万が一、交通事故に遭ってしまったら…。誰しもパニックになり、冷静な判断が難しくなってしまうものです。しかし、そんな時だからこそ、落ち着いて適切な手続きを進めることが、その後の保険請求や話し合いをスムーズに進めるための鍵となります。
そして、その手続きの中心となるのが「交通事故証明書」という書類です。
「名前は聞いたことがあるけど、一体どんな書類なの?」
「どうやって手に入れればいいんだろう?」
「これがないと、何か困ることがあるの?」
特に運転に慣れていない初心者の方や、久しぶりにハンドルを握るペーパードライバーの方にとっては、分からないことだらけで不安に感じてしまいますよね。
この記事では、そんなあなたのために、交通事故証明書の役割から具体的な発行方法、そして保険請求や示談交渉での活用方法まで、どこよりも分かりやすく、そして丁寧にご説明します。
この記事を最後まで読めば、交通事故証明書に関する疑問や不安はすべて解消され、万が一の時にも自信を持って対応できるようになるはずです。さあ、一緒に確認していきましょう。
交通事故証明書とは?まず知っておきたい基本の「き」
まずは、交通事故証明書が一体どのような書類なのか、その基本的な部分から理解を深めていきましょう。
そもそも、どんな書類なの?
交通事故証明書とは、その名の通り「交通事故があったことを公的に証明してくれる書類」です。
警察に届け出があった交通事故について、自動車安全運転センターという機関が発行します。この証明書には、事故に関する客観的な情報が記載されています。具体的には、以下のような内容です。
- いつ(事故発生日時)
- どこで(事故発生場所)
- 誰が(当事者の氏名、住所、連絡先など)
- どんな車で(車両番号など)
- どのような状況で(事故の類型。例えば、車両同士の追突なのか、人との接触なのかなど)
簡単に言えば、「警察が確認した交通事故の記録」と言えるでしょう。この公的な記録があることで、当事者間で「そんな事故はなかった」といったトラブルになるのを防ぎ、事故の存在を第三者に対して明確に証明することができるのです。
なぜ交通事故証明書が必要なの?具体的な使い道
では、なぜこの交通事故証明書がそれほど重要なのでしょうか。その使い道は、主に以下の3つです。
- 保険金の請求に絶対に必要これが最も重要な役割です。自動車保険(自賠責保険・任意保険)を使って、ケガの治療費や車の修理代などを請求する際には、原則としてこの交通事故証明書の提出が求められます。保険会社は、この証明書をもとに「確かに保険金を支払うべき事故が起きたんだな」という事実確認を行います。もしこの証明書がなければ、保険金の支払いが大幅に遅れたり、最悪の場合、支払いを断られたりする可能性もあります。
- 当事者間の話し合い(示談交渉)の土台になる事故の当事者同士で、損害賠償などについて話し合うことを「示談交渉(じだんこうしょう)」と言います。この話し合いの場で、「いつ」「どこで」事故が起きたかといった基本的な事実について意見が食い違うと、交渉はまったく進みません。交通事故証明書は、そうした基本的な事実を確定させる客観的な証拠となります。これにより、話し合いの焦点を「どちらにどれくらいの責任があるのか(過失割合)」といった、より本質的な部分に絞ることができるのです。
- その他の手続きで必要になることも例えば、交通事故によるケガで会社を休む場合、勤務先に提出を求められることがあります。また、将来的に後遺症が残り、障害等級の認定を申請する場合や、残念ながら裁判に発展してしまった場合など、さまざまな公的な手続きで事故の証明として必要になります。
このように、交通事故証明書は、事故後のあらゆる手続きをスムーズに進めるための、いわば「パスポート」のような役割を果たす、非常に大切な書類なのです。
万が一の時に慌てない!交通事故証明書の申請・発行手続きの完全ガイド
交通事故証明書の重要性が分かったところで、次に気になるのは「どうすれば手に入れられるのか」という点でしょう。ここからは、申請から発行までの具体的な流れを、ステップごとに詳しく解説していきます。
ステップ1:まずは警察へ届け出を!証明書発行の大前提
これが最も重要な大前提です。交通事故証明書は、警察に届け出された事故についてのみ発行されます。
どんなに小さな「コツン」とぶつかっただけの物損事故であっても、ケガ人がいないように見えても、必ずその場で警察(110番)に連絡してください。
「相手がいい人そうだから」「急いでいるから」といって、その場で当事者同士だけで話をつけてしまう(いわゆる「示談」)のは絶対にやめましょう。後になってから相手が「やっぱり首が痛い」と言い出したり、修理代で揉めたりするケースは後を絶ちません。
