交通事故で怪我を負い、治療を続けても完全に回復せず身体に症状が残った場合、その状態が後遺障害と呼ばれます。法律上の後遺障害とは「交通事故により受傷した傷害が治癒したときに身体に残る精神的・肉体的損傷」であり、傷害と後遺障害に相当因果関係が認められ、かつ所定の障害等級に該当する症状が医学的に証明できるものを指します。一般的に「後遺症」と呼ばれる状態のうち、保険制度で定める基準に合致して審査に認められたものだけが「後遺障害」となります。つまり治療後に何らかの症状が残っていても、自賠責保険の等級表で定める条件に合わなければ後遺障害認定はされず、全ての残症状が自動的に認定されるわけではありません。
後遺障害等級認定の仕組み(全体の流れ)
後遺障害等級の認定を受けるには、まず医師から「「症状固定」の診断を受け、これ以上治療を続けても改善が見込めない状態と認められることが前提です。症状固定と診断されたら、通院先の医療機関に後遺障害診断書」の作成を依頼します。後遺障害診断書は後遺障害等級の審査で重要な資料となるため、事故で負った症状や治療経過を正確かつ詳細に記載してもらうことが大切です。必要な診断書を含め、交通事故証明書や診療報酬明細書、支払請求書など申請に必要な資料を揃えます。具体的には、医師の診断書のほか、事故証明書・事故発生状況報告書・通院領収書・給与明細など、事故前後の治療・生活状況を立証する書類が必要です。
準備が整ったら、加害者が加入する任意保険会社への提出方法(事前認定)か、被害者自身が自賠責保険会社に請求する方法(被害者請求)のいずれかで申請手続きを行います。事前認定では、被害者は医師の診断書などを保険会社に提出するだけで手続きは保険会社が代行します。一方、被害者請求では、必要書類を被害者自身が揃えて自賠責保険に請求します。いずれの場合も、資料提出後に損害保険料率算出機構(第三者機関)が審査を行い、最終的な後遺障害等級が決定されます。その認定結果に基づき、自賠責保険会社から等級に応じた保険金(逸失利益や慰謝料)が支払われる仕組みです。
等級の種類(簡単な解説付き一覧)
自賠責保険で定める後遺障害等級は、介護を要する重度障害(別表第一の1級・2級)と、それ以外の障害(別表第二の1~14級)に分かれます。等級は数字が小さいほど障害が重いことを表し、以下のような基準があります。
- 1級(要介護): 常時介護を必要とする重篤な障害。神経系や内臓機能に著しい障害を残した場合。また、両眼を失明したり両上肢・両下肢を大関節(ひじ以上・ひざ以上)で失ったりする例があります。
- 2級(要介護): 随時介護を要する重度障害。上肢・下肢などの重篤な喪失や、一眼失明+他眼視力0.02以下など。
- 1級(介護不要): 両眼失明、両上肢肘以上の喪失、両下肢ひざ以上の喪失など。介護要件を除く最高等級(保険金限度額3000万円)。
- 2級: 片眼失明+他眼0.02以下視力、両上肢手関節以上の喪失、両下肢足関節以上の喪失など(保険金限度額2590万円)。
- 3級: 片眼失明+他眼0.06以下視力、神経系・精神または内臓に著しい障害で就労不能等(限度額2219万円)。
- 4級: 両眼視力0.06以下、片上肢肘以上・片下肢ひざ以上の喪失など(限度額1889万円)。
- 5級: 片眼失明+他眼0.1以下視力、神経系・精神または内臓に著しい障害で軽易な労務も困難等(限度額1574万円)。
- 6級: 両眼視力0.1以下、片上肢・片下肢それぞれ2関節以上機能喪失など(限度額1296万円)。
- 7級: 片眼失明+他眼0.6以下視力、神経系・精神または内臓に障害で通常の労務が困難等(限度額1051万円)。
- 8級: 片眼失明または片眼視力0.02以下、片上肢・片下肢一関節以上の機能喪失など(限度額819万円)。
- 9級: 両眼視力0.6以下、神経系・精神または内臓に障害で労務が相当制限される等(限度額616万円)。
- 10級: 片眼視力0.1以下、片上肢・片下肢一関節の著しい機能障害など(限度額461万円)。
- 11級: 10歯以上の義歯補填、内臓障害で労務に相当支障がある例など(限度額331万円)。
- 12級: 7歯以上の義歯補填、局部の頑固な神経症状、片上肢一関節の機能障害など(限度額224万円)。
- 13級: 片眼視力0.6以下、5歯以上の義歯補填、内臓障害の残存など(限度額139万円)。
- 14級: 3歯以上の義歯補填、局部の神経症状、軽微な外貌醜状など(限度額75万円)。
