道路交通法には、車や自転車が安全かつ円滑に通行するための規定が数多く設けられています。しかし、そのなかには定義や適用基準があいまいで、思い込みや独自の解釈によって間違った理解が広がりやすいルールやマナーも含まれています。また法律に直接定めがなくても、運転者同士が譲り合うことで安全を守るマナーも重要です。
さらに、自転車は道路交通法上「軽車両」と位置づけられ、車両の一種として厳密に運転方法や遵守すべきルールが定められています。自転車だからといって「知らなかった」で済まされないケースも多々あるのです。
ここでは、車の運転や自転車の走行で間違えやすい交通ルール、トラブルにつながりやすい運転マナーについて詳しく解説します。違反を指摘されてから慌てることがないよう、一度じっくりと確認してみましょう。
基本中の基本!代表的な交通ルールを再確認
交通ルールのなかには誰もが知っているようで、実は日常の運転のなかでうっかり違反してしまいがちなものがあります。特に代表的なのは「制限速度の遵守」「車間距離の保持」「ながら運転の禁止」「シートベルトの着用」などです。まずはこれらを改めて見直し、安全運転の重要性を理解しましょう。
制限速度を守り、適切な速度で運転する
道路交通法上、速度超過の取り締まりは非常に厳しく、違反の件数も多いことで知られています。速度を出しすぎると、ブレーキをかけても停止するまでの時間が長くなり、衝突時の被害も格段に大きくなるため、社会全体の安全を脅かす行為とみなされるからです。
- 一般道の法定速度
通常は時速60km(原付一種は30km)とされます。ただし、一部の道路では速度制限が標識で指定されている場合があり、標識の制限速度が法定速度よりも優先されます。 - 高速道路の法定速度
速度指定がない区間の場合、普通車の法定速度は時速100km、最低速度は時速50kmと定められています。大型貨物やトレーラーなどの大型車両は時速80kmが上限になることが多く、逆に一部区間では時速120kmに制限が引き上げられている高速道路も登場しています。
速度超過の幅によって適用される罰則や反則金、違反点数は変わります。
スピードは速度計だけでなく、道路状況や天候にも合わせてコントロールすることが不可欠です。雨天・凍結・見通しの悪い夜間などは、制限速度内であってもさらに減速を心がけましょう。
車間距離を適切に保つ
追突事故のリスクを高める「車間距離不保持」は、交通法規でも取り締まりの対象です。ただし法律上は「追突を避けられるだけの距離を保ちましょう」とする曖昧な表現にとどまり、数値での厳密な基準は示されていません。
よく言われる目安は「車間距離は速度の二乗を100で割った値(m)」です。たとえば時速60kmなら約36m、時速100kmなら100m以上を保つのがよいとされます。実際には路面の状態やタイヤの磨耗具合、運転者の疲労度などによって停止距離は変化するので、常に余裕を持った距離を取る必要があります。
違反すると反則金や違反点数が科せられるため、特に高速道路で渋滞に突っ込むリスクなども踏まえ、前方車両との距離をこまめにチェックしましょう。
「ながら運転」は絶対にやめる
ハンドルを握りながらスマートフォンを触ったり、画面を注視してナビを操作したりといった「ながら運転」は、非常に危険です。前方不注意で前を走る車や歩行者を巻き込み、重大な事故につながるリスクが高まります。
- 保持違反(携帯電話使用等保持)
運転中に手でスマートフォンや携帯電話を持つ行為は、反則金や違反点数が科されます。 - 交通の危険を生じさせた場合
実際に事故やヒヤリハットを引き起こしたとなれば、一発免停の対象にもなり得ます。
特に信号待ち中にスマートフォンを見るのも注意が必要です。信号が変わり少しでも車が動いた時点で「保持違反」として検挙される可能性があります。
後部座席シートベルトの着用義務
2008年からは後部座席であってもシートベルト着用が義務化されています。一般道における違反には反則点や反則金はありませんが、高速道路では「後部座席ベルト装着義務違反」として1点の違反点数が科されます。
車の事故では、正面衝突に限らず急停止や側面衝突など、どの位置に座っていても深刻な被害を受ける場合があります。後部座席でもシートベルトをすれば命を守る可能性が高まるため、全席着用を徹底しましょう。
