対物賠償保険とは?補償範囲と保険金額をわかりやすく解説

対物賠償保険とは?補償範囲と保険金額をわかりやすく解説

自動車保険において「対物賠償保険」という言葉を耳にすることがあります。これは、運転中の事故によって他人の所有物に損害を与えてしまった場合に、その損害賠償金を補償してくれる保険です。自動車保険を契約する際に「対物賠償保険は無制限にしておいたほうが良い」「そもそも自賠責保険とは何が違うの?」と悩む方は少なくありません。万が一の事故時に頼りになる対物賠償保険ですが、正しく理解していないと、思わぬ高額の賠償がのしかかる可能性があります。

本記事では、対物賠償保険の概要や補償範囲、どのくらいの保険金額を設定すべきかについて詳しく解説します。また、加入の際に知っておきたい「対物超過特約」のポイントや、保険を使った場合の等級ダウンについてもあわせて確認しておきましょう。万が一、事故を起こしてしまったときに慌てずに済むよう、対物賠償保険の知識をぜひ身につけてください。

対物賠償保険とは何か

対物賠償保険の仕組み

対物賠償保険とは、自動車事故で他人の持ち物(車・家屋・店舗・公共物など)を壊してしまった場合に、その修理費用や損害賠償金を補償してくれる任意保険の一種です。法律上の損害賠償責任を負うことになった場合に、契約した保険金額を上限に保険金が支払われます。

たとえば、あなたが運転中にブレーキとアクセルを踏み間違え、コンビニや飲食店に突っ込んでしまったとしましょう。店舗の壁や商品を破損すれば、修理費用や破損品の補償を支払う責任が生じます。さらに、営業を続けられなくなった分の休業損害にまで賠償が及ぶ可能性があります。そういった高額な費用を補償してくれるのが対物賠償保険です。

このように、対物賠償保険は「あらゆる他人の財物に対する修理費用や損害賠償費用」をまかなう重要な保険であり、一般的に自動車保険の基本補償のひとつとして組み込まれています。

自賠責保険との違い

車を所有する全員が必ず加入しなければならないのが自賠責保険です。しかし、自賠責保険がカバーするのは「人(対人事故)」に対する損害賠償責任のみであり、他人の財物(モノ)に対する補償は一切含まれません。

対物賠償保険は、他人の持ち物に損害を与えてしまった際の賠償に備えるものです。大きな事故を起こしてしまうと莫大な賠償金が発生する可能性があるため、自賠責保険だけではリスクヘッジが十分とは言えません。そこで任意保険である対物賠償保険をセットするのが一般的となっています。

対物賠償保険の補償範囲

補償対象になるケース

対物賠償保険で補償されるのは「他人が所有または使用・管理しているもの」に対して被保険者が与えた損害です。具体的には下記のような事例が代表的です。

– 相手方の車
– 家屋やマンション等の建物
– お店、ショーウィンドウ、商品
– 信号機や電柱、ガードレール、街灯などの公共物
– バスやタクシーなどの営業用車両(休業損害も含む)

たとえば、自宅近くの道路で停車していた車に追突してしまったり、アクセルとブレーキを踏み間違えてお店に突っ込んでしまったりしたケースが該当します。店舗や商品を壊してしまったときは修理費用だけでなく、営業ができなくなった期間の休業損害まで求められるため、高額な支払いが発生する可能性があります。

また、公共物に対して損害を与えた場合も補償対象です。道路の中央分離帯やガードレール、電柱、鉄道の車両や線路などに損害を与えた際にも多額の賠償が必要になることがあります。

補償されない主な場合

一方で、以下のようなケースでは対物賠償保険による補償が受けられないことに注意しましょう。

– 記名被保険者やその家族が所有する車や財物への損害
– 被保険自動車の運転者(自分を含む)の故意によって生じた損害
– 地震、噴火、津波、台風、洪水、高潮などの天災による損害
– 自動車保険の契約対象外となる運転者の事故

