危険運転とは?
危険運転は、一瞬にして重大な事故を引き起こし、あなた自身や他の人々の人生を大きく変えてしまう可能性があります。しかし、危険運転に関する正しい知識を持ち、適切な対策を講じることで、事故のリスクを大幅に減らすことができます。
この記事では、危険運転の種類、罰則、遭遇した際の対処法、そして未然に防ぐための予防策について、詳細な解説を提供します。あなた自身、同乗者、そして周囲の人々を守るために、ぜひ最後までお読みください。
危険運転の種類:6つの典型的な行為
危険運転とは、飲酒や薬物の影響下での運転、制御不能な速度での走行など、人命を危険にさらす運転行為を指します。日本の法律では、自動車運転死傷行為処罰法(以下、自動車運転処罰法)第2条および第3条で危険運転が規定されており、これらの行為によって人を死傷させた場合、危険運転致死傷罪として厳しく罰せられます。
ここでは、危険運転致死傷罪に該当する6つの主な行為について詳しく解説します。
1. 酩酊危険運転:アルコールや薬物の影響下での運転
酩酊危険運転とは、アルコールや薬物の影響により、正常な判断能力や運転能力が低下した状態で車を運転する行為です。これは、たとえ人身事故を起こさなかったとしても、道路交通法違反(酒気帯び運転、酒酔い運転、麻薬等運転)として取り締まりの対象となります。
- アルコールの影響: アルコールは、少量でも脳の機能を低下させ、判断力、注意力、反応速度を鈍らせます。これにより、危険を察知する能力や、適切な運転操作を行う能力が著しく低下します。
- 薬物の影響: 薬物(違法薬物だけでなく、一部の処方薬や市販薬も含む)は、アルコールと同様に、またはそれ以上に、運転能力に悪影響を及ぼす可能性があります。薬物の種類によっては、幻覚、妄想、意識障害などを引き起こし、極めて危険な状態となります。
2. 高速度危険運転:制御不能な速度超過
高速度危険運転とは、一般的に「スピード違反」と呼ばれるもので、車両の制御が困難になるほどの速度で走行する行為を指します。道路標識や道路標示によって定められた制限速度、または法定速度を超える運転は、道路交通法違反(速度超過)となり、罰則や違反点数の対象となります。
- 速度と危険性の関係: 速度が上がるほど、制動距離(ブレーキをかけてから車が停止するまでの距離)が長くなり、衝突時の衝撃も大きくなります。また、視野が狭くなり、周囲の状況を把握することが難しくなります。
- 速度超過のリスク: 速度超過は、自損事故だけでなく、他者を巻き込む重大事故につながる可能性が非常に高いです。特に、歩行者や自転車との事故では、速度がわずかに違うだけで、被害者の生死を分けることになります。
3. 技能欠如危険運転:運転技量不足による危険な運転
技能欠如危険運転とは、運転に必要な技能が不足しているにもかかわらず、車を運転してしまう行為です。ハンドル操作、ブレーキ操作、安全確認などの基本的な運転技術が未熟なまま運転することは、自分自身だけでなく、周囲の人々を危険にさらす行為です。
- 運転免許の有無: 運転免許を持っていない人が運転することは、当然ながら技能欠如危険運転に該当します。
- 運転経験の不足: 運転免許を取得していても、運転経験が浅い場合は、技能が不足していると判断されることがあります。
- 高齢者や病気の影響: 高齢による身体能力の低下や、特定の病気(認知症、てんかん、睡眠時無呼吸症候群など)の影響により、運転に必要な技能が低下している場合も、技能欠如危険運転に該当する可能性があります。
4. 通行妨害目的危険運転:悪質な「あおり運転」
通行妨害目的危険運転とは、いわゆる「あおり運転」と呼ばれる行為で、他の車両や歩行者の通行を妨害する目的で、危険な運転を行うことを指します。具体的には、以下のような行為が該当します。
- 車間距離不保持: 前方を走行する車両に極端に接近し、圧迫感を与える。
- 急な割り込み: 危険なタイミングで他の車両の前に割り込む。
- 幅寄せ: 他の車両に接近し、進路を妨害する。
- 蛇行運転: 理由もなく、左右に車体を振る。
- 不必要なクラクション: 威嚇目的でクラクションを鳴らし続ける。
- パッシング: 必要もないのに、ハイビームを繰り返し点灯させる。
これらの行為は、被害者に恐怖心や不安感を与えるだけでなく、事故を誘発する可能性が非常に高いです。
5. 信号無視危険運転:赤信号無視と速度超過の組み合わせ