警察に届け出ることは、道路交通法で定められた運転者の義務でもあります。届け出をしないと、証明書が発行されないだけでなく、法律違反にもなってしまうのです。事故が起きたら、まずは安全を確保し、負傷者がいれば救護活動を行い、そして必ず警察に連絡する。この順番を徹底してください。
ステップ2:申請方法は3つ!あなたに合った方法を選ぼう
警察への届け出が済んでいれば、いよいよ交通事故証明書の申請ができます。申請方法は、大きく分けて3つあります。それぞれの特徴を理解して、ご自身に合った方法を選びましょう。
① 警察署・交番での「窓口申請」
最もオーソドックスな方法が、警察署や交番、または自動車安全運転センターの事務所の窓口で直接申請する方法です。
手順はとてもシンプルです。
- 最寄りの警察署、交番、駐在所、または自動車安全運転センターの事務所へ行く。
- 窓口に備え付けられている「交通事故証明書申込用紙」を受け取る。
- 申込用紙に必要事項を記入し、手数料を添えて窓口に提出する。
この方法のメリットは、申込用紙の書き方が分からなければ、その場で職員の方に質問できることです。初めて申請する方でも安心して手続きを進められます。
申請の際には、事故の当事者であることを証明するために、運転免許証などの本人確認書類を持参するとスムーズです。また、警察に届け出た際に、事故の受付番号などを控えておくと、より手続きが早くなります。
申請後、証明書は後日、郵送で自宅に届くか、再度窓口で受け取ることになります。
② 自宅で完結!「郵送申請」
「平日は仕事で、なかなか警察署に行く時間がない…」という方におすすめなのが、郵送での申請です。
この場合は、郵便局の窓口で「交通事故証明書申込用紙(振替用紙と一体になっています)」をもらいます。
- 最寄りの郵便局の窓口で、交通事故証明書の申込用紙が欲しい旨を伝える。
- 申込用紙に、事故の発生日時や場所、当事者の氏名などの必要事項を記入する。
- 記入した用紙と発行手数料を、郵便局の窓口(ゆうちょ銀行)で支払う。
これで申請は完了です。あとは、証明書が自宅に郵送されてくるのを待つだけです。
郵送申請のメリットは、警察署やセンターの窓口が開いている時間に行く必要がないことです。ただし、申込用紙の記入をすべて自分で行う必要があるため、記入例などをよく確認し、間違いのないように注意しましょう。
③ スピーディーな「オンライン申請」
最も手軽で便利なのが、インターネットを使ったオンライン申請です。自動車安全運転センターのウェブサイトから、24時間いつでも申請することができます。
ただし、オンライン申請にはいくつかの条件があります。
- 申請できるのは、事故の当事者本人に限られます。
- 申請には、本人確認のためにマイナンバーカード(または、運転免許証とICカードリーダライタ)が必要です。
手順は以下の通りです。
- 自動車安全運転センターのウェブサイトにアクセスする。
- 画面の指示に従い、事故の情報を入力する。
- マイナンバーカードなどで本人確認を行う。
- 手数料を支払う(クレジットカード、コンビニ払い、ネットバンキングなどが利用できます)。
申請が完了すると、後日、証明書が郵送で自宅に届きます。自宅のパソコンやスマートフォンから、いつでも申請できる手軽さが最大の魅力です。
ステップ3:申請に必要な情報と手数料
どの方法で申請するにしても、以下の情報をあらかじめ準備しておくと手続きがスムーズです。
- 事故が発生した日時(例:令和〇年〇月〇日 午前〇時〇分頃)
- 事故が発生した場所(例:大阪府〇〇市〇〇町〇丁目〇番先路上)
- 事故の当事者の氏名、住所
- 事故を取り扱った警察署名(〇〇警察署)
- 事故の照会番号(警察に届け出た際に教えてもらえる番号。分からなくても申請は可能です)
発行手数料は、1通あたり800円です(2025年10月現在)。申請方法によって、支払い方が異なりますのでご注意ください。
いつからいつまで申請できる?申請期間の注意点
交通事故証明書は、事故発生後すぐに発行できるわけではありません。警察が事故の調査を終え、その情報が自動車安全運転センターに登録されるまでに、通常は数日~1週間程度かかります。
また、申請できる期間には上限が設けられています。
- 人身事故(人が死傷した事故)の場合:事故発生から5年間
- 物件事故(物だけが壊れた事故)の場合:事故発生から3年間
この期間を過ぎてしまうと、原則として証明書は発行できなくなってしまいます。「保険の請求は後でいいや」と先延ばしにしていると、いざ必要になった時に手に入らない、という事態にもなりかねません。事故後は、できるだけ早めに申請手続きを済ませておきましょう。
交通事故証明書の「中身」を徹底解説!どこを見ればいいの?
