エンジンマウントの劣化、振動や異音の原因と交換の目安とは?

エンジンマウントの劣化、振動や異音の原因と交換の目安とは?

「最近、信号待ちで車がブルブルと震えることが増えた気がする…」

「アクセルを踏んだ瞬間、『ゴンッ』と変な音がするけど、大丈夫かな?」

運転免許を取得したばかりの方や、久しぶりにハンドルを握るペーパードライバーの方、そして毎日運転しているベテランドライバーの方も、愛車から伝わってくるこんな些細な変化に、少し不安を感じたことはありませんか?

多くの場合、こうした振動や異音は「もう古くなってきたから仕方ないか」と見過ごされがちです。しかし、その不快な症状の裏には、「エンジンマウント」という、私たちの安全運転を静かに支える、とても重要な部品の劣化が隠れているかもしれません。

「エンジンマウントって、初めて聞いた…」

「そんな部品が、乗り心地にまで影響するの?」

ご安心ください。この記事では、車の心臓部であるエンジンを支える「縁の下の力持ち」、エンジンマウントとは一体何なのか、なぜ劣化してしまうのか、そしてどんなサインを発するのかを、専門用語をできるだけ使わずに、一つひとつ丁寧に解き明かしていきます。

この記事を読み終える頃には、あなたは愛車が発する小さなSOSサインの意味を理解し、手遅れになる前に対処できる、賢いドライバーになっているはずです。不快な振動や異音から解放され、もっと快適で安心なカーライフを手に入れましょう。

そもそも「エンジンマウント」ってどんな部品?

まずは、今回の主役である「エンジンマウント」の正体からご説明します。

この部品の名前を初めて聞いたという方も、決して少なくないと思います。それもそのはず、エンジンマウントはエンジンルームの奥深く、普段は目に触れない場所で黙々と働き続けている、非常に控えめな存在だからです。

エンジンのための、最高の「座布団」

エンジンマウントの役割を一言で表すなら、それは「エンジンをボディに固定し、かつ、エンジンの振動を吸収する」ことです。

もっと分かりやすく言うと、エンジンのための高性能な「座布団」や「クッション」のようなものだと考えてみてください。

車のエンジンは、ご存知の通り、中でガソリンを爆発させて力を生み出しています。そのため、稼働中のエンジンは、それ自体が非常に大きな振動の塊です。もし、この振動の塊であるエンジンを、ただボルトでガチガチにボディへ固定してしまったらどうなるでしょうか。

エンジンの猛烈な振動が、すべて車の骨格(ボディ)に直接伝わってしまいます。そうなると、車内はまるでマッサージチェアのように常にブルブルと震え、凄まじい騒音に包まれて、とても快適に運転どころではなくなってしまうでしょう。

そこで登場するのが、エンジンマウントです。

エンジンマウントは、主に硬いゴムや、場合によっては内部に液体が封入された特殊な素材でできています。このゴムの弾力性を利用して、エンジンをしっかりと支えながら、エンジンが発生させる不快な振動や騒音を巧みに吸収・遮断し、ボディに伝わらないようにしてくれているのです。

つまり、私たちが信号待ちで停車している時や、高速道路を走行している時に、車内で比較的静かに、そして快適に過ごせるのは、このエンジンマウントがエンジンの揺れを必死に受け止めてくれているおかげなのです。

通常、車一台あたりに3個から4個のエンジンマウントが使われ、それぞれが協力し合って、重たいエンジンを様々な角度から支えています。

なぜ劣化するの?エンジンマウントの寿命を縮める原因

そんな重要な役割を担うエンジンマウントですが、残念ながら永遠にその性能を保てるわけではありません。主成分がゴムであるため、時間や使用状況によって必ず「劣化」が進んでいきます。では、具体的にどのような原因で劣化してしまうのでしょうか。

原因1:経年劣化(時間の経過)

