「思いやり駐車場」制度とは?対象者と利用マナー

「思いやり駐車場」制度とは?対象者と利用マナー

スーパーマーケットや役所の駐車場で、「思いやり駐車場」と書かれた看板や、特別なマークが描かれた駐車スペースを見かけたことはありませんか?

「車いすのマークとは違うみたいだけど、誰が停めていいんだろう?」「自分は停めても大丈夫なのかな?」と、一瞬迷ってしまった経験がある方もいらっしゃるかもしれませんね。

特に運転に慣れていない初心者の方や、久しぶりにハンドルを握るペーパードライバーの方にとっては、駐車場のルールは少し複雑に感じられることもあるでしょう。

この記事では、そんな「思いやり駐車場」制度について、その目的から利用できる対象者、正しい使い方、そして私たちドライバー一人ひとりが心掛けたい利用マナーまで、どこよりも分かりやすく、そして詳しく解説していきます。

この記事を最後までお読みいただければ、「思いやり駐車場」への理解が深まり、次からは自信を持って、そして何より「思いやりの心」を持って駐車場を利用できるようになるはずです。誰もが安心して快適にクルマ社会に参加できる、その第一歩を一緒に学んでいきましょう。

「思いやり駐車場」制度って、そもそも何?

まずは、この制度がどのようなものなのか、基本から見ていきましょう。名前の通り「思いやり」がキーワードになる、とても大切な制度です。

制度が生まれた背景

多くの駐車場には、青地に白で車いすのマークが描かれた「身体障害者等用駐車区画」が設置されています。これは、車いすを利用する方が、車のドアを大きく開けて乗り降りするために、駐車スペースの幅が広く作られている場所です。

しかし、世の中には車いすは利用していなくても、長距離を歩くのが困難な方がたくさんいらっしゃいます。例えば、内部障害や難病を抱えている方、杖を使って歩いているお年寄り、お腹の大きな妊婦さん、一時的に足を怪我している方などです。

こうした方々は、外見からはその大変さが分かりにくいことも少なくありません。しかし、建物の出入り口から遠い駐車場に停めると、移動するだけで心身に大きな負担がかかってしまいます。

そこで、車いすマークの駐車区画とは別に、こうした『歩行に配慮が必要な方々』が、施設の出入り口に近い便利な場所に駐車できるよう、各自治体が協力して設けたのが「思いやり駐車場」制度なのです。

どんな目的があるの?

この制度の最大の目的は、本当に必要としている人が、優先的に駐車スペースを利用できるようにすることです。それにより、移動の負担を軽くし、安心して買い物や用事を済ませ、社会参加をしやすくすることを目指しています。

この制度は、単に場所を提供するだけではありません。私たちドライバー一人ひとりが「このスペースを本当に必要としている人がいるかもしれない」と考えるきっかけを与え、譲り合いの気持ち、つまり『思いやりの心』を社会全体で育んでいくことも、大切な目的なのです。

法的な拘束力はあるの?

ここで一つ、とても重要なことを知っておく必要があります。実は、「思いやり駐車場」制度には、道路交通法のような法的な拘斥力や罰則はありません。

これは、国が定めた一律の法律ではなく、各都道府県や市町村が、住民や事業者の『協力をお願いする』という形で進めている制度だからです。

法律で決められていないから守らなくていい、というわけでは決してありません。むしろ、罰則がないからこそ、私たちドライバー一人ひとりの良心やモラル、そして制度への正しい理解が何よりも大切になってくるのです。

私は対象者?利用できる人を確認しよう

「自分も利用できるのかな?」と気になる方もいらっしゃるでしょう。ここでは、どのような方が対象となるのか、そしてどうすれば利用できるのかを具体的に見ていきましょう。

対象者は誰?具体的な基準を解説

「思いやり駐車場」を利用できる対象者の基準は、制度を運営している各自治体によって少しずつ異なります。しかし、おおむね以下のような方々が対象となっています。

お住まいの地域ではどうなっているか、一度、県のホームページなどで確認してみることをお勧めします。

・身体に障害のある方

身体障害者手帳の等級など、一定の要件を満たす方。視覚障害や聴覚障害、内部障害など、外見からは分かりにくい障害のある方も含まれます。

・知的障害のある方

療育手帳の等級が一定以上の方。

・精神に障害のある方

精神障害者保健福祉手帳の等級が一定以上の方。

・高齢者

介護保険の要介護認定で、要介護1以上など、一定の基準に該当する方。

・難病患者の方

特定医療費(指定難病)受給者証などをお持ちの方。

・妊産婦の方

妊娠7か月から産後1年程度など、自治体が定める期間にある方。母子健康手帳の交付を受けていることが条件となります。

・けがをしている方、その他

骨折や病気などで、一時的に歩行が困難になった方。医師の診断書などが必要になる場合があります。

どうすれば利用できるの?利用証の申請方法

思いやり駐車場を利用するためには、自治体が発行する『利用証』を取得し、車に掲示する必要があります。これは、対象者であることを証明し、不適切な利用を防ぐための大切なルールです。