間違いやすい道路交通法やルールのポイント
交通ルールには、法律上は明示されていないが運用上は違反とされる可能性がある、あるいは都道府県の細則によって規定が追加されているなど、少し複雑な側面もあります。ここでは、誤解されがちな点を整理します。
サンダルやヒール靴での運転は注意
道路交通法は「安全な運転ができる状態」であることを求めています。サンダルやミュール、下駄やスリッパなど「脱げやすい」「ペダルを踏み外しやすい」履物をはいて運転し、事故が起きたり取締りを受けたりすると「安全運転義務違反」として処罰される可能性があります。かかとをベルトで固定できるサンダルなら完全に違反とまでは言い切れないものの、安全面を考えると運転には適した靴を選ぶべきです。
高速道路でのガス欠は厳禁
高速道路でガス欠になり車が停止してしまうと、「高速自動車国道等運転者遵守事項違反」に問われる場合があります。高速道路は追突事故が起きれば被害が甚大になるうえ、ガソリンスタンドの間隔が長い区間や予想外の渋滞、大雪などで燃料消費がかさむことも考えられます。「まだ大丈夫」と思わず早めに給油を行いましょう。
高速道路での左側からの追い越し
多車線の高速道路を走っていると、前を塞ぐ車を左から回り込むように抜き去りたくなるケースがあるかもしれません。しかし道路交通法上、車線変更を伴う追い越しは右側からが原則です。左からの追い越しは「追越し違反」として扱われ、反則点や反則金の対象になります。
なお、車線変更をしないまま流れで追い抜くような場合は厳密には違反とはされないこともありますが、右ハンドル車の左側は死角が多く、事故リスクが高まる行為ですので十分に注意してください。
エンジンをかけっぱなしで車を離れるのはNG
コンビニへ立ち寄るなどの短い時間でも、エンジンを停止せずに車を離れると「停止措置義務違反」に該当します。無施錠でエンジンがかかりっぱなしの車は盗難のリスクが高まるだけでなく、万が一盗難に遭った場合に保険金が下りない恐れもあります。たとえ数秒でも車から離れるときは必ずエンジンを切り、ドアを施錠しましょう。
車を運転するなら押さえたいマナー
法律で規定されたルールだけでなく、円滑な交通を維持するためのマナーも大切です。違反として罰則を受けることはなくても、ちょっとした気遣いや譲り合いが事故を防ぎ、お互いに快適な運転を実現します。
渋滞時の合流は1台ずつおこなう
渋滞時の合流地点で他の車列に入れないまま長い列をつくり、結果的に流れが滞ってしまうケースがあります。このような渋滞をなるべくスムーズに解消する方法として「ファスナー合流(ジッパー法)」が推奨されています。文字通りファスナーを噛み合わせるように、1台ずつ交互に合流していくことで渋滞解消の手助けになります。
ただし、全員がファスナー合流を理解しているわけではないので、強引に割り込んだり、逆に合流を執拗に拒んだりしてトラブルに発展しないように注意が必要です。
高速道路で渋滞してしまったらハザードを点ける
高速道路で渋滞の最後尾になった場合は、追突事故を防ぐためハザードランプを点けて後続車に停止の状況を知らせるのが慣例的なマナーとされています。道路交通法で義務化されているわけではありませんが、速度域の高い高速道路では後続車が減速判断を誤ると大事故につながります。自分の身を守るためにもハザードで合図を出しましょう。
道を譲ってくれた車へのお礼
道を譲ってもらったら、何らかの方法で「ありがとう」の気持ちを伝えるのが一般的です。しかし、クラクション(ホーン)を鳴らしてお礼をする「サンキュークラクション」やハザードランプの点滅「サンキューハザード」は、厳密には法律違反とされる可能性があります。クラクションは危険回避や警告以外での使用を制限しているからです。
もっとも無難なのは手を挙げて合図するなど、周囲を驚かせない方法でお礼を示すことです。逆に「譲ったのにお礼がない」と腹を立てるのもトラブルの原因となるので避けましょう。
対向車や前方車がいるときはハイビームを使わない