最も基本的な原因は、時間の経過による「経年劣化」です。

輪ゴムを長期間放置しておくと、いつの間にか硬くなって、引っ張るとすぐに切れてしまいますよね。それと同じ現象が、エンジンマウントのゴムにも起こります。

常にエンジンの重さを支え、熱に晒されているエンジンマウントのゴムは、年月とともに少しずつ弾力性を失い、硬くなっていきます。そして最終的には、ひび割れ(クラック)が発生したり、最悪の場合はゴムがちぎれてしまったりするのです。

原因2:走行距離とエンジンの熱

車が走れば走るほど、エンジンは稼働し、振動します。エンジンマウントは、その振動を常に受け止め続けているわけですから、走行距離が伸びれば伸びるほど、その負担は蓄積されていきます。たくさん働けば、その分だけ疲労も溜まる、というわけです。

さらに、エンジンルーム内は非常に高温になります。ゴムは熱に弱い性質を持っているため、長期間にわたってエンジンの熱に晒され続けることも、劣化を早める大きな要因となります。

原因3:運転の仕方

ドライバーの運転の仕方も、エンジンマウントの寿命に影響を与えます。

例えば、急発進や急ブレーキ、急なシフトチェンジといった、車に「ガクン」という衝撃が加わるような運転は、エンジンそのものを大きく揺さぶります。そのたびに、エンジンマウントには瞬間的に非常に大きな力がかかり、通常よりも早く傷んでしまう原因になります。

丁寧でスムーズな運転を心がけることは、同乗者を快適にするだけでなく、実はエンジンマウントのような見えない部品を労わることにも繋がっているのです。

これってサインかも?エンジンマウント劣化の主な症状

劣化したエンジンマウントは、私たちドライバーに様々なサインを送ってきます。ここでは、代表的な症状をいくつかご紹介します。「あれ、これって私の車かも?」と思い当たる節がないか、チェックしてみてください。

症状1:停車中の不快な振動(アイドリング振動)

これは、エンジンマウントの劣化において最も代表的で、多くの人が最初に気づく症状です。

具体的には、信号待ちなどで、シフトレバーが「D」(ドライブ)や「R」(リバース)に入ったままブレーキを踏んで停車している時に、車内に「ブルブルブル…」というこれまでになかった振動が伝わってくるようになります。

なぜ、停車中に振動が大きくなるのでしょうか。

それは、エンジンが回転しようとする力(前に進もうとする力)と、ブレーキで停止している力がせめぎ合って、エンジンが最も大きく揺れる状態だからです。新品のエンジンマウントであれば、この揺れをしっかり吸収してくれますが、劣化して硬くなったマウントでは、振動を吸収しきれずにボディへ直接伝えてしまうのです。

不思議なことに、シフトレバーを「N」(ニュートラル)や「P」(パーキング)に入れると、その振動がピタッと収まるか、かなり小さくなることがよくあります。これは、ニュートラル状態ではエンジンが空回りしているだけで、前に進もうとする力がかからず、揺れが小さくなるためです。もし、この「Dレンジでのみ振動が大きい」という症状に心当たりがあれば、エンジンマウントの劣化を疑う有力な手がかりとなります。

症状2:シフトチェンジ時の異音や衝撃

オートマチック車で、停車中にブレーキを踏みながらシフトレバーを操作した時、特に「P」から「D」や、「N」から「D」に入れた瞬間に、「ゴンッ!」や「ガタン!」といった大きめの音や、車体が揺れるような衝撃を感じるようになったら、これも注意信号です。

これは、劣化したエンジンマウントがエンジンの揺れを支えきれず、動力がタイヤに伝わる瞬間にエンジン自体が大きく傾いてしまい、その衝撃がボディに伝わって発生する症状です。

症状3:加速・減速時の異音

走行中、アクセルを踏み込んで加速した瞬間や、逆にアクセルを離して減速した瞬間に、エンジンルームのあたりから「コトコト」「ゴトゴト」といった異音が聞こえる場合も、劣化のサインかもしれません。