申請から利用までの流れは、以下のようになります。

  1. 申請窓口を確認するまず、お住まいの都道府県のホームページなどで、制度の担当部署を確認しましょう。「〇〇県 パーキング・パーミット制度」「〇〇県 思いやり駐車場」などと検索すると見つかります。県の障害福祉課や、市町村の役場の福祉担当窓口、保健所などが窓口になっていることが多いです。
  2. 必要な書類を準備する申請には、主に以下のような書類が必要です。・申請書(窓口で受け取るか、ホームページからダウンロードします)・対象者であることを証明する書類(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、介護保険被保険者証、母子健康手帳など)・本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)※代理人が申請する場合は、代理人の本人確認書類も必要です。
  3. 申請手続きを行う準備した書類を持って、窓口で申請します。自治体によっては、郵送での申請を受け付けている場合もあります。手続きはそれほど難しくありませんので、安心してください。
  4. 利用証を受け取る申請内容に問題がなければ、後日、利用証が交付されます。多くの場合、その場で受け取ることができます。

この利用証は、多くの自治体で相互利用が可能になっています。例えば、ご自身の県で交付された利用証を、旅行先の他府県でも使える場合があります。全国で同様の制度(総称して『パーキング・パーミット制度』と呼ばれます)が広がっており、その利便性は年々高まっています。

「思いやり駐車場」の正しい見つけ方と使い方

利用証を手に入れたら、次は実際の使い方です。どこにあって、どのように使えば良いのかをしっかり確認しておきましょう。

どこにあるの?設置場所の見分け方

思いやり駐車場は、多くの人が利用するさまざまな場所に設置されています。

・公共施設(県庁、市役所、図書館、公民館、文化ホールなど)

・商業施設(スーパーマーケット、ショッピングモール、デパート、ドラッグストアなど)

・金融機関(銀行、郵便局など)

・医療機関(病院、クリニックなど)

これらの施設の駐車場で、出入り口に近い便利な場所に設けられていることがほとんどです。

駐車スペースには、各自治体が定めたシンボルマーク(例えば、四つ葉のクローバーやハートマークなど)が描かれた看板や、路面にペイントがされています。「思いやり駐車場」「パーキング・パーミット優先区画」といった文字で表示されていることもあります。

正しい利用方法のステップ

利用方法はとても簡単ですが、大切なポイントがあります。

ステップ1:駐車スペースに車を停める

まず、空いている思いやり駐車場の区画に車を停めます。この時、隣の車のドアの開閉や、人の乗り降りを妨げないよう、白線の中にきちんと停めるのがマナーです。

ステップ2:利用証を掲示する

車を停めたら、必ず交付された『利用証』を、ルームミラーに吊るすか、ダッシュボードの上に置くなどして、車の外からはっきりと見えるように掲示してください。

これは非常に重要なステップです。なぜなら、利用証の掲示がないと、周りの人からは対象者なのかどうかの判断がつかず、不正利用を疑われてしまう可能性があるからです。施設管理者や警備員から声をかけられることもあります。

お互いが気持ちよく制度を利用するためにも、利用証の掲示は絶対に忘れないようにしましょう。

ステップ3:利用が終わったら速やかに移動する

用事が済んだら、速やかに車を移動させましょう。あなたが利用している間にも、他の誰かがこのスペースを必要としているかもしれません。次に待っている人のための「思いやり」も大切です。

知らないと恥ずかしい!思いやり駐車場の利用マナー

この制度は、法律ではなくマナーと思いやりの心で成り立っています。だからこそ、私たち一人ひとりの行動がとても重要です。ここでは、対象者の方も、そうでない方も心掛けたいマナーについて考えてみましょう。

利用証を持っていても考えたい「本当に今、必要?」

利用証を持っている対象者の方にお願いしたい、大切な心掛けがあります。それは、「今日は本当にこのスペースが必要だろうか?」と、駐車する前に一度だけ考えてみていただきたい、ということです。

例えば、

・今日はいつもより体調が良いな。

・家族が一緒だから、少し歩いても大丈夫そう。

・荷物が少ないから、遠くても問題ない。

こんな日には、あえて一般の駐車スペースに停める、という選択も一つの素晴らしい「思いやり」です。

あなたのその少しの配慮で、もしかしたら、あなたよりもっと切実にこのスペースを必要としている方が、助かるかもしれません。利用証は「いつでも停めて良い許可証」ではなく、「本当に必要な時に使わせてもらうための証」と考えることで、制度がより温かいものになります。

