人身傷害保険とは?

人身傷害保険とは?

どんなに安全運転を心がけていても、交通事故に遭ってしまう可能性はゼロではありません。万が一、自分や家族がケガをしたときに備えるために、役立つのが人身傷害保険です。

本記事では、人身傷害保険の仕組みや補償内容、他の保険との違いなどを初心者にもわかりやすく解説します。

人身傷害保険とは、自動車事故によって運転者本人や同乗者がケガをしたり、死亡したりした場合に、その治療費や入院費、休業による逸失利益(仕事に行けなくなかった収入)、後遺障害による慰謝料などの実際にかかった損害を補償する保険です。この補償は任意保険の補償項目のひとつとして設定されており、加入するかどうかは契約時に自分で選択できます。保険会社やプランによって内容が異なるため、契約時には補償範囲を確認しましょう。

人身傷害保険の大きな特徴は、事故の相手がいるかどうか(相手のある事故か、単独事故か)や過失の有無・割合にかかわらず、実際の損害額を補償してくれる点です。たとえば、追突事故などで自分に過失があった場合でも、自分のケガに対して保険金が支払われます。示談交渉を待たずに先に医療費を受け取れるため、治療を続ける上で経済的に安心です。

なお、人身傷害保険は「人身傷害補償保険」と呼ばれることもありますが、ここでは「人身傷害保険」と表記しています。

人身傷害保険の補償内容

人身傷害保険に加入していると、以下のような損害が保険金で補償されます。

  • 治療費・入院費:事故によるケガの治療費用を実費でカバーします。医療費の自己負担分(保険適用後の3割など)も含めて補償されます。
  • 休業損害:事故でケガをして働けなかった期間について、働いていれば得られたはずの収入を補償します。
  • 後遺障害の逸失利益:事故による後遺障害で将来の収入が減少した場合、その減少分(逸失利益)を補償します。たとえば事故で手足が不自由になり、以前と同じ仕事ができなくなった場合の損害です。
  • 死亡・重度後遺障害慰謝料:万が一、契約者や同乗者が事故で亡くなったり重い後遺障害が残ったりした場合、葬儀費用や精神的な慰謝料などが支払われます。人身傷害保険には「倍額条項」があり、所定の重度後遺障害(要介護認定など)となった場合には、設定した保険金額の2倍まで保険金が支払われる場合があります。
  • 精神的損害(慰謝料):事故によるケガや入院で受けた精神的な苦痛に対する慰謝料が補償される場合があります。

なお、保険金には加入時に決めた上限(保険金額)があり、補償額はその上限まで支払われます。保険金額を十分に設定しておくことが重要です。

また、人身傷害保険には補償の範囲によって主に2つのタイプがあります。

  • 車内補償のみ型:契約した車に乗っている場合(契約車に搭乗中)のみ補償します。基本的に自動車事故で車内にいるときのケガ・死亡が対象となります。
  • 車内・車外補償型:契約車に乗っている場合に加え、自動車事故で歩行中や自転車走行中にもケガをした場合に補償します。たとえば、横断歩道で車にはねられた場合や、自転車で走行中に事故に遭った場合でも補償対象となります。

それぞれの補償範囲を確認して、自分の生活パターンに合ったタイプを選びましょう。

他の自動車保険との違い

自動車保険には「自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)」と「任意保険」があり、人身傷害保険は任意保険の一部です。代表的な他の保険との違いは以下のとおりです。

  • 自賠責保険(強制加入):法律で加入が義務づけられている保険で、事故で他人(被害者)の死傷に対して最低限の補償を行います。ただし、保険金額に上限があるため高額な損害には不足します。また、自賠責保険では運転者自身や同乗者のケガは補償されません。
  • 対人賠償責任保険(任意):事故で他人(被害者)のケガや死亡に対して賠償する保険です。自賠責で不足する部分をカバーし、補償額は無制限に設定するのが一般的です。しかし、この保険も運転者自身や同乗者のケガには対応しません。
  • 搭乗者傷害保険:契約車に乗っているドライバーや同乗者がケガをしたときに、ケガの程度に応じてあらかじめ定められた金額が支払われる保険です。例えば骨折や切り傷などの種類ごとに保険金額が決まっています。支払額は定額のため、治療費の実際の全額が補償されるわけではありません。人身傷害保険では、こちらの補償内容よりも広く実損をカバーできます(必要であれば、両方付けることも可能です)。

