運転免許を取りたての方や、久しぶりにハンドルを握るペーパードライバーの方にとって、駐車場での運転は特に緊張する場面ではないでしょうか。スーパーやショッピングモール、コインパーキングなど、私たちの日常に欠かせない駐車場ですが、実は運転の中でも特に事故が起こりやすい場所の一つなのです。
「隣の車にぶつけてしまったらどうしよう…」
「買い物を終えて戻ってきたら、車に傷が…これって当て逃げ?」
そんな不安を感じたことがある方も少なくないはずです。この記事では、そんな駐車場の運転に潜むリスクと、万が一の事態に備えるための具体的な対策、そして事故が発生してしまった際の正しい対応方法について、運転初心者の方にも分かりやすく、丁寧に解説していきます。
この記事を読み終える頃には、駐車場での運転に対する漠然とした不安が解消され、「これなら自分でも落ち着いて対処できそう」と思っていただけるはずです。安全で快適なカーライフを送るために、ぜひ最後までお付き合いください。
なぜ駐車場では事故が多発するのか? その原因を知ろう
まずはじめに、なぜ駐車場で事故が起こりやすいのか、その原因を理解することから始めましょう。原因が分かれば、対策も立てやすくなります。
狭い空間と多くの死角
駐車場は、限られたスペースにできるだけ多くの車を停められるように設計されています。そのため、通路が狭かったり、駐車スペースの幅に余裕がなかったりすることがよくあります。
また、駐車している車自体が大きな壁となり、多くの死角を生み出します。
箇条書きで示すと、以下のような死角が潜んでいます。
- 隣に停まっているミニバンやSUVの影から、急に子供が飛び出してくる。
- 自分の車の柱(ピラーと呼ばれます)の影に、歩行者や他の車が隠れて見えない。
- バックで出庫しようとするとき、後方の通路を走ってくる車に気づきにくい。
このように、見通しの悪い場所が多いことが、駐車場での事故の大きな原因となっています。
人と車の不規則な動き
公道では、車は基本的に決められた方向に走り、歩行者は歩道を歩きます。しかし、駐車場の中ではどうでしょうか。
- 駐車スペースを探してゆっくりと走る車
- バックで駐車しようとしている車
- 買い物を終えて、荷物を抱えながら車に向かう人
- カートを押しながら歩く親子連れ
- 車の間をすり抜けてくる自転車
このように、車と人がそれぞれの目的で、さまざまな方向に、さまざまなスピードで動いています。動きが予測しにくいため、ドライバーは常に周囲の状況に気を配る必要があり、少しの油断が接触事故につながってしまうのです。
駐車操作への集中と注意力の低下
特に運転初心者の方にとって、「バック駐車」は高い集中力を要する難しい操作です。ミラーを見たり、後方を確認したり、ハンドルを操作したりと、同時に多くのことをこなさなければなりません。
この「駐車する」という行為に意識が集中しすぎると、周囲の人や他の車への注意が散漫になりがちです。その結果、駐車スペースの白線や車止めに気を取られているうちに、後ろから来た歩行者に気づくのが遅れてヒヤッとする、といった事態が起こりやすくなります。
今日から実践できる!駐車場での事故を防ぐ運転のコツ
原因が分かったところで、次は具体的な予防策を見ていきましょう。少しの心がけで、事故のリスクはぐっと減らすことができます。
駐車スペースの選び方が重要
安全な駐車は、停める場所を選ぶところから始まっています。焦って空いているスペースに飛びつくのではなく、少しだけ周囲を見渡して、より安全な場所を選びましょう。
見通しが良く、ゆとりのある場所を選ぶ
- 出入り口から少し離れた、比較的空いているエリアを選ぶ。
- 両隣が空いているスペースや、片側が壁や柱になっているスペースは、ドアを開ける際や乗り降りの際に接触するリスク(ドアパンチ)を減らせます。
- 角の駐車スペースは、片側の見通しが良いため、出庫しやすいというメリットがあります。
避けた方が良い場所とは?