対象者じゃないけど…こんな時どうする?よくある勘違いとNG行動

対象者ではないドライバーの方も、決して無関係ではありません。むしろ、対象者ではない大多数のドライバーの協力がなければ、この制度は成り立ちません。

以下のような行動は、絶対にやめましょう。

・「ちょっとだけだから」「すぐに戻るから」という利用

たとえ5分、1分でも、その間にスペースを必要とする人が来るかもしれません。その人にとっては、その「ちょっとだけ」が、施設利用を諦める理由になってしまうのです。

・「雨が降っているから」「荷物が重いから」という利用

気持ちは分かりますが、それは思いやり駐車場を利用する理由にはなりません。歩行に困難を抱える方々の負担は、雨や荷物の問題とは比べ物にならないほど大きいのです。

・「周りも空いているからいいだろう」という安易な考え

一般の駐車スペースがどんなに空いていても、思いやり駐車場は目的が全く違う特別な場所です。空いているから停めて良い、という考え方は大きな間違いです。

もし、利用証を掲示していない車が停まっているのを見かけたらどうすれば良いでしょうか。直接注意するのは、思わぬトラブルに繋がる可能性があり、お勧めできません。その場合は、お店の従業員や施設の管理者、警備員の方に、「利用証を掲示していない車が停まっています」と、そっと伝えるのが最もスマートで安全な対応です。

周りのドライバーができる「思いやり」とは?

対象者ではない私たちができる「思いやり」は、停めないことだけではありません。

・スペースの近くでは、特に安全運転を心掛ける

思いやり駐車場を利用する方は、乗り降りに時間がかかったり、車の周りをゆっくりと移動されたりすることがあります。急かしたり、クラクションを鳴らしたりするようなことは絶対にせず、温かい目で見守りましょう。

・隣に停める際は、間隔に配慮する

思いやり駐車場の隣のスペースに駐車する際は、少しでも間隔をあけて、ドアが十分に開けられるスペースを確保してあげると親切です。白線の真ん中に停めることを意識するだけで、乗り降りがぐっと楽になります。

このように、私たち一人ひとりが少しだけ想像力を働かせることが、制度を支える大きな力になるのです。

もっと詳しく!思いやり駐車場制度のQ&A

最後に、これまでに説明しきれなかった細かい疑問について、Q&A形式でお答えします。

Q. 利用証に有効期限はあるの?

A. はい、有効期限が設定されている場合があります。

障害者手帳などに基づいて交付された利用証は、基本的に無期限です。しかし、妊産婦の方や、けがをしている方など、対象となる期間が限定されている場合は、その期間に応じた有効期限が記載されています。期限が切れた場合は、速やかに利用証を返却するのがルールです。

Q. 利用証をなくしてしまったら?

A. 再発行の手続きをしてください。

紛失や破損した場合は、最初に申請した窓口に連絡し、再発行の手続きについて確認しましょう。多くの場合、再交付申請書を提出することで、新しい利用証を受け取ることができます。

Q. 軽自動車用のスペースと何が違うの?

A. 目的が全く違います。

軽自動車用の駐車スペースは、その名の通り、軽自動車の大きさに合わせて作られた区画です。一方、思いやり駐車場は、車の大きさに関係なく、歩行が困難な方のためのスペースです。軽自動車だからといって、思いやり駐車場に停めて良いということにはなりません。

Q. 車いすマークの「身体障害者等用駐車区画」との違いは?

A. 主に『幅の広さ』が違います。

これは多くの方が混同しやすいポイントです。

・車いすマークの駐車区画:車いす利用者がドアを全開にして乗り降りしたり、車の後部からスロープを出したりできるよう、幅が約3.5メートル以上と広く設計されています。

・思いやり駐車場:必ずしも幅が広いわけではなく、主に『建物の出入り口に近い』という利便性が重視されています。

したがって、車いすを利用されている方は、まず幅の広い「車いすマークの駐車区画」を探すのが基本です。思いやり駐車場は、車いすは使わないけれど歩行が困難、という方が主な対象となります。

Q. 自分の県には制度がないみたいだけど…?

A. 制度の名称が違うか、これから導入される可能性があります。

この制度は、「思いやり駐車場」のほか、「パーキング・パーミット制度」「ひとにやさしい駐車場利用証制度」など、自治体によってさまざまな名称で呼ばれています。2025年現在、全国の多くの府県で導入が進んでいますが、一部未導入の自治体もあります。お住まいの自治体のホームページで確認するか、福祉担当の窓口に問い合わせてみましょう。

まとめ

今回は、「思いやり駐車場」制度について、詳しく解説してきました。最後に、大切なポイントをもう一度確認しましょう。

・「思いやり駐車場」は、車いす利用者だけでなく、外見からは分かりにくい障害や難病、妊娠、けがなどで歩行が困難な方のための駐車スペースです。

・利用するには、お住まいの自治体に申請し、『利用証』の交付を受ける必要があります。

・この制度は法律による罰則ではなく、私たちの『思いやりの心』とマナーによって支えられています。

・対象者の方は、本当に必要な時に利用するという配慮を。

・対象者でない方は、その必要性を理解し、決して利用しないという協力をお願いします。

運転免許を取りたての初心者の方も、ベテランドライバーの方も、この制度の正しい知識を持つことで、交通社会はもっと優しく、快適なものになります。

次に駐車場でこのマークを見かけたら、そこを必要としている誰かの顔を思い浮かべてみてください。そして、自分にできる「思いやり」を実践してみてください。その小さな行動の積み重ねが、誰もが安心して暮らせる社会を創っていくのです。

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