無事に交通事故証明書が手元に届いたら、まずは記載されている内容をしっかりと確認しましょう。どこに何が書かれているのかを知っておくことで、その後の手続きで慌てることがなくなります。
書かれている内容をチェックしよう
証明書には、主に以下のような項目が記載されています。
- 照会番号:この証明書を管理するための番号です。
- 事故発生日時:事故が起きた年月日と時間です。
- 事故発生場所:事故が起きた具体的な住所や道路名が記載されます。
- 当事者(甲・乙):事故に関わった当事者の情報が記載されます。「甲」と「乙」に分けられており、一般的には、最初に警察に届け出た側が「甲」になることが多いです。
- 氏名、住所、生年月日、連絡先
- 車両の種別(普通乗用車、軽自動車など)
- 車両番号(ナンバープレートの番号)
- 自賠責保険の関係(保険会社名、証明書番号)
- 運転免許証番号
- 事故類型:事故がどのような状況で発生したかを示す分類です。「追突」「出会い頭衝突」「右折時衝突」などが簡潔に記載されます。
- 届出警察署:事故の届け出を受理した警察署名です。
まずは、ご自身の氏名や住所、車両番号などに間違いがないかをしっかりと確認してください。
注意!「過失割合」は書かれていない
ここで一つ、非常に重要な注意点があります。それは、交通事故証明書には「どちらにどれくらいの責任(過失)があるか」という、いわゆる「過失割合」は一切書かれていないということです。
交通事故証明書は、あくまで「こういう事故がありました」という事実を客観的に証明するだけの書類です。「甲が100%悪い」「乙の不注意が原因だ」といった、事故の原因や責任の所在については、何一つ言及していません。
過失割合は、この証明書や、ドライブレコーダーの映像、当事者の証言など、さまざまな情報を元にして、最終的には保険会社同士が話し合って決定するものなのです。この点は、くれぐれも勘違いしないようにしましょう。
保険請求から示談交渉まで!交通事故証明書の賢い使い方
最後に、手に入れた交通事故証明書を、具体的にどのように活用していくのかを見ていきましょう。この書類が、あなたの正当な権利を守るための強力な味方になります。
保険金の請求には「絶対」に必要です
前述の通り、交通事故証明書は保険金の請求手続きにおける必須書類です。
- 自分のケガの治療費を相手の自賠責保険に請求する場合
- 自分の車の修理代を、自分の車両保険や相手の任意保険に請求する場合
- 相手のケガの治療費や車の修理代を、自分の任意保険で支払う場合
など、保険が関わるあらゆる場面で、保険会社から提出を求められます。保険会社は、この証明書に記載された照会番号をもとに、事故の詳細な情報を警察から取り寄せ、保険金を支払うかどうかの判断材料にするのです。
もし証明書を提出できなければ、保険会社は事故の事実確認ができず、手続きがストップしてしまいます。保険請求をスムーズに進めるために、真っ先に準備すべき書類だと覚えておいてください。
示談交渉をスムーズに進めるための「客観的な証拠」として
事故の当事者同士で行う損害賠償の話し合い(示談交渉)は、感情的になりがちで、なかなかスムーズに進まないことも少なくありません。お互いの記憶が曖昧だったり、自分に有利なように事実を曲げて主張したりすることで、「言った・言わない」の泥沼に陥ってしまうこともあります。
そんな時、交通事故証明書が大きな力を発揮します。
この証明書には、公的機関である警察が確認した「事故発生日時」「場所」「当事者」といった客観的な事実が記載されています。そのため、これらの基本的な事柄について、当事者間で争う余地がなくなります。
これにより、交渉のテーブルが整い、「過失割合をどうするか」「損害額はいくらが妥当か」といった、より建設的な話し合いに集中することができるのです。示談交渉における、いわば「共通のルールブック」のような役割を果たしてくれるのです。
もし内容に間違いを見つけたら?