信号無視危険運転とは、赤信号を無視して交差点に進入し、かつ、危険な速度で走行することで、人を死傷させる行為を指します。単に赤信号を無視しただけでは、この危険運転には該当しません。「赤信号無視」と「危険な速度での走行」の両方が組み合わさることが要件となります。
- 信号無視のリスク: 赤信号無視は、交差点での出会い頭の衝突事故を引き起こす可能性が非常に高いです。
- 速度超過との組み合わせ: 信号無視に加えて、速度超過が組み合わさると、衝突時の衝撃がさらに大きくなり、被害が深刻化する可能性が高まります。
6. 通行禁止道路危険運転:通行禁止場所での危険な走行
通行禁止道路危険運転とは、道路標識や道路標示によって通行が禁止されている場所を、危険な速度で走行し、その結果、人を死傷させる行為を指します。
- 通行禁止場所の例:
- 車両通行止め
- 歩行者専用道路
- 自転車専用道路
- 一方通行路の逆走
- 高速道路の逆走
- 立ち入り禁止区域
これらの場所は、歩行者や自転車など、交通弱者が通行することを想定しているため、車両が進入すること自体が非常に危険です。
危険運転の罰則:自動車運転処罰法による厳しい処罰
危険運転によって人を負傷させたり、死亡させたりした場合、危険運転致死傷罪として、非常に重い罰則が科せられます。危険運転致死傷罪は、2001年の刑法改正で導入され、その後、2013年に自動車運転処罰法として独立した法律に規定されました。
自動車運転処罰法では、危険運転致死傷罪を第2条と第3条に分けて規定しており、それぞれ罰則の内容が異なります。
自動車運転処罰法第2条に該当する場合
以下の行為によって人を死傷させた場合、自動車運転処罰法第2条が適用されます。
- アルコールまたは薬物の影響による酩酊運転: アルコールまたは薬物の影響により、正常な運転ができない状態で運転し、人を死傷させた場合。
- 制御不能な高速度運転: 進行を制御することが困難な高速度で運転し、人を死傷させた場合。
- 技能欠如運転: 進行を制御する技能がないのに運転し、人を死傷させた場合。
- 通行妨害目的運転(あおり運転): 人または車の通行を妨害する目的で、幅寄せ、急接近、蛇行運転などの危険な運転をし、人を死傷させた場合。
- 信号無視危険運転: 赤色信号を無視し、かつ、進行を制御することが困難な高速度で運転し、人を死傷させた場合。
- 通行禁止道路危険運転: 通行禁止道路を進行を制御することが困難な高速度で運転し、人を死傷させた場合。
罰則:
- 死亡させた場合: 1年以上20年以下の有期懲役
- 負傷させた場合: 15年以下の懲役
自動車運転処罰法第3条に該当する場合
以下の行為によって人を死傷させた場合、自動車運転処罰法第3条が適用されます。
- アルコールまたは薬物の影響による運転: アルコールまたは薬物の影響により、正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転し、人を死傷させた場合。
- 特定の病気の影響による運転: 特定の病気(てんかん、再発性の失神、低血糖症、睡眠障害など)の影響により、正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転し、人を死傷させた場合。
罰則:
- 死亡させた場合: 15年以下の懲役
- 負傷させた場合: 12年以下の懲役
自動車運転処罰法第2条と第3条の違いは、第2条が「正常な運転ができない状態」を対象としているのに対し、第3条は「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」を対象としている点です。つまり、第3条は、より軽い酩酊状態や、病気の影響が軽度な場合でも適用される可能性があります。
危険運転に遭遇した際の対処法:身を守るための4つのステップ
もし、あなたが危険運転に遭遇してしまったら、どのように対処すればよいのでしょうか?ここでは、特に悪質性や危険性が高い「あおり運転」に遭遇した場合の対処法を、4つのステップで解説します。
ステップ1:相手から離れる
あおり運転を受けていると感じたら、まずは冷静になり、相手から距離を取ることが最優先です。
- 速度を落とす: スピードを上げて逃げようとするのは逆効果です。速度を落とし、相手との車間距離を広げましょう。
- 道を譲る: 一般道であれば、安全な場所(路肩など)に停車し、相手に先に行かせましょう。
- 避難場所を探す: 相手が執拗に追ってくる場合は、サービスエリア、パーキングエリア、コンビニエンスストアなど、人目のある場所に避難しましょう。
ステップ2:ドアや窓を開けない