- 大型車の隣:死角が大きくなり、出庫時に周囲の状況が確認しづらくなります。また、相手の車のドアが勢いよく開いて、自分の車にぶつかる可能性もあります。
- 坂になっている場所:駐車操作が難しくなるだけでなく、意図せず車が動いてしまうリスクもあります。
- 店舗の出入り口付近:人やカートの往来が激しく、常に注意が必要です。
基本を徹底!安全な駐車(入庫)と出庫のポイント
駐車スペースを決めたら、いよいよ駐車操作です。焦らず、一つ一つの確認を丁寧に行いましょう。
入庫時(駐車する時)のポイント
一般的に、駐車場では前向き駐車よりも後ろ向き駐車(バックでの駐車)が推奨されています。なぜなら、出庫する時に前方から発進できるため、周囲の状況を確認しやすく、安全だからです。
バック駐車が苦手な方も、以下の手順で試してみてください。
- 停めたいスペースの横を、少し間隔をあけてゆっくりと通り過ぎます。
- 自分の車の後部が、停めたいスペースの隣の車の真横あたりに来たら、ハンドルを切り始めます。
- サイドミラーとバックモニター(装備されている場合)を使い、左右の車との間隔が均等になるように、ゆっくりとバックします。
- 車体がまっすぐになったら、ハンドルを戻し、そのままゆっくりと後退します。
- 車止めにタイヤが軽く当たるか、適切な位置まで下がったら停止します。
ポイントは、とにかく「ゆっくり動く」ことです。少しでも危ないと感じたら、ためらわずに一度停止し、状況を確認しましょう。何度か切り返しても全く問題ありません。
出庫時(発進する時)のポイント
駐車場で最も事故が多いのが、実はこの出庫時です。バックで通路に出る際は、特に慎重な操作が求められます。
- 発進する前に、必ず自分の目で周囲の安全を確認します。窓を開けて、音を聞くのも有効です。
- 車を動かすのは、安全が確認できてからです。少しずつ、クリープ現象(アクセルを踏まなくても車がゆっくり動く現象)を利用するくらいのスピードで後退します。
- 通路の車や歩行者が見える位置まで来たら、再度停止して、左右の安全をしっかりと確認します。
- 安全が確認できたら、速やかに通路に出て、進行方向へ向きを変えます。
後方から車が来ているのが見えたら、決して無理に出ようとせず、先に行かせる余裕を持ちましょう。
場内走行は「徐行」が絶対のルール
駐車場内を走行する際は、いつでもすぐに停止できる速度、つまり「徐行」が鉄則です。通路を横切る歩行者や、駐車スペースから急に出てくる車に、いつでも対応できるように備えておきましょう。
また、通路の交差する場所では、必ず一時停止するくらいの気持ちで、左右の安全を確認する習慣をつけることが大切です。
大切な愛車を守る!「当て逃げ」の対策
自分がどんなに気をつけていても、残念ながら相手の不注意によって車を傷つけられてしまう「当て逃げ」のリスクはゼロではありません。しかし、事前の対策で被害に遭う確率を減らしたり、万が一被害に遭った場合に備えたりすることは可能です。
駐車場所を工夫する
事故を防ぐための場所選びは、そのまま当て逃げ対策にもなります。
- 駐車場の端など、隣に車が停まる可能性の低い場所を選ぶ。
- 監視カメラが設置されている場所や、照明が明るい場所に停める。
- 店舗の入り口近くなど、人目につきやすい場所を選ぶ(ただし、人の往来が激しいことによるリスクもあります)。
これらの場所は、当て逃げをしようとする人にとって「見られているかもしれない」という心理的なプレッシャーを与え、犯行を躊躇させる効果が期待できます。
最強の防衛策!ドライブレコーダーの活用
当て逃げ対策として、現在最も有効なのがドライブレコーダーです。特に、「駐車監視機能」が付いたモデルがおすすめです。
駐車監視機能とは、エンジンが停止している駐車中も、車への衝撃や動きを検知して自動的に録画を開始する機能のことです。
ドライブレコーダーを選ぶポイント
- 駐車監視機能の有無:これがなければ当て逃げ対策にはなりません。
- 画質:相手の車のナンバープレートがはっきりと読み取れる、高画質なモデルを選びましょう。