たとえば、自宅の車庫に停めようとしてアクセルを踏み間違え、自分の車と自宅の車庫・塀を破損させたような場合は、すべて自分の財物なので対物賠償保険は適用されません。また、同居の親族が所有する車にぶつけても対象外になるため、自分や家族の財物を壊したときに対物賠償保険は使えない点に注意してください。

被保険者の範囲

対物賠償保険の被保険者になるのは、主に以下のいずれかの条件を満たす人です。

1. 保険証券に記名されている被保険者(記名被保険者)
2. 記名被保険者の配偶者
3. 記名被保険者やその配偶者の同居の親族
4. 記名被保険者やその配偶者の別居の未婚の子
5. 記名被保険者の承諾を得て被保険自動車を使用または管理している人
6. 記名被保険者の使用者(従業員など)

さらに、「運転者の範囲」に制限をかけている場合は、その範囲外の家族や知人が運転中に事故を起こした場合、保険が適用されない可能性があります。契約時に運転できる範囲をしっかり把握し、必要に応じて範囲を広げる・限定するなどの設定を行うことが大切です。

保険金額はいくらに設定するべき?

対物賠償保険には補償金額に上限があります。保険会社や保険商品によって選択できる金額は異なりますが、たとえば500万円、1000万円、2000万円、3000万円、5000万円、そして「無制限」などが一般的な設定例です。

実際のところ、「数千万円単位」の賠償が発生する可能性は、そう頻繁にあるわけではありません。しかし、事故の内容次第では1億円を超える高額の損害賠償が認められた判例も存在します。店舗や列車を巻き込むような大規模事故は、損害額が跳ね上がる典型的な例です。こうしたリスクを考えると、対物賠償保険は基本的に「無制限」を選んでおくのが安心といえます。

無制限がおすすめの理由

「対物賠償保険を無制限にすると保険料がすごく上がるのでは?」と心配になる方もいます。しかし、多くの場合は上限額を設定するプランと比べても、劇的に高額になるわけではありません。わずかに保険料が増えるとしても、「大事故を起こしてしまったときの経済的リスク」を考えれば、無制限のほうが安心感は大きいでしょう。

たとえば、住宅地での居眠り運転で家屋に突っ込み、家だけでなくライフライン設備までも損傷させてしまったとします。家の修理費用や家具・家財の破損費用、公共物の修繕費用、さらには被害者の方が住めなくなる期間の仮住まい費用や営業停止による損失など、さまざまな費用が請求されるかもしれません。そうなると、数千万円以上の賠償になる可能性は十分にあります。わずかな保険料差で高額の賠償リスクをカバーできるなら、対物賠償保険は無制限にしておいたほうが無難です。

高額な賠償事例

実際にあった自動車事故の判例でも、1億円近い損害賠償が認定されたケースがあります。以下はその一部例です(参考:損害保険料算出機構「自動車保険の概況」など)。

– 約2,600万円:高額な積荷(呉服・毛皮・洋服など)を積んだトラックとの事故
– 約1億円を超えるケース:鉄道車両と線路の破損に加え家屋への損害が発生
– 約1,300万円:パチンコ店に車が突っ込み、店舗の修理費や休業損害などを請求

このような大きな事故は、運転者のちょっとした不注意でも起こりえます。とくに商業施設や公共交通機関を巻き込んだ場合、被害額が膨れ上がる傾向にあります。もし対物賠償保険を低い補償限度額で設定していた場合、自己負担が莫大になりかねません。そういったリスクを回避するためにも、できる限り無制限を選ぶことが推奨されます。

対物賠償保険を使った場合の等級への影響

自動車保険には「ノンフリート等級制度」という仕組みがあり、事故による保険金の支払いがあると、翌年度の等級が下がる(ダウンする)ことで保険料が上がります。一般的には、対物賠償保険を使った場合は3等級ダウンが適用されるのが通例です。

たとえば、事故前が12等級であれば、翌年は9等級に下がることになります。等級が下がると翌年の保険料が高くなるため、「今回の事故で保険を使うかどうか」を迷う場面もあるでしょう。ただし、対物賠償は金額が大きくなることも多いため、無理に自腹で賠償するよりは保険を使ったほうが圧倒的にリスクを抑えられることが多いです。修理費用や損害賠償が高額になりそうな場合は、迷わず保険を利用するのが現実的といえます。

対物超過特約とは?