エンジンは、加速時には後方に、減速時には前方に傾こうとします。この動きをエンジンマウントがしなやかに受け止めるのですが、マウントが劣化していると、この傾きを制御しきれずに、どこかに当たっているような音が発生することがあります。

症状4:全体的な乗り心地の悪化

特定の状況だけでなく、走行中、常に車内がなんとなくザワザワ、ゴトゴトするような感じで、以前よりも乗り心地が悪くなったと感じる場合も、原因の一つとしてエンジンマウントの劣化が考えられます。

路面からの衝撃とはまた違う、エンジンの細かな振動が常にボディに伝わっている状態で、快適性が損なわれてしまいます。

劣化を放置するとどうなる?考えられる深刻なリスク

「少し振動が大きいだけなら、我慢すればいいや」

そう思ってしまう気持ちも分かります。しかし、エンジンマウントの劣化を長期間放置すると、単に不快なだけでなく、さらに深刻なトラブルを引き起こす可能性があります。

リスク1:他の部品へのダメージ拡大

エンジンが必要以上に揺れ続けるということは、その振動がエンジンに接続されている様々な部品にも伝わるということです。

例えば、排気ガスを車外へ排出するためのマフラーやエキゾーストパイプ、エンジンからタイヤへ力を伝えるドライブシャフト、さらにはラジエーターのホース類などに、常に無理な力がかかり続けることになります。

その結果、パイプに亀裂が入って排気漏れを起こしたり、ホースが抜けて冷却水が漏れたり、他の部品の寿命まで縮めてしまうといった「二次災害」を引き起こす可能性があるのです。一つの不具合が、次々と新たな不具合を生む悪循環に陥ってしまうかもしれません。

リスク2:走行性能の低下

エンジンの揺れが大きくなると、アクセル操作に対する車の反応が鈍くなるなど、走行性能にも悪影響が出ることがあります。ドライバーが意図した通りのスムーズな加減速がしにくくなり、運転そのものがストレスになってしまうことも考えられます。

リスク3:最悪の場合、重大な故障につながることも

可能性としては低いですが、エンジンマウントの劣化が極限まで進み、完全にちぎれてしまった場合、エンジンが大きく傾き、周辺の部品と激しく干渉することがあります。こうなると、自走が困難になるほどの重大な故障につながる危険性もゼロではありません。

不快な振動や異音は、車が私たちに送っている「そろそろ限界だよ」という重要なSOSサインです。そのサインを無視せず、早めに対処することが、結果的に愛車を大きなトラブルから守り、余計な出費を防ぐことに繋がるのです。

交換のタイミングはいつ?寿命の目安とチェック方法

では、エンジンマウントは、どのくらいのタイミングで交換を考えれば良いのでしょうか。

交換の目安は「10年または10万km」

一般的な乗用車の場合、エンジンマウントの交換時期の目安は、「使用期間10年」または「走行距離10万km」のどちらか早い方、と言われています。

もちろん、これはあくまで一般的な目安です。先ほどお話ししたように、運転の仕方や車の使用環境によって劣化のスピードは大きく変わりますので、この時期が来たら絶対に交換が必要というわけではありません。逆に、これより早く寿命を迎えることも十分にあり得ます。

最終的には、これまでにご紹介したような「振動」や「異音」といった、車が発する具体的な症状が出てきた時が、交換を検討する具体的なタイミングと言えるでしょう。

自分でのチェックは可能?