これらの基準は自動車損害賠償保障法施行令で定められており、認定されると上記の保険金額を限度に補償を受けられます。
等級ごとの補償の違い
後遺障害等級が認定されると、自賠責保険から等級に応じた保険金が支払われます。例えば、介護が必要な重度障害(別表第一)で1級なら限度額4,000万円、2級なら3,000万円です。介護不要の障害(別表第二)では、1級で3,000万円、2級で2,590万円…14級で75万円が限度額となります。また、これらの保険金に加えて、年齢や職業に応じた逸失利益(事故がなければ得られたであろう将来の収入減)や後遺障害慰謝料も請求できます(例:1級で慰謝料1,650万円、14級で32万円程度)。認定された等級によって賠償額が大きく変わるため、後遺障害認定は被害者にとって重要な手続きです。
認定申請の方法(事前準備・書類・診断書の重要性など)
申請に先立ち、まずは症状固定の確認が必要です。医師から「これ以上治療しても回復しない」と告げられたら症状固定の診断となります。次に、前述のように医療機関で後遺障害診断書を作成してもらいましょう。この診断書には怪我の部位や状態、治療経過、検査結果などを具体的に記載してもらうことが非常に大切です。医師によっては作成に不慣れな場合もあるため、内容に不備や漏れがないか確認し、不足があれば補足を依頼すると認定に有利です。
併せて準備する書類には、交通事故証明書や事故発生状況報告書、病院の診療報酬明細書(治療費の領収書)、勤務先の給与証明書などがあります。これらは自賠責保険に請求する際に必要な添付書類で、事故の発生状況や通院記録、収入状況を裏付けます。加えて、支払請求書(自賠責保険所定の書式)や印鑑証明等も必要になるケースがあります。これらの書類を漏れなく揃えることで申請手続きを円滑に進められます。
診断書や証拠資料は申請後の審査で特に重視されるため、医師への説明を丁寧に行い、異常が残っていることを正確に伝えることが重要です。事故直後から治療経過を記録し、医師の指示に従って通院を継続しましょう。通院頻度も審査対象となり、通院が少ないと「軽度の症状」と判断される可能性があります。一方で不必要に通院を続けるのも問題ですので、医師と相談の上で適切な通院ペースを維持してください。
事前認定と被害者請求の違い
後遺障害申請には事前認定(加害者側保険会社経由)と被害者請求(被害者自身で自賠責請求)の二通りがあります。事前認定は被害者の負担が少なく、診断書を保険会社に提出すれば以降の手続きは保険会社が行ってくれます。メリットは手続きが簡単な点ですが、加害者側保険会社主導で進められるため、自分に有利な証拠が十分に揃えられない可能性もあります。また、事前認定では自賠責保険からの仮渡金(※後遺障害が確定する前に受け取れる一部の支払金)が受け取れません。
一方、被害者請求は被害者自身が資料を収集して請求するため手間はかかりますが、自分で診断書や治療記録を管理・提出できる利点があります。被害者請求を選択すると、仮渡金制度を利用して早期に一部の賠償金を受け取ることも可能です。提出書類を被害者自身が確認・追加できるため、必要な資料を漏れなく補うことで認定結果を有利にできるケースもあります。どちらの方法を選ぶかは、被害者自身の状況や手間の許容度に応じて判断しましょう。
申請時の注意点や失敗例
申請手続きでは、費用負担にも注意が必要です。後遺障害診断書の作成には医療機関へ手数料(5千~1万円程度)がかかります。この費用は認定されれば加害者側保険会社が支払いますが、認定されなかった場合は自己負担となる点に留意してください。高額な病院もあるので、事前に費用を確認しておくと安心です。
また、通院期間が短い・通院実績が乏しいと「治療不足」とみなされ認定が難しくなることがあります。事故直後から医師の指示に従って継続的に治療を受け、通院記録をしっかり残すことが大切です。症状に変化があれば速やかに医師に報告し、診断書にも正確に反映してもらいましょう。
審査後に結果通知が届いても、望んだ等級にならないことがあります。その場合は自賠責保険会社へ異議申立て(再審査請求)を検討できます。異議申立ては認定結果に納得がいかないとき、申請から3か月以内に行える手続きで、再度資料を提出して審査を受け直せます。ただし異議手続きにも時間がかかるため、初回申請の段階で資料を十分に整えておくことが重要です。