相手が車から降りてきたり、近づいてきたりしても、絶対にドアや窓を開けてはいけません。相手が何を言おうと、無視を貫きましょう。
- ロックを確認: ドアロックがかかっていることを確認しましょう。
- 窓を閉める: 窓が少しでも開いていると、相手が手を突っ込んでくる可能性があります。完全に閉めましょう。
- 車内から通報: 相手が車から離れない場合は、車内から110番通報しましょう。
ステップ3:警察に通報する
安全な場所に停車できたら、速やかに110番通報しましょう。
- 状況を説明: あおり運転を受けていること、現在の場所、相手の車のナンバー、車種、色などを伝えましょう。
- 指示に従う: 警察官の指示に従い、落ち着いて行動しましょう。
- 証拠を確保: 可能であれば、相手の車のナンバーや、あおり運転の様子をスマートフォンなどで撮影しておくと、証拠になります。
ステップ4:動画を撮る(安全確保後)
安全が確保されたら、相手の車や、あおり運転の様子を動画で撮影しましょう。
- 運転中は撮影しない: 運転中にスマートフォンなどを操作することは、道路交通法違反になります。必ず安全な場所に停車してから撮影しましょう。
- ドライブレコーダーの活用: ドライブレコーダーが搭載されていれば、あおり運転の証拠を自動的に記録することができます。特に、全方位撮影可能なドライブレコーダーは、より広範囲の状況を記録できるため、有効です。
危険運転を「しない」「させない」ための予防策:安全運転意識の向上
危険運転は、する側も、される側も、不幸な結果を招きます。危険運転を「しない」「させない」ためには、日頃から安全運転を心がけ、予防策を講じることが重要です。
1. 安全運転の基本を徹底する
- 制限速度を守る: 制限速度は、道路状況や交通状況に合わせて定められています。制限速度を守ることで、事故のリスクを大幅に減らすことができます。
- 車間距離を十分に取る: 車間距離を十分に取ることで、前方車両の急ブレーキや、予期せぬ事態にも対応できます。
- 安全確認を怠らない: 発進時、右左折時、車線変更時など、必ず周囲の安全を確認しましょう。
- 体調管理を徹底する: 疲労、睡眠不足、体調不良は、運転能力を低下させます。体調が悪いときは、運転を控えましょう。
- 飲酒運転は絶対にしない: 飲酒運転は、重大な事故を引き起こす可能性が非常に高いです。絶対にやめましょう。「少しだけなら大丈夫」という考えは、非常に危険です。
- 薬の服用に注意する: 薬の副作用によって、眠気や集中力低下などの症状が出ることがあります。薬を服用している場合は、運転前に医師や薬剤師に相談しましょう。
2. 「あおり運転」を誘発しない運転を心がける
- 余裕を持った運転: 時間に余裕を持って出発し、焦らず、ゆったりとした気持ちで運転しましょう。
- 譲り合いの精神: 他のドライバーに対して、思いやりと譲り合いの気持ちを持ちましょう。
- 挑発に乗らない: 他のドライバーから挑発的な行為を受けたとしても、冷静に対応し、決して挑発に乗らないようにしましょう。
- 感謝の気持ちを伝える: 他のドライバーに道を譲ってもらったり、親切にされた場合は、ハザードランプを点滅させるなどして、感謝の気持ちを伝えましょう。
3. ドライブレコーダーの導入を検討する
ドライブレコーダーは、事故やトラブルの際の証拠となるだけでなく、安全運転意識の向上にもつながります。
- 事故の証拠: 万が一、事故に遭ってしまった場合、ドライブレコーダーの映像が、事故の原因や過失割合を判断する上で、重要な証拠となります。
- あおり運転対策: あおり運転の被害に遭った場合、ドライブレコーダーの映像が、証拠として役立ちます。
- 安全運転意識の向上: ドライブレコーダーが搭載されていることで、自分自身の運転を客観的に見ることができ、安全運転意識が高まります。
まとめ:危険運転から身を守るために
危険運転は、一瞬にして、あなた自身や他の人々の人生を大きく変えてしまう可能性があります。しかし、危険運転に関する正しい知識を持ち、適切な対策を講じることで、事故のリスクを大幅に減らすことができます。
この記事で解説した内容を参考に、
- 危険運転の種類と罰則を理解する
- 危険運転に遭遇した際の対処法を身につける
- 危険運転を「しない」「させない」ための予防策を実践する
ことで、あなた自身、同乗者、そして周囲の人々を守りましょう。
安全運転は、あなた自身の責任であり、社会全体の安全を守るための義務です。常に安全運転を心がけ、交通事故のない社会を目指しましょう。