ETCは、高速道路や有料道路の料金所をノンストップで通過できる便利なシステムとして、日本国内で広く普及しています。その正式名称は「Electronic Toll Collection System」で、日本語では「自動料金収受システム」と訳されることもあります。多くのドライバーにとって、すでに欠かせない存在となりつつあるETCですが、その仕組みや導入の手順、割引制度の活用方法、さらに上位互換ともいわれるETC2.0まで、意外と詳しく知られていない点も少なくありません。ここでは、ETCの概要や導入メリット、具体的な割引制度のポイントからトラブル時の対処法までを詳しく解説します。
ETCの基本的な仕組みとメリット
ETCは料金所で車両と無線通信を行い、走行区間や車種を自動的に判別して決済するシステムです。バーが上がるときに停止する必要がなく、料金支払いのために現金のやりとりを行う手間も省けます。日本では2019年時点で高速道路利用の9割以上がETCレーンを利用しているといわれており、高い普及率を誇ります。ETC導入によって運転者が享受できるメリットは多岐にわたりますが、代表的なものを以下に挙げます。
- 料金所での停止が不要
料金所で一時停止することが不要なため、時間の節約につながり、渋滞の緩和にも寄与します。 - キャッシュレス決済が可能
手元に現金がなくても支払いができるので、長距離移動でも安心です。支払いの明細が一元管理される点も便利といえます。 - 各種割引を受けやすい
深夜割引・休日割引・平日朝夕割引など、ETCを利用していることで適用される割引制度が複数あり、コストカットに役立ちます。 - 車両管理が容易
法人契約の場合には複数の車両をまとめて決済できるなど、管理面でもメリットがあります。
こうしたETCの仕組みは、車載器側とETCカード側で役割を分担しているのが特徴です。車載器には車両情報が登録されており、ETCカードには決済情報が紐づいています。クレジットカードを発行する金融機関や、高速道路会社の発行するETCパーソナルカードを使うことで、後払い方式による料金決済が可能になるわけです。
車載器の役割と導入のポイント
ETCを利用するには、まず車両に専用の車載器を取り付ける必要があります。車載器には以下のような特徴と導入時のポイントがあります。
- 車両情報を登録
車載器には車種やナンバー情報が記録され、クレジットカード会社や高速道路会社のシステムと連携して利用する仕組みです。 - 購入方法
カーディーラーやカー用品店、あるいはインターネット通販などで購入できます。取り付けには配線作業が必要になるため、専門業者や整備工場に依頼するのが一般的です。セットアップが完了していない車載器は利用できないので注意が必要です。 - ETCカードの使いまわしが可能
車載器は車両ごとに固定されていますが、ETCカードは個人が保有するものなので、別の車に乗るときもカードを差し替えれば決済は同一のカードで行えます。社用車やレンタカーなどでもETCカードを活用できるため、利便性が高いといえます。 - 音声ガイダンスでのチェック
車載器には動作状況を通知する音声ガイダンスが備わっていることが多く、「カードが挿入されていません」「カードが有効期限切れです」などといった警告を流してくれます。料金所通過時には「ピッ」という音が鳴り、スムーズにゲートを通過できるかどうかを確認できます。
ETCカードの登録方法と種類
ETCを使ううえでもう一つ必要になるのがETCカードです。このカードにはクレジットカード会社が発行するタイプと、高速道路会社が発行するETCパーソナルカードがあります。
クレジットカード会社発行のETCカード
すでにクレジットカードを持っている場合は、発行元のカード会社に依頼すれば、追加カードとしてETCカードを申し込むことができます。クレジットカード番号とは異なるETCカード番号が割り当てられ、利用額はクレジットカードの締め日に合わせて請求されます。
- 年会費
発行するカード会社によってはETCカードの年会費がかかる場合と、無料の場合があります。メインのクレジットカードとの兼ね合いでお得になるケースもあるため、比較検討することが大切です。 - 一体型カード
中にはクレジットカード本体とETCカード機能が一体化しているカードもあります。カード1枚で済むため、財布の中を整理したい方にとっては便利ですが、車載器への挿し忘れには注意が必要です。
ETCパーソナルカード