なお、後遺障害に関する損害賠償請求権には時効があります。損害の種類ごとに時効期間が異なり、後遺障害賠償の場合は症状固定の日の翌日から5年以内に請求する必要があります。長期間放置すると時効により請求できなくなるため、申請はできるだけ早めに行いましょう。
弁護士への相談のタイミングとメリット
交通事故や後遺障害の手続きに詳しい弁護士に相談することで、申請成功の可能性が高まります。最適な相談時期は、医師から症状固定と診断された直後です。その時点で弁護士に相談すれば、後遺障害等級認定の手続きや示談交渉の道筋を早期に立てることができます。
弁護士に依頼すると、治療頻度や診断書記載のアドバイスを受けられるほか、被害者請求に伴う面倒な書類収集・提出を丸ごと任せられます。専門家は後遺障害認定の審査ノウハウを持っているため、診断書の内容を事前チェックし不足があれば修正依頼を行ってくれます。これにより、申請がスムーズに進み適切な等級認定を受けやすくなります。弁護士費用は弁護士費用特約があれば実質負担なしで利用可能な場合もあるため、早めに相談窓口を利用しておくのが安心です。
申請から結果が出るまでの期間やその後の流れ
後遺障害等級の申請後、結果が出るまでには通常1か月~半年程度かかります。審査機関の混雑状況や等級内容によって前後しますが、提出後はしばらく経過を待つことになります。被害者請求の場合は審査中に仮渡金制度を利用でき、認定結果を待たずに加害者側から一定額を先に受け取ることもできます。
認定結果が通知されたら、まずその等級に応じた損害賠償金の請求手続きを相手方保険会社と進めます。通常、判明した等級を踏まえて後遺障害慰謝料や逸失利益を算定し、相手方保険会社と示談交渉に入ります。示談交渉の結果に納得できない場合は、改めて異議申立てなどの手段を検討します。後遺障害認定が確定すれば、以後の賠償額に大きく影響しますので、結果通知後の対応も慎重に行いましょう。
よくある質問とその答え
- Q: 後遺障害に認定されると何がもらえますか?
A: 後遺障害等級が認定されると、後遺障害慰謝料や逸失利益(将来得られるはずだった収入の減少分)を加害者側に請求できます。等級に応じて自賠責保険から所定の保険金が支払われるほか、任意保険や自賠責以外の賠償請求も可能になります。認定がなければこれらの補償は受けられません。 - Q: 後遺障害認定は必ずされますか?
A: いいえ、事故後に症状が残っていてもすべて認定されるわけではありません。認定には自賠責施行令で定める等級基準を満たし、所定の手続き・審査を経る必要があります。基準に満たない場合は「非該当」となり、自賠責保険からの保険金支払い対象外となります。 - Q: 後遺障害認定の申請に期限はありますか?
A: 交通事故の損害賠償請求権には時効があります。後遺障害賠償の場合、医師による症状固定の日の翌日から5年以内に請求(申請)を行う必要があります。それを過ぎると加害者に請求できなくなる場合があるので、認定申請はできるだけ早めに行ってください。 - Q: 弁護士にはいつ相談すればいいですか?
A: 後遺障害の申請や示談交渉を有利に進めるには、症状固定と診断された直後に相談するのが望ましいです。早めに相談すれば通院や書類準備のアドバイスを受けられ、認定準備を万全に進められます。その後も示談交渉や異議申立てなど随時サポートしてもらえます。 - Q: 診断書の作成は有料ですか?
A: はい、医療機関に後遺障害診断書を書いてもらうにはおおむね5千円~1万円程度の費用がかかります。費用は通常、一時的に被害者が負担しますが、後遺障害認定されれば加害者側保険から補償されます。なお、認定されなかった場合は補償されないため、その際は自己負担となります。病院によっては2万円以上のところもあるので、事前に確認しておくと安心です。 - Q: 事前認定と被害者請求はどちらがいいですか?
A: 一般的に、認定される等級を最大化したい場合は被害者請求が勧められます。事前認定は被害者の負担が少なく簡便ですが、手続きは加害者側保険会社が行うため、重要な資料が十分に提出されないリスクがあります。被害者請求は手間が増えますが、自分で資料をチェック・追加できるため認定に有利な証拠を逃しません。また、被害者請求では仮渡金制度で賠償金の一部を早期に受け取ることも可能です。状況に応じて選択してください。
以上が後遺障害等級認定の基本的な流れとポイントです。後遺障害認定は専門的な手続きですが、申請準備や適切な相談で適正な補償につなげることができます。不明点があれば早めに専門家へ相談することをおすすめします。