万が一、手元に届いた交通事故証明書の内容に、ご自身の氏名や住所、車両番号などの明らかな間違いを見つけた場合は、絶対に放置してはいけません。
すぐに、事故の届け出をした警察署の交通課に連絡し、内容に誤りがあることを伝えて、訂正の手続きについて相談してください。
間違った情報のまま手続きを進めてしまうと、保険金の支払いが遅れたり、本人確認が取れずにトラブルになったりする可能性があります。証明書を受け取ったら、まずは内容を隅々まで確認する習慣をつけましょう。
こんな時どうする?交通事故証明書にまつわるQ&A
ここでは、交通事故証明書に関して、多くの方が疑問に思う点をQ&A形式で解説します。
Q1. 相手が警察に届け出てくれない場合は?
残念ながら、事故の相手が「警察を呼ばないでほしい」と言ってくるケースがあります。しかし、前述の通り、警察への届け出は運転者の義務です。相手が拒否したとしても、あなた自身が必ず警察に届け出てください。
あなた一人からの届け出であっても、警察は事故として受理し、捜査を行います。そして、その届け出に基づいて交通事故証明書は発行されますので、ご安心ください。
Q2. 警察を呼ばなかった場合は、もう発行できない?
その場で警察を呼ばずに当事者だけで別れてしまった場合、後から交通事故証明書を発行することは非常に難しくなります。
事故から時間が経ってしまうと、事故現場の状況も変わり、客観的な事実確認が困難になるためです。後日、警察に届け出たとしても、必ず受理されて証明書が発行されるとは限りません。
やはり、事故が起きたら「その場で必ず警察を呼ぶ」という原則を徹底することが何よりも重要です。
Q3. 加害者でも被害者でも申請できる?
はい、申請できます。交通事故証明書は、事故の当事者(加害者・被害者)であれば、どちらの立場からでも申請することが可能です。また、損害賠償請求権のある親族や、保険金の受取人なども申請することができます。
Q4. 何枚くらい必要になる?
一般的には、ご自身が加入している任意保険会社に1通、相手方の自賠責保険会社に請求する場合はそちらにも1通、といったように、関係する保険会社の数だけ必要になる可能性があります。また、勤務先への提出や、その他の手続きで必要になることも考えられます。
何枚必要になるか分からない場合は、申請前に保険会社や勤務先に確認しておくとよいでしょう。複数枚必要な場合は、一度にまとめて申請することができます。
まとめ
今回は、交通事故証明書の役割から申請方法、活用法までを詳しく解説してきました。最後に、この記事の重要なポイントを振り返ってみましょう。
- 交通事故証明書は、事故があったことを公的に証明する、保険請求や示談交渉に不可欠な書類です。
- 証明書を発行してもらう大前提は、事故発生後すぐに警察へ届け出ることです。
- 申請方法は「警察署などでの窓口申請」「郵送申請」「オンライン申請」の3つがあり、自分に合った方法を選べます。
- 証明書には事故の客観的な事実が記載されますが、「過失割合」は書かれていません。
- 事故後の手続きをスムーズに進めるための「お守り」として、万が一の時に備え、その重要性と手続きの流れをしっかりと覚えておきましょう。
交通事故は、誰の身にも起こりうる出来事です。しかし、事前に正しい知識を身につけておけば、いざという時に慌てず、冷静に対処することができます。この記事が、あなたのカーライフの安心に繋がり、より一層の安全運転を心がけるきっかけとなれば幸いです。