夜間の運転でハイビーム(走行用前照灯)を使うと視界が開けるため安全に思えますが、対向車や前方車には非常に眩しく危険です。一般的には周囲に車両がいない状況で前方の視界を確保するために用い、車がいる場合はロービーム(すれ違い用前照灯)に切り替えるのがマナーです。
パッシングで合図を受けたら、ハイビームのままになっていないか、ライトの光軸が狂っていないかを疑いましょう。整備不良は思わぬトラブルや事故につながるので、気になるときは整備工場で調整を依頼することをおすすめします。
自転車にも適用される道路交通法
「自転車は車両の仲間である」という意識が浸透していないため、誤ったルール認識のまま走行している方は少なくありません。とくに自動車の免許を持っていない方の場合、自転車のルールを習う機会が少ないのが現状です。しかし自転車も道路交通法における軽車両に該当し、車道走行や信号遵守、一時停止などの義務があります。
自転車が走れる場所
原則として、自転車は自転車道や路側帯、もしくは車道の左端を通行します。歩道を走行できるのは、次のような特例がある場合に限られます。
- 標識で「歩道通行可」と示されている場合
- 工事などで車道を走ることが危険または困難な場合
- 運転者が13歳未満、70歳以上、または身体に障がいがある場合
歩道を走る際も、歩行者を優先し、歩道の車道寄りを徐行して通行することが義務付けられています。歩行者の存在を妨害すると、罰金などの処罰対象になる可能性があります。
自転車の危険行為
自転車であっても、以下のような行為は厳しく取り締まられています。
- 無灯火や飲酒運転
視認性が低くなる無灯火運転や、飲酒による正常な判断力の低下は重大事故につながりやすく、多くの罰則規定があります。飲酒運転であれば、場合によっては5年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることもあるほど重い違反です。 - 信号無視や一時停止無視
交差点を勢いよく突っ切り、歩行者や他車両と衝突する事故が後を絶ちません。信号無視や一時停止違反も3ヵ月以下の懲役または5万円以下の罰金などの厳しい罰則が設定されています。 - スマートフォン操作や傘さし運転
「ながら運転」で片手しかハンドルを握っていなかったり、視線を前方から外していたりする行為は危険極まりなく、周囲を巻き込む大きな事故に直結しかねません。これらも取り締まりの重点対象です。 - 二人乗りや並進
二人乗り運転は5万円以下の罰金に相当する違反行為とされており、並んで走る「並進」も同様に罰則があります。
悪質運転者には自転車運転者講習
2015年6月の道路交通法改正によって、危険行為を繰り返す自転車運転者に対しては、公安委員会が「自転車運転者講習」の受講を命じることができる制度が導入されました。これは自動車に準ずる形での罰則強化であり、命令に従わない場合は5万円以下の罰金が科されます。受講時間は3時間、受講料は6,000円です。
自転車事故が後を絶たないなかで、こうした制度が作られた背景には、自転車に対する取り締まりの強化と安全教育の徹底を図る意図があります。
交通ルールを守ってこそ、社会全体の安全が保たれる
道路交通法や交通ルール、マナーは、すべてのドライバーと道路利用者が安心して移動できる環境づくりのために存在しています。ルールを形だけ知っていても、それを実際の運転に活かせなければ意味がありません。日頃から「なぜこのルールがあるのか」を考え、ハンドルを握るときには必ず安全意識を高く持つことが大切です。
特に一瞬の不注意が大事故を招く「ながら運転」やスピードの出し過ぎなどは、すぐにでも改めるべき行為でしょう。マナー面でも、「渋滞時は1台ずつ合流」「譲ってくれた車へのお礼」「夜間は対向車がいればロービームにする」といった気遣いを習慣化するだけでも、事故やトラブルの回避に役立ちます。
まとめ
交通ルールは、事故を防ぐために必要不可欠な共通の約束事です。しかし、定められた法律や規則にすべて目を通していても、その内容を間違って理解してしまうケースや、いつの間にか独自の解釈で運転してしまうケースは少なくありません。車にしろ自転車にしろ、公道に出る以上は「自分が違反や事故を起こせば他者の命を奪いかねない」ことを常に意識し、正しいルールと安全運転を徹底していきましょう。