クレジットカードを使わずにETCを利用したい人向けのサービスが、各高速道路会社が発行する「ETCパーソナルカード」です。このカードは口座振替で利用料金を支払う仕組みになっており、申し込み時に想定される平均月額利用分を申告し、そこから算出されるデポジット(保証金)を預け入れる必要があります。
- デポジットの概要
月平均利用額の4倍相当を保証金として事前に預け入れ、そこから料金を立て替えるわけではなく、あくまで利用料金は翌月以降に口座から引き落とされます。実際の利用が当初の想定を上回ると、追加で保証金を積み増すよう求められる場合もあります。 - 用途とメリット
クレジットカードを作りたくない、あるいは作れない事情がある方でもETCを導入できる利点があります。ただし、デポジットの準備と書類のやりとりなど、やや手続きが煩雑になる点は注意が必要です。
料金所での通過と速度制限
ETCシステムは無線通信によって高速で走行中の車を識別できますが、安全面を考慮し、料金所を通過する際の速度は時速20kmに制限されています。これは通信速度というよりも、合流や万一のトラブルに対応するための措置です。
- バーが上がらない場合
カード未挿入や期限切れなどでバーが開かないケースもあり得ます。万が一、料金所手前でエラー音が鳴ってゲートが開かなかった場合は、急ブレーキをかけずにゆっくり停止し、係員の指示に従いましょう。 - カード有効期限のチェック
カードの有効期限はクレジットカードと同じく3〜5年程度であるケースが多いですが、メインのクレジットカードとは異なる日付であることも珍しくありません。車載器に挿しっぱなしにしていると、更新時期をうっかり逃して期限切れになることもあります。年に数回は車載器からカードを取り出して確認すると安心です。
ETCで利用可能な割引制度
ETCを利用する大きなメリットの一つとして、各種の割引制度が挙げられます。時間帯や曜日、利用回数などに応じて料金が安くなるため、上手に活用すれば大幅なコスト削減につながるでしょう。代表的な割引を以下にまとめます(内容は執筆時点の情報をベースにしており、変更される場合があります)。
深夜割引
- 対象車種
全車種が対象(軽自動車や二輪車、普通車、大型車などすべて) - 対象時間帯
毎日0時〜4時 - 割引率
約30%(一部、対象道路や細かな条件による差異の可能性あり) - 対象道路
NEXCO東日本・中日本・西日本(いわゆるNEXCO3社)および宮城県道路公社管轄の一部道路
※京葉道路・第三京浜道路など、適用外の路線もあるため要確認 - 注意点
0時〜4時の間にETC対応の入口ICを無線通信で通過することが条件になります。
休日割引
- 対象車種
普通車・軽自動車(二輪車を含む) - 対象日
土日祝および1月2日、3日 - 対象道路
NEXCO3社が管理する地方部の高速道路(一部、大都市近郊は除く)と仙台松島道路 - メリット
家族旅行や週末ドライブを楽しみたい方には大きなコストダウンになります。
平日朝夕割引
- 割引を受ける条件
「ETCマイレージサービス」への事前登録が必要 - 対象車種
全車種 - 対象時間帯
平日の朝6時〜9時、夕方17時〜20時 - 対象道路
地方部の高速道路(東京・大阪の近郊部は除外)および仙台松島道路 - 割引方法
一定回数以上の利用で通行料金がポイント還元され、後日無料通行分として利用できます。
ETCマイレージサービス
ETCカードを登録し、利用金額に応じてポイントを貯めることができるサービスです。深夜割引や休日割引とは別に、一定ポイントが貯まると通行料を無料にできる還元があるため、頻繁に高速道路を使う人にとっては非常に有効な制度です。ウェブサイトから登録申込が可能なほか、高速道路のサービスエリアなどに備え付けられている申込用紙を利用して郵送で申し込む方法もあります。
ETC限定の企画割引
- 速旅乗り放題プラン(NEXCO中日本)
特定エリア内の高速道路を、一定期間乗り放題にする旅行プランのような商品があります。事前に申し込みを行っておけば、あとは対象期間内にETCで通過するだけで自動的に割引が適用されます。 - 支払いタイミング
実際に利用した後で請求されるので、前払いなどの手続きが不要です。
ETCエラーへの対処法
ETCは非常に便利なシステムですが、まれにゲートでバーが上がらない、エラーが発生するなどのトラブルに直面することがあります。多くの場合は簡単な確認で解決できます。
- カードがきちんと挿入されているか
車載器にカードを差し込んだつもりでも、角度がずれている、または奥まで差し込まれていないなどで認識されないケースがあります。 - カードの有効期限切れ