- 撮影範囲:前方だけでなく、後方や360度撮影できるモデルだと、より安心です。
- バッテリー:駐車監視機能は車のバッテリーを使用するため、長時間の監視に対応できるものや、バッテリー上がりを防ぐ機能が付いているものを選ぶと良いでしょう。
ドライブレコーダーを設置していることを示すステッカーを車に貼っておくのも、当て逃げの抑止力として効果的です。
パニックにならないで!もし事故を起こしてしまったら(加害者側の対応)
どんなに気をつけていても、事故を起こしてしまう可能性は誰にでもあります。大切なのは、その時にパニックにならず、冷静に、誠実に対応することです。もし、駐車場の車や物にぶつけてしまったら、以下の手順で行動してください。
手順1:すぐに運転をやめ、安全を確保する
まず、その場で車を停めます。もし、他の車の通行の妨げになるような場所であれば、ハザードランプを点灯させ、周囲の安全を確認しながら、速やかに邪魔にならない場所へ移動させましょう。そして、必ずエンジンを切り、気持ちを落ち着かせます。
「少しこすっただけだから…」と、その場を立ち去ることは絶対にやめてください。これは「当て逃げ」という立派な犯罪(報告義務違反)になり、より重い処分を受けることになります。
手順2:警察に必ず連絡する(110番)
次に、必ず警察に連絡します。これは法律で定められた運転者の義務です。
「相手もいないし、物損だけだから…」
「警察を呼ぶと大事(おおごと)になるのでは…」
と躊躇する気持ちは分かりますが、警察への届け出をしないと、以下のような不都合が生じます。
- 保険を使う際に必要となる「交通事故証明書」が発行されない。
- 当て逃げとして後から通報された場合、立場が非常に悪くなる。
警察官が到着したら、状況を正直に説明してください。
手順3:相手がいる場合は、誠実に対応する
ぶつけてしまった相手の車に運転手が乗っていたり、近くにいたりした場合は、まず丁寧にお詫びをしましょう。そして、相手の怪我の有無を必ず確認してください。たとえ軽い接触でも、相手が痛みなどを訴える場合は、すぐに救急車(119番)を呼びましょう。
その場で示談交渉(「修理代を払いますので…」といった口約束)をすることは、後々のトラブルの原因になるため、絶対に避けてください。連絡先の交換は必要ですが、賠償に関する話は、加入している保険会社の担当者に任せるのが基本です。
手順4:加入している保険会社に連絡する
警察への連絡が終わったら、自分が加入している自動車保険の会社(または代理店)に連絡します。事故受付の窓口は24時間365日対応しているところがほとんどです。
電話で以下の内容を伝えると、その後の対応について的確なアドバイスをもらえます。
- 契約者名、証券番号
- 事故の日時と場所
- 事故の状況
- 相手がいる場合は、相手の情報(氏名、連絡先、車のナンバーなど)
- 届け出た警察署
保険会社の担当者が、今後の示談交渉などを代行してくれます。一人で抱え込まず、プロに任せましょう。
泣き寝入りしない!もし当て逃げされてしまったら(被害者側の対応)
駐車場に戻ってきたら、愛車に見覚えのない傷が…。これは精神的に非常にショックな出来事です。しかし、感情的にならず、冷静に行動することが、解決への第一歩です。
手順1:その場で警察に届け出る(110番)
まず最初にやるべきことは、加害者になった場合と同じく、警察への届け出です。たとえ犯人が見つかる可能性が低いと思っても、必ず届け出てください。
警察に届け出ることで、被害届が受理され、「交通事故証明書」を発行してもらうための手続きができます。この証明書がないと、後で犯人が見つかった場合に損害賠償請求ができなかったり、自分の車両保険を使うことができなかったりします。
手順2:証拠を保全する
警察が来るまでの間、あるいは警察官の指示に従いながら、現場の状況を記録しておきましょう。
- スマートフォンのカメラで、被害箇所をさまざまな角度から撮影する(傷のアップ、車全体、周囲の状況が分かるように)。
