
「運行供用者責任」は、あくまで被害者のためにあるものになります。被害者に賠償すれば、所有者は車を事故した運転手の責任を追及できます。つまり、貸した車の運転手のせいで、損害賠償を被害者に支払ったため、賠償金を車の運転手に請求できるのです。
車の所有者が賠償責任を負わないパターン
車の所有者は以下の場合に賠償責任を負わないことがあります。
長期的に車を貸している場合
「運行供用者責任」が認められるのは、あくまでも所有者の運行についてコントロールできる地位や権限がある場合になります。
人に車を長期間にわたって貸していて、運行状況をコントロールできない状態の場合、損害賠償を免れるケースがあります。
例
貸したつもりが、そのまま相手の所有物のような状態になってしまい、それが長期間にわたって続いている場合は、損害賠償の責任を免れることがあります。
事故を起こした場合の自動車保険
友人・他人の車を貸し借りして交通事故を起こした場合、相手に賠償するために使える可能性のある保険は5つあります。
「自賠責保険」、車の所有者が加入している「任意保険」、車の運転手が加入している「任意保険」、「1日自動車保険」、「ドライバー保険」の5つについて解説していきます。
車の所有者が加入している「自賠責保険」
自賠責保険とは?
自賠責保険(正式名称:自動車損害賠償責任保険)は強制保険とも呼ばれ、自賠法(正式名称:自動車損害賠償保障法)によって、車・バイクの所有者に全てに加入が義務付けられている保険です。加入していなければ車検が通らず、一般道を走行することはできません。
自賠責保険の保証の範囲
自賠責保険は、交通事故による被害者の救済を目的としているため、被害者のケガ・死亡による損害のみの補償となっています。
そのため、相手方の物、自分のケガ・物の損害は補償されません。建物、相手の車、自分の車、電車やバスなどの交通機関を壊しても、保険金は一切支払われず、すべて自己負担となります。
自賠責保険は「最低限の補償」の確保を目的としているため、補償額にも限度があります。
対人 | 物損 |
傷害 120万円
(治療費/休業補償/慰謝料) |
あらゆるものに対して補償ゼロ |
死亡時 3,000万円
(逸失利益/治療費/慰謝料/葬儀費用) |
|
後遺障害時 4,000万円
(逸失利益/治療費) |
車の所有者が加入している自動車保険の「任意保険」
車の所有者が加入している自動車保険がついていれば、相手方の怪我・物、自分の怪我、車の損害などを保証することができます。
自動車保険の「任意保険」には、大きく分けて3つの補償があります。
「事故の相手方(人や物)への補償」…賠償責任保険
「自身・搭乗者への補償」…傷害保険
「自身の車の補償」…車両保険
以上の3つの保証を細かく分けると、以下の7つのようになります。
「事故の相手方(人や物)への補償」…賠償責任保険 | 対人賠償保険 |
対物賠償保険 | |
「自身・搭乗者への補償」…傷害保険 | 搭乗者傷害保険 |
人身傷害補償保険 | |
自損事故保険 | |
無保険車傷害保険 | |
「自身の車の補償」…車両保険 | 車両保険 |
事故の相手方(人や物)への補償
対人賠償保険
対人賠償保険とは、相手方の「人」に対する補償です。
交通事故で乗車中の人や、歩行中の人に怪我をさせたり、死亡させたときの法律上の損害賠償に対して、「自賠責保険」を超える部分に保険金が支払われます。
対物賠償保険
対物賠償保険とは、「物」(相手方の車など)に対する補償の保険です。
交通事故を起こして、相手の車、電柱、ガードレールなどの財物に損害を与え、法律上の賠償責任を負った場合に保険金が支払われます。ただし、自分の物である、家の車庫などを壊した場合は適応されません。
自身・搭乗者への補償
搭乗者傷害保険
搭乗者傷害保険とは、契約車両に乗っていた人が、死亡または傷害を負った場合にあらかじめ定められた金額で、保険金が支払われる保険です。
人身傷害補償保険
人身傷害補償保険とは、契約車両の事故によって、乗車中の人が死亡や傷害を負った場合に、実損害額(治療費・休業損害・過失利益など)を補償する保険です。
自損事故保険
自損事故保険とは、契約車両の事故により、相手の車や壁、電柱など他人のモノを壊してしまい、法律上の損害賠償責任を負った場合に補償ができます。保険金額(契約時に設定した金額)が上限です。
無保険車傷害保険
無保険車傷害保険とは、相手方が自動車保険に加入していないなどの理由により、十分な補償が得られない場合に、自身が契約している自動車保険から補償を受けるために加入する保険です。
自身の車の補償
車両保険
車両保険は、自分の車の修理費等を補償する保険です。
補償される運転者の範囲
