電動モビリティ(eモビリティ)とは、モーターとバッテリーを搭載し、電気の力で走行する乗り物の総称です。近年はガソリン車だけでなく、電動自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、電動アシスト自転車、電動キックボード(電動スクーター)、マイクロモビリティ(超小型EV)、高齢者向けシニアカーなど、さまざまな形態の電動モビリティが登場しています。これらは大まかに以下のような種類に分類できます。
- 電動自動車・超小型EV:バッテリーを搭載する電気自動車のことです。通常の乗用車サイズのものから、1~2人乗りのコンパクトな「超小型モビリティ(マイクロカー)」まで含まれます。超小型モビリティは従来の軽自動車より小さく、最高速度60km/h以下に抑えるなど都市部の近距離移動に適した車両です。
- 電動バイク・電動アシスト自転車:自転車やバイクにモーターが付いたタイプです。ペダルをこいでモーターを併用する一般的な電動アシスト自転車とは異なり、スロットル(アクセル)操作のみで走る完全電動の「モペット型電動バイク」も含まれます。これらはモーター出力0.6kW以下であれば原付自転車扱いとされ、一定の小型基準を満たすと“特定小型原付”となって免許不要で乗れます。
- 電動キックボード・パーソナルモビリティ:片足で立って乗る電動キックボード(電動スクーター)や、機体の上で立つまたは座って走る小型の電動二輪・三輪車などです。欧米では都市部でのシェアリングサービスが進み、日本でも近年普及が話題になっています(詳細は後述)。
- シニアカー・個人用電動カート:高齢者や身体不自由者の移動を支援する電動三輪・四輪車です。道路交通法上は歩行者扱いで歩道走行が可能なものが多く、運転免許が不要な簡易なモビリティです。買い物や通院などの近距離移動を楽にする生活支援ツールとして注目されています。
規制緩和の背景
電動モビリティの普及を後押しする背景には、社会の変化が大きく関わっています。まず脱炭素(カーボンニュートラル)の流れです。日本政府は2050年の温室効果ガス排出実質ゼロを目指し、2035年までに乗用車の新車販売を電動車(EV・PHEV・FCV)のみとする目標を掲げています。同様に欧米でも自動車産業の電動化が加速しており、IEA(国際エネルギー機関)によれば2035年には世界で走る車の4台に1台以上がEVになると予測されています。
また超高齢社会を迎えた日本では、高齢者の移動手段の確保が課題です。運転免許を返納しても歩行に不安がある高齢者向けに、シニアカーのような電動モビリティが移動の選択肢として注目されています。さらに都市部では交通渋滞や公共交通機関の混雑・回避、そして新型コロナ禍以降の密回避ニーズなどを背景に、柔軟で省エネな個人用移動手段の需要が高まっています。
日本における規制緩和の動き
こうした背景から、日本でも電動キックボードや小型電動車両に関する規制緩和が進んでいます。2023年7月1日施行の道路交通法改正により、一定の基準を満たす電動モビリティ(モーター出力0.6kW以下、最高速度20km/h以下、車体サイズ制限あり、オートマ車、表示灯装備など)が「特定小型原動機付自転車」に区分され、16歳以上であれば運転免許不要となりました。これにより条件をクリアした電動キックボードやモペット型バイクは一般車道の走行が認められ、高齢者でも手軽に利用しやすくなっています。一方、基準を満たさない電動モビリティは従来どおり「一般原付」や「二輪車扱い」になり、普通自動車や原付バイクと同等の免許やナンバープレートが必要です。
- 運転年齢とヘルメット:特定小型原付は16歳以上が運転でき、16歳未満は運転禁止です。ヘルメットの着用は努力義務(望ましい義務)とされ、安全面でも注意喚起が行われています。
- ナンバープレート等の要件:特定小型原付には専用の小型ナンバープレートを装着し、自賠責保険への加入が義務付けられます。また、車体後方に最高速度表示灯を付けるなど保安基準への適合も求められます。なお、2023年7月前に製造された車両については2024年末までの間、表示灯がなくとも型式認定や認定シールで代用できる経過措置が設けられました。
これらの改正により、日本でも電動キックボードを含む小型電動車両が“走ることのできる法的位置づけ”を得て、普及への大きな一歩となりました。今後は新たなルールへの周知やマナー形成、安全教育が重要です。
海外の動向