以上のように、人身傷害保険は「自分や家族のケガ・死亡に対する補償」であり、過失割合にかかわらず実際にかかった損害額を補償します。他の保険で補償しきれない不足分を補う役割があります。

なぜ人身傷害保険が必要なのか

交通事故では、相手方が賠償責任を負わないケース(単独事故や無保険車との事故、当て逃げなど)もあります。また、相手がいても支払いが長引くと目の前の治療費をどうするか不安になります。人身傷害保険は、こうした場合でも自分や同乗者の損害を補償してくれます。

人身傷害保険の必要性としては、次のような点が挙げられます。

  • 自己負担リスクの軽減:相手に十分な保険がない事故や単独事故の場合でも、自分や同乗者の治療費や休業損害を保険でまかなえます。自分に過失がある事故でも補償される点が安心材料です。
  • 高額な医療費・損害への対応:大きなケガを負った場合、健康保険ではカバーできない部分や、後遺障害で長期間働けなくなったときの収入減少(逸失利益)にも備えられます。重度の後遺障害になれば、通常の保険金額では不足する可能性があります。
  • 迅速な保険金受取:示談交渉前に保険金を受け取れるため、治療費の支払いなどで経済的な余裕が生まれます。相手との話し合いが長引いても、治療に専念しやすくなります。

このように、人身傷害保険があれば万が一の事故でも安心して治療に専念でき、あとから発生する経済的な負担に備えられる点で必要性が高いと言えます。

加入時の注意点

人身傷害保険に加入する際は、次のような点に注意しましょう。

  • 補償範囲の選択:「車内補償のみ型」と「車内・車外補償型」のどちらにするか、契約時に確認しましょう。一般的に、車外補償が含まれる型は保険料が高くなるため、日頃の移動範囲やリスクを考慮して選びます。
  • 保険金額の設定:保険金額(上限)を十分に設定しておくことが大切です。万が一の大ケガや重い後遺障害が残った場合に備え、自身の年収や必要な補償額を考えて設定しましょう。金額が低すぎると、実際の損害をすべてカバーできない可能性があります。
  • 健康保険との併用:人身傷害保険を使う場合でも、まず健康保険で治療費を支払うのが一般的です。健康保険の自己負担分を除いた額を人身傷害保険に請求する仕組みになるので、事前に健康保険証を準備しておくとよいでしょう。
  • 免責金額の確認:保険契約によっては、例えば1万円などの免責金額(自己負担額)が設定されている場合があります。契約前に免責の有無や金額を確認し、必要に応じて免責なしのプランを選びましょう。
  • 事故報告と手続き:事故が起きたらすぐに保険会社に連絡し、所定の手続きを行いましょう。診断書や領収書などの証拠書類は大切に保管し、スムーズに保険金請求できるように準備します。
  • 補償されないケース:故意の事故、飲酒・無免許運転、法定速度を大幅に超過した重大事故などの場合は、保険金が支払われないことがあります。安全運転を心がけ、事故を起こさないことが何より大切です。

これらのポイントを確認して、自分に合った補償内容を選びましょう。

よくある質問(Q&A形式)