対物賠償保険では「時価額」を基準に保険金が支払われます。そのため、相手の車の時価額を超える修理費用が発生しても、通常は時価額を上限として保険金が支払われる仕組みです。古い車であっても相手が大切に乗っていた場合、修理費用が時価額を上回ることがあり、そこでトラブルに発展するケースも見られます。

対物超過特約が役立つ場面

「対物超過特約(対物差額修理費用補償特約などとも呼ばれる)」を付帯していると、相手の車の修理費が時価額を超えてしまった場合にも、一定の限度額まで上乗せして補償が可能になります。あくまで保険金額を超過した修理費を支払う法的義務はないとはいえ、以下のような理由からトラブルを回避できるメリットがあります。

– 被害者が修理を望んでいる古い車の場合、時価額を超える修理費が出ても、ある程度こちらで負担できる。
– 自動車事故後の示談交渉を円滑に進めることができる。
– 修理費が時価額を超えているため、本来は保険会社が支払いを拒否できるケースでも、特約があれば補償範囲内で保険金が出る。

被害者の立場に立つと、「修理費を全額補償してもらえない」という不満が示談を長引かせる原因になることもあります。スムーズな解決を望むのであれば、対物超過特約は非常に役立つオプションといえるでしょう。

トラブル回避のための特約選択

相手の車が希少価値のある旧車だったり、特別なカスタムを施してある高級車だったりするケースでは、時価額より高い修理費が見込まれることがあります。そうなると、被保険者としては修理費をすべて賠償する義務はないとはいえ、被害者との交渉が難航しがちです。

対物超過特約を付帯しておけば、相手の要望に対応できる範囲が広がり、紛争を回避する大きな手助けになります。特に近年は、車のカスタマイズや希少車が増えつつあり、予想を上回る修理費がかかる可能性も十分考えられます。保険料を大幅に引き上げる特約ではないことが多いので、示談交渉を円滑にするためにも加入を検討してみると良いでしょう。

まとめ

対物賠償保険は、運転中の事故で他人の財物に損害を与えてしまった場合に、その修理費用や損害賠償額を補償してくれる非常に重要な保険です。自賠責保険では補償されない「モノ」に対する損害に備えるため、ほとんどの自動車保険で基本補償として設定されています。近年では、建物や店舗を巻き込んだ事故、公共交通機関を巻き込んだ事故など、高額賠償が必要となる事例が決して珍しくありません。

補償金額に関しては無制限が推奨されます。わずかな保険料の違いで、大きなリスクから身を守れるからです。万が一、多額の損害賠償を請求される状況を想定すると、無制限の設定は安心材料となるでしょう。また、対物賠償保険を使った場合は翌年度のノンフリート等級が3等級ダウンするため、保険料は上がります。それでも、大きな賠償が発生するリスクを考えれば、保険を使う意義は充分にあります。

さらに、相手車両の修理費が時価額を超えてしまった際のトラブルを回避するためには、対物超過特約を付帯することも重要なポイントです。時価額を上回る修理費には法的賠償義務はないとしても、被害者との示談が難航すると精神的な負担も大きくなります。この特約を付けておくことで交渉が円滑に進む場合も多く、結果的にお互いが納得しやすい解決につながります。

対物賠償保険は、対人賠償保険と並んで非常に大切な任意保険の柱です。自賠責保険ではまかないきれない財物への損害をカバーし、運転者の生活を守ってくれます。運転には常に事故のリスクがつきまとうため、補償内容をしっかりと理解したうえで、いざというときに備えることが大切です。万が一の事態に経済的にも精神的にも困らないよう、補償金額や特約の付帯を検討してみてください。

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