「自分の車のエンジンマウントは大丈夫かな?」と気になった時、自分で確認することはできるのでしょうか。

結論から言うと、初心者の方が自分で劣化具合を正確に判断するのは、かなり難しいと言えます。

エンジンルームを開けて、懐中電灯などで照らせば、マウントの一部が見える車種もあります。その際に、ゴム部分に大きな亀裂が入っていたり、明らかに潰れて変形していたりすれば、劣化していると判断できます。

しかし、エンジンマウントは奥まった位置にあることが多く、また、見た目には問題がなくても内部で劣化が進んでいるケースも少なくありません。無理に手を伸ばして確認しようとすると、高温になっているエンジンやファンなどで火傷や怪我をする危険もあります。

したがって、セルフチェックはあくまで参考程度と考え、少しでも異変を感じたら、迷わずプロの整備士に点検を依頼するのが最も安全で確実な方法です。

気になる交換費用は?部品代と工賃の相場

実際にエンジンマウントを交換するとなると、一体どのくらいの費用がかかるのでしょうか。これは、車種や交換するマウントの数、そして作業の難易度によって大きく変動します。

部品代の相場

エンジンマウントの部品代は、1個あたり数千円から、高性能な液体封入タイプや輸入車の場合は2万円以上するものまで様々です。

車には3〜4個のマウントが使われていますが、すべてを同時に交換する必要があるとは限りません。最も劣化が進んでいる1〜2個だけを交換する場合もあれば、整備士の判断で「この際だから全部交換しておきましょう」となる場合もあります。

交換工賃の相場

エンジンマウントの交換費用で、大きな割合を占めるのが「交換工賃(技術料)」です。

エンジンマウントは、重たいエンジンを直接支えている部品です。そのため、交換作業では、専用の工具でエンジンを吊り上げたり、下から支えたりしながら、古いマウントを取り外して新しいものと交換するという、非常に手間のかかる作業が必要になります。

また、車種によっては、マウントにアクセスするために、周辺の部品をたくさん取り外さなければならない場合があります。作業が複雑になればなるほど、工賃は高くなる傾向にあります。

費用の総額目安

部品代と工賃を合わせた総額としては、以下のようなイメージを持っておくと良いでしょう。

箇条書き:

・軽自動車やコンパクトカー:3万円 〜 8万円程度

・普通乗用車(セダンやミニバンなど):5万円 〜 15万円程度

・高級車や輸入車:10万円 〜 20万円以上になることも

これはあくまで一般的な目安です。正確な費用を知るためには、ディーラーや整備工場で見積もりを取るのが一番です。その際、可能であれば複数の工場で見積もりを比較検討すると、適正な価格で修理を依頼することができます。

費用は決して安くありませんが、交換後の静かでスムーズな走りを取り戻した時には、「交換して本当に良かった」と心から実感できるはずです。

まとめ

今回は、車の不快な振動や異音の主な原因となる「エンジンマウント」について、その役割から劣化のサイン、交換の目安や費用までを詳しく解説してきました。最後に、この記事の重要なポイントをまとめておきましょう。

箇条書き:

・エンジンマウントは、エンジンの振動を吸収して快適な乗り心地を保つ「座布団」のような重要な部品。

・経年劣化や走行距離、運転の仕方によってゴムが劣化し、その性能は低下していく。

・「Dレンジでの停車中の振動」「シフトチェンジ時の衝撃」「加減速時の異音」は、劣化の代表的なSOSサイン。

・劣化を放置すると、乗り心地が悪化するだけでなく、他の部品にもダメージを与え、大きな故障につながるリスクがある。

・交換の目安は「10年または10万km」。しかし、最終的には症状で判断し、プロの点検を受けるのが最も確実。

・交換費用は安くはないが、不快な症状から解放され、安全で快適な走りを取り戻すための価値ある投資。

愛車から伝わってくる振動や異音は、単なる「老化現象」ではありません。それは、私たちの目に見えない場所で頑張ってくれている部品からの、大切なメッセージです。

その小さな声に耳を傾け、早めに気づいて対処してあげること。それこそが、ドライバーとして愛車と長く、そして安全に付き合っていくための秘訣と言えるでしょう。

もし、あなたの車に思い当たる症状があれば、次の点検の際にでも、整備士さんに「エンジンマウント、一度見てもらえますか?」と、気軽に相談してみてください。その一言が、あなたのカーライフをより一層快適なものに変えるきっかけになるはずです。

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