欧米各国でも電動モビリティの普及と規制整備が進んでいますが、国や都市によって対応はさまざまです。ヨーロッパでは、ドイツが2019年から公道での電動キックボード利用を認めるなど比較的早期に導入しました。フランスもパリ市などでシェアリングサービスが盛んですが、安全性やマナーを問題視し、規制強化の動きがあります。例えば2023年にはパリ市で電動キックボードのシェアサービス存廃を問う住民投票が実施され、投票率は低かったものの89%が廃止支持という結果に。フランス政府はさらに2023年3月に12歳以上だった運転年齢を14歳に引き上げ、二人乗り禁止、ブレーキランプ義務化など罰則強化を発表しました。ただしフランス国内では約250万人が既に電動キックボードを利用しており、一部では2050年カーボンニュートラルに貢献する手段とも位置付けられています。
アメリカでは連邦法に明確な規定がなく、州や都市ごとに対応が分かれています。ニューヨーク市では2020年11月に電動キックボードが合法化されましたが、それまでは完全に電動で走る乗り物は全て違法とされており、多くの違反件数が発生していました。カリフォルニア州など複数の州では州法で年齢制限やヘルメット規定、最高速度制限などを定める一方、地方自治体がさらに細かいルールを設定しています。
普及に向けたメリットと課題
電動モビリティにはメリットと課題が共存します。
- メリット
- 環境負荷の低減:ガソリンエンジンに比べて走行中のCO₂排出がゼロのため、地球温暖化対策に貢献します。騒音も小さく、都市部での静音化に寄与します。
- 移動の効率化・利便性:小型で機動性が高いため、渋滞回避や近距離移動に適しています。シェアリング車両を利用すれば、駐車の手間も省け、多様な交通手段との組み合わせ(MaaS化)も期待できます。
- 高齢者・身体の不自由者支援:シニアカーなど電動機器は、免許不要・歩道走行可で高齢者の移動を助けます。免許返納後も一定の移動手段を確保できる点は社会的意義が大きいです。
- 国策との整合性:日本政府は2035年までに乗用車販売100%電動車という目標を掲げており、充電インフラ整備や普及支援策も進められています。政策的にも後押しを受けている点は普及メリットと言えます。
- 課題
- 安全性・マナーの確保:高速な移動が可能な電動キックボードの事故も増えており、例えばフランスでは2021~2022年に電動パーソナルモビリティによる重大事故が38%増加したとの報告もあります。歩行者との接触やヘルメット未着用による負傷リスクなど、安全対策が喫緊の課題です。ルールを守る交通教育やシェアリング事業者による利用者登録・保険加入の徹底が求められます。
- 法制度・インフラの未整備:日本でも急激なルール変更に現場が追いついていない面があります。電動車両をどこまで許可するか、歩道走行の可否、駐車ルールなど未解決のグレーゾーンも残っています。また、充電インフラの整備も重要です。現状、日本のEV普及率は2023年で3~4%と世界平均(約19%)に比べ低く、特に公共充電の待ち時間に対する満足度は極めて低いという指摘があります。政府は急速充電器設置規制の緩和を発表するなど対応を進めていますが、さらなる充電網の拡充が不可欠です。
- コスト・運用上の課題:電池コストや維持費、レンタル車両の管理・盗難防止など、商業面や運用面の課題もあります。電池の長寿命化やリサイクル体制の整備、省スペース充電技術の開発など技術的課題も残っています。
今後の普及予測
世界的に電動モビリティは急成長しています。IEAによれば2023年の世界EV販売台数は約1,400万台(新車販売の約18%)に達し、前年比35%増の急拡大となりました。自動車メーカーや政府目標を合わせると2030年には年間4,500万台以上、2035年には6,500万台近くのEVが販売される可能性が指摘されています。またEV保有台数は2030年に約2.5億台、2035年には5.25億台に達すると予測されており、2035年には路上に走る車の4台に1台以上が電気駆動車になると見込まれています。これらの数値を表にまとめます。
年 | 世界EV年間販売台数 | 世界EV累積保有台数(予測) |
---|---|---|
2023年(実績) | 約1,400万台 | ― |
2030年(予測) | 約4,500万台 | 約2億5,000万台 |
2035年(予測) | 約6,500万台 | 約5億2,500万台 |
日本ではまだEV普及率が低いのが現状です。2023年の新車販売に占めるEV比率は約4%で、世界平均を大きく下回っています。しかし政府目標達成に向け、急速充電器の拡充や購入補助、公共・社用車の電動化促進など各種施策が動いています。高速道路や都市部での電動モビリティ利用が増えることで、今後は統計上も大きく数値が伸びることが期待されます。
以上のように、電動モビリティは脱炭素・高齢化・都市交通の変化といった社会的要因を背景に規制緩和が進んでおり、その普及は今後も加速する見込みです。ただし、安全面や法整備・インフラ整備の課題も多く残されています。初心者の方も、最新のルールやマナー、安全装備(ヘルメットなど)をよく理解した上で、電動モビリティを利用することが大切です。電動モビリティに親しみを持ちつつ、未来の交通変革に備えましょう。