  • Q: 人身傷害保険では誰が補償されますか?
    A: 契約している自動車に搭乗していた運転者本人や同乗者が補償対象となります。家族だけでなく友人や同僚など、誰が乗っていても補償されます。また、契約で車外補償型を選んでいれば、自動車事故によって歩行中や自転車走行中にケガをした場合も補償の対象になります。
  • Q: 対人賠償保険や自賠責保険とはどう違いますか?
    A: 対人賠償責任保険は「事故で他人(被害者)のケガや死亡」を補償する保険で、自賠責保険はその最低限の補償を法律で義務付けたものです。いずれも自分自身や同乗者のケガは補償しません。これに対し、人身傷害保険は「契約車に乗っている自分や同乗者」のケガを、過失割合にかかわらず実際にかかった損害額で補償します。
  • Q: 搭乗者傷害保険とは何が違いますか?
    A: 搭乗者傷害保険も契約車に乗っている人が対象ですが、ケガの程度に応じてあらかじめ定められた金額が支払われる仕組みです。一方、人身傷害保険は実際にかかった治療費や休業損害などの実損額が支払われます。また、人身傷害保険の車外補償型を選べば、車の外での事故も補償範囲になります。必要であれば両方の保険を併用することも可能です。
  • Q: 保険金額はどのくらいに設定すればいいですか?
    A: 事故で大きなケガを負ったときの医療費や、長期間働けなくなった場合の収入減少を考えて設定します。一般的には数千万円~1億円程度に設定する人が多いです。ご自身の年収や家族構成、将来の収入の損失などを踏まえて、万一のときに安心できる十分な金額に設定しましょう。
  • Q: もし人身傷害保険に加入していなかったらどうなりますか?
    A: 人身傷害保険は義務ではありませんが、加入していないと事故で自分や同乗者がケガをしても補償を受けられません。自分に過失がある事故では、自分の医療費は自己負担となり、相手に請求するには示談交渉が必要です。また、単独事故や相手のない事故の場合、自賠責保険も使えず全額自己負担となります。
  • Q: 人身傷害保険は健康保険と併用できますか?
    A: はい、交通事故でケガをした場合も健康保険が利用できます。まず健康保険で医療費の支払いを行い、その後に人身傷害保険に請求します。人身傷害保険では、健康保険の自己負担分を除いた実際の損害分(入院・通院費など)を保険金として受け取れます。
  • Q: 人身傷害保険に入ると保険料はどれくらい増えますか?
    A: 保険料は補償範囲(車内のみか車外までか)や設定する保険金額、ドライバーの年齢などで変わります。一般的な普通車の場合、車外補償を含めて保険金額3,000万円前後に設定したとき、年間で数千円~1万円程度の追加保険料になることが多いです。必要な補償を考えながら保険料とのバランスを検討しましょう。

まとめ

  • 人身傷害保険は、自動車事故で運転者本人や同乗者が負ったケガや死亡による損害を、過失割合にかかわらず補償する保険です。医療費や休業損害などの実際の損害が、設定した保険金額の範囲内で支払われます。
  • 自賠責保険や対人賠償保険だけでは補償されないケース(単独事故や相手のない事故、自分の過失が大きい事故など)でも適用されるため、万一のときの経済的な安心につながります。
  • 補償範囲(車内のみか車外までか)や保険金額、免責金額などの契約内容をよく確認し、自分に合ったプランを選びましょう。保険料とのバランスを考えつつ、将来のリスクに備えることが大切です。
  • 以上のように、人身傷害保険は自分や家族を守るために役立つ補償です。安心してドライブを楽しむためにも、内容を理解して適切に活用しましょう。
  • 自動車保険には他に「対人賠償保険」や「車両保険」などがありますが、それらは主に他人や車の損害をカバーするものです。人身傷害保険は自分や同乗者のケガを守る補償であることを改めて押さえておきましょう。
  • 人身傷害保険に加入しておくことで、万一の事故でも家計の負担を大きく減らせます。ご自身やご家族が安心して治療に専念できるよう、補償内容を確認しつつ検討しましょう。
  • 安全運転を心がけるのは大前提ですが、万が一に備えることで精神的な余裕も生まれます。人身傷害保険を含めた自動車保険の補償を確認して、安心なカーライフを送りましょう。

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