- 駐車した時間や、被害に気づいた時間をメモしておく。
- 周辺に落ちているもの(ぶつかった相手の車の塗装片など)があれば、触らずに警察官に伝える。
これらの証拠が、後の捜査の手がかりになる可能性があります。
手順3:ドライブレコーダーの映像を確認する
もし駐車監視機能付きのドライブレコーダーを設置している場合は、すぐに映像を確認しましょう。衝撃を検知して、ぶつかった瞬間の映像が録画されている可能性が高いです。
相手の車のナンバーや車種、運転手の特徴などが映っていれば、犯人特定の極めて有力な証拠となります。映像は上書きされないように、SDカードを抜いて保管し、警察に提出しましょう。
手順4:管理者に連絡し、防犯カメラの映像を確認してもらう
スーパーやショッピングモールなどの駐車場であれば、管理事務所に連絡し、当て逃げされた旨を伝えましょう。駐車場内に設置されている防犯カメラの映像を確認してもらえる可能性があります。
ただし、個人情報保護の観点から、警察からの要請がないと映像を開示してくれない場合がほとんどです。まずは警察に届け出た上で、捜査に協力してもらえるようお願いするのがスムーズです。
手順5:加入している保険会社に連絡する
警察への届け出が終わったら、自分の保険会社にも連絡を入れます。当て逃げによる車の修理に、自分の車両保険が使えるかどうかを相談するためです。
犯人が見つからない場合、修理費は自己負担になってしまいますが、「車両保険」に加入していれば、保険を使って修理することができます。ただし、保険を使うと翌年度の保険料が上がってしまう(等級が下がる)場合があるので、修理代の見積もり額と、保険を使った場合の保険料の値上がり幅を比較して、慎重に判断する必要があります。保険会社の担当者とよく相談しましょう。
知っておくと安心!駐車場事故と保険の基礎知識
最後に、駐車場での事故に関連する保険の知識について、簡単にご説明します。
自損事故(単独事故)の場合
自分の不注意で、駐車場の壁や柱、フェンスなどに車をぶつけてしまった場合です。この場合、自分の車の修理に使えるのが「車両保険」です。ただし、「エコノミー型」と呼ばれるタイプの車両保険では、自損事故は補償の対象外となることが多いので、ご自身の契約内容を確認しておくことが大切です。
対物賠償保険と車両保険
相手の車や、駐車場の設備などに損害を与えてしまった場合は、「対物賠償保険」を使って賠償します。これは、ほとんどの自動車保険に付帯しています。
自分の車の修理には、前述の通り「車両保険」を使います。
当て逃げ被害と車両保険
当て逃げされて犯人が見つからない場合、自分の車の修理には「車両保険」を使うことになります。この場合、自損事故とは異なり、「エコノミー型」の車両保険でも補償の対象となることが一般的です。
ただし、保険を使うと翌年度の等級が3等級ダウンし、保険料が上がってしまいます(一部、1等級ダウンで済む特約もあります)。修理費用が数万円程度の場合は、保険を使わずに自己負担で修理した方が、長期的に見て得になることもあります。
まとめ
駐車場での運転は、多くのドライバーが日常的に行う行為ですが、そこにはさまざまな危険が潜んでいます。しかし、その危険性を正しく理解し、基本的なルールとコツを実践することで、事故のリスクは大幅に減らすことができます。
- 駐車場の特性(狭い、死角が多い、人や車が不規則に動く)を理解する。
- 駐車する場所を慎重に選び、焦らず、ゆっくりと運転操作を行う。
- 「徐行」と「一時停止」を徹底し、常に周囲の状況に気を配る。
- ドライブレコーダーなどのアイテムを活用して、当て逃げなどの不測の事態に備える。
そして何よりも大切なのは、万が一事故の当事者になってしまった時に、パニックにならずに冷静に対処することです。加害者になってしまった場合は、逃げずに誠実な対応を。被害者になってしまった場合は、泣き寝入りせずに証拠を集め、然るべき手続きを踏むこと。
この記事でお伝えした知識が、あなたのカーライフの安心につながれば幸いです。安全運転を心がけ、快適なドライブを楽しんでください。