有効期限が過ぎているカードでは決済ができません。うっかり挿しっぱなしにしていると更新時期に気付かない場合があるため、定期的にチェックしましょう。 - カードの磁気不良やICチップの故障
物理的な破損や磁気不良、ICチップの故障などでカードそのものが使えなくなることもあります。こうした場合はカード会社への再発行手続きが必要です。 - 車載器やアンテナの故障
配線が外れていたり車載器そのものが故障していると認識エラーが発生します。ディーラーやカー用品店の整備士に点検してもらいましょう。
万が一、ゲートが開かずに料金所で停止する事態になったら、慌てずに一旦停止し、係員の案内を受けるのが基本です。後続車に迷惑をかけないように合図をしながら徐行して停止ライン付近まで進み、インターホンで状況を説明するとスムーズです。
ETC2.0の特徴とメリット
近年、サービスエリアなどで見かける「ETC2.0」の表記に興味を持つドライバーも増えています。ETC2.0はETCの上位互換的なシステムで、決済機能だけでなく、道路交通情報の提供をはじめとする様々なITS(高度道路交通システム)サービスを統合する仕組みが特徴です。
- 高速道路の一時退出再進入が有利になる
ETC2.0のサービスの一部として、高速道路を途中で一時退出し、一定時間内に再進入した場合でも連続走行とみなして通行料金が計算される制度があります。たとえば、給油のためにインターチェンジを降りても、指定の施設を利用したうえで1時間以内に再度高速に乗れば、それまでの区間と合算した形で料金が計算されるというわけです。 - 道路情報の高度化
車載器とITSスポットの連携により、1,000km先までの渋滞や事故・規制情報をリアルタイムに取得できます。画像付きで状況を把握できたり、最適な迂回ルートが提案されるなど、通常のカーナビよりもきめ細かいアシストが受けられます。特に大都市圏の環状線や複数ルートが存在する地域では、ETC2.0対応カーナビの恩恵が大きいでしょう。 - VICSの電波ビーコン終了と統合
かつてはVICS(Vehicle Information and Communication System)と呼ばれるシステムが電波ビーコンを使って交通情報を提供していましたが、これらはETC2.0のプラットフォームに統合される予定です。将来的にVICSの電波ビーコンは終了することがアナウンスされており、ETC2.0対応車載器やカーナビによる包括的な交通情報サービスへ移行する動きが進んでいます。 - 普及状況
従来型のETC車載器よりも高性能であるため、価格が高めに設定されがちで、2020年代に入ってもETC2.0の普及率はまだそれほど高くありません。ただし今後、車両メーカーが標準装備としてETC2.0車載器を導入する機会が増えれば、利用者が急速に伸びる可能性もあります。
ETC利用時の注意点と安全運転の心得
ETCを導入すると料金所をスムーズに通過できるメリットがありますが、安全運転を心がけることが最優先です。ETCレーンに進入する際には次の点に留意しましょう。
- 十分な車間距離を確保する
前の車がゲートを通過した後でも、万一のエラーでバーが下がるリスクを考え、無理な接近は避けてください。 - 制限速度を守る
料金所付近では時速20kmが上限とされています。ETCの通信自体は高速走行でも可能ですが、もしものトラブルや係員のいる料金所、他車との合流などを考慮して徐行運転をすることが安全です。 - エラー表示を見落とさない
車載器やゲートの表示に異常がないか、警告音や音声ガイダンスは流れていないかをしっかり確認してください。誤ってバーに突っ込むと追突事故やバー破損などの事故につながります。 - ETCカードを抜き忘れない
特に複数人で車を共有する場合や、レンタカーを返却する際はETCカードの抜き忘れに気をつけましょう。個人情報やクレジット情報が紐づいているカードを車内に放置してしまうと不正利用の危険もあります。
まとめ
ETCは、高速道路や有料道路での料金支払いを効率化するとともに、ドライバーにさまざまな割引や特典をもたらす便利な仕組みです。車載器とETCカードの組み合わせで後払いを実現し、走行時のストレスや渋滞を軽減できます。さらにETC2.0では、高度な交通情報サービスや一時退出再進入の割引など機能が拡張され、より快適でお得なドライブが可能になりました。安全運転を心がけつつ、定期的にカードの有効期限や挿し込みミスをチェックすることで、ETCの利便性を最大限に活用できるでしょう。