運転者の範囲を限定する特約について
運転者の範囲を限定する特約として、一般的に「本人限定特約」「本人・配偶者限定特約」「家族限定特約」(保険会社によって呼称が異なります)という3つのタイプがあります。
自動車保険は「本人限定特約」を設定すると、保険料が抑えられる一方、保証対象となる運転者の範囲が限定されます。
運転手を「本人・配偶者限定特約」「家族限定特約」などに限定している場合、貸した車の運転手の起こした事故については保証の対象になりません。車を人に貸す場合は運転者の範囲を限定する特約が「限定なし」になっているかを事前に確認しましょう。
◯「本人限定特約」
保険加入者の本人が運転しているときにのみ自動車保険の補償の対象となります。
◯「本人・配偶者限定特約」
保険加入者の本人とその配偶者が運転しているときにのみ自動車保険の補償の対象となります。
◯「家族限定特約」
保険加入者の本人とその家族が運転しているときにのみ自動車保険の補償の対象となります。
運転者の範囲を限定する特約
運転者の範囲を限定する特約として、自動車保険は「年齢条件」の設定をすると、保険料が抑えられる一方、保証対象となる運転者の年齢範囲が限定されます。
一般的に本人、配偶者、同居の親族以外は年齢を問わず補償されますが、念のため、借りる車の保険会社に確認しましょう。
車の所有者が加入している車の「任意保険」を利用する場合の注意点
車を貸してくれた友人・他人の自動車保険に上記のような「運転者の範囲を限定する特約」がセットされていなければ、万一の事故でも、その車の自動車保険の補償を受けることができます。
ただし、車を貸してくれた友人・他人の自動車保険の補償を受けた場合に、自動車保険の等級が下がることで、翌年以降の保険料負担が重くなってしまいます。そのため、友人・他人に対して大きな経済的負担をかけてしまうことになるため注意して保険を利用しましょう。
車の運転手が加入している自動車保険の「任意保険」
車を貸し借りする際、車の運転主が自動車保険に加入しているかを確認しておく必要があります。
事故をしたときに、友人・他人の自動車保険を使うと、翌年の等級が下がり、友人・他人の自動車保料金が値上がりすることで迷惑をかけてしまいます。そこで、車の運転手が加入している自動車保険が利用できるかどうかを先に把握しておきましょう。
「他車運転特約」について
自分が加入している自動車保険に「他車運転特約」(他車運転の補償に関する特約、他車運転危険保険、他車運転危険補償特約など、保険会社によって名称が異なります)が付帯されていれば、友人・他人の車を運転していたときの事故でも、自分の保険を使って補償ができます。
補償内容は保険会社によって異なりますが、一般的に「対人賠償保険」「対物賠償保険」「自損事故傷害特約」「車両保険」などが補償されています。
「1日自動車保険」
友人・他人と車の貸し借りをする場合は、運転手が1日単位で加入できる1日自動車保険に入るのを検討した方がいいでしょう。保険料はどの保険会社でも24時間でワンコインの500円からとなっており、スマートフォンから手軽な申し込みが可能です。
「1日自動車保険」は友人・他人の自動車保険の「他車運転特約」に含まれていなかったり、自分自身が自動車保険に加入していない場合には入るようにしましょう。
「1日自動車保険」の保険サービス一覧
・三井住友海上の「1DAY保険」
・東京海上日動火災保険の「ちょいのり保険」
・あいおいニッセイ同和の「ワンデーサポーター」
・損保ジャパン日本興亜の「乗るピタ!」
「ドライバー保険」
「ドライバー保険」とは?
「ドライバー保険」とは、運転はするけれど、車を所有していないという人に向けた保険です。保険契約者の借りた車の交通事故を補償してくれます。
「ドライバー保険」は契約期間が原則1年間となっているため、1日だけでも入れる「1日自動車保険」とは違います。
「1日自動車保険」は、誰が契約しても1日あたり、ワンコインからの同じ金額になりますが、「ドライバー保険」は等級や、21歳以上か21歳未満かという年齢で保険料が変わります。頻繁に他人の車を運転する機会があるという場合は、「1日自動車保険」より「ドライバー保険」を利用するといいでしょう。
まとめ
友人・他人の車を貸し借りして交通事故を起こした場合、相手に賠償するために使える可能性のある保険は5つあります。
・「自賠責保険」
・車の所有者が加入している自動車保険の「任意保険」
・車の運転手が加入している自動車保険の「任意保険」
・「1日自動車保険」
・「ドライバー保険」
これらの5つの保険について、まずは自分自身の保険から事前に把握しておき、友人・他人と車の貸し借りをする場合の最適な保険を見つけていきましょう。