交通事故における過失割合とは何か?

交通事故における過失割合とは何か?

交通事故の過失割合とは、事故の当事者それぞれの落ち度(不注意や過失)の程度を割合(%)で表したものです。たとえば「相手の不注意80%:自分20%」であれば、「過失割合80対20」と表現します。この過失割合が、最終的に支払われる損害賠償額を左右します。自分の過失分(%)は相手に請求できないため、被害者の過失割合が増えるほど受け取れる賠償金が減額されます。実際、「自分の過失が20%なら、修理費や治療費などの20%は請求できない(80%しか請求できない)」といった計算になります。したがって、適正な過失割合の算定は被害者側にとって非常に重要なポイントです。

過失割合の決まり方と基準

過失割合は、事故の状況(事故類型)をもとに「話し合い」で決めるのが一般的です。法律で厳密に決まっているわけではありませんが、過去の裁判例を蓄積した指針を参考にします。特に多用されるのが、東京地裁の民事交通訴訟研究会編『別冊判例タイムズ38号』(全訂5版)で、事故類型ごとの「基準となる過失割合」がまとめられています。実際の示談では、この資料に基づいて当事者(保険会社同士)が「基本割合」を確認し、さらに必要に応じて個別の事情(修正要素)を加味して決定します。

修正要素には、たとえば「徐行義務違反」「ウインカー未使用」「幹線道路通行」「既に右折中」などさまざまな事情があります。これらは交通ルール違反や安全確認不足の度合いに応じて過失割合を増減させる要因で、高度な違反ほど不利に修正される仕組みです。たとえば合図もせず右折したり速度超過があったりすると、基本割合より相手に不利に修正されることがあります。このように、事故の状況に応じた基本割合と修正要素を検討して過失割合が決まります。

よくある事故パターン別の過失割合

実際の事故では、典型的なパターンごとに一般的な過失割合の目安があります。以下に代表例を挙げます(事故の細かい状況や修正要素によって変動することがあります)。

  • 追突事故(後方からの衝突): 停車中の車や赤信号で停止中の車に後方から衝突された場合、前方車の過失は**原則0%**とされます。停止している車は正当な運転で、いかに安全確認しても衝突を防げないため、被害者側過失0%が基準です。ただし、前方車が理由なく急ブレーキをかけた場合など特異な事情があるときは、後続車にも一定割合の過失(たとえば70:30など)が認められることがあります。
  • 信号機付き交差点事故(直進 vs 右折): 被害者が青信号で直進し、加害者が対向から青信号で右折進入してきて衝突した例では、**直進車20%:右折車80%**という基本割合となることが多いです。右折車は対向の直進車の進行を妨害してはいけないため、右折車の過失が大きくなるわけです。ただし、右折車が既に右折を完了している段階で追突された場合や、合図がなかった場合など、修正要素によって増減する場合があります。
  • 信号機なし交差点事故(左方優先など): 信号のない交差点では「左方車優先」「広路優先」といった一般ルールが適用されます。たとえば道幅が同じ場合、交差点にほぼ同時に進入して衝突すると、左方車優先のルールから左方車の過失が小さくなるよう割合が決まることがあります(具体例では40:60など)。こちらも具体的な交通ルール違反や速度の有無で割合が変わるため、基本通りとは限りません。
  • その他のケース: 右折と左折の衝突、直進同士の衝突、歩行者や自転車との衝突など、事故形態によっても相互の優先関係やルールが異なります。一般的な目安としては、優先道路上を直進する車とそれに道を譲る車との衝突では直進車側の過失が低くなりやすい、歩行者横断中に車が衝突した場合は車側に高い過失が認められる(歩行者優先)など、交通ルールの考え方が反映されます。いずれも、基本割合は文献や判例で公表されているケースが多いため、実際にはその参考値をもとに話し合って決めます。

過失割合の交渉方法

事故後の示談交渉では、通常、被害者側と加害者側の保険会社同士が代理で話し合い、過失割合や賠償金額を決定します。被害者本人が直接交渉することは稀で、多くの場合、自分と相手それぞれの任意保険会社が示談交渉サービスを通じて調整します。示談交渉では、事故状況や証拠を踏まえて最終的な過失割合をお互いに提示し、合意を目指します。合意が成立すると、加害者側の保険会社から示談書(和解契約書)が送られます。この示談書には「過失割合」「示談条件(賠償金額や支払方法など)」が記載されており、内容を確認して署名捺印のうえ返送することで示談が成立します。

被害者にも一定の過失が認められる場合、示談交渉の負担軽減策として保険会社が示談代行サービスを提供している場合があります。このサービスを使うと、保険会社が過失割合や賠償額の交渉を代わりに行ってくれます。ただし、保険会社(任意保険基準)による算定額は、弁護士など専門家(弁護士基準)が算定する額より低めになることが多いため、最終的な金額や過失割合に納得できない場合は注意が必要です。示談交渉では、自分に有利な資料(実況見分調書や目撃情報、類似ケースの判例など)を根拠に提示すると、より適正な割合を主張しやすくなります。

過失割合に納得できないときの対応策

提示された過失割合に納得がいかない場合でも、あきらめる必要はありません。まずは保険会社との示談交渉の場で粘り強く交渉しましょう。相手保険会社に「この割合になった理由は何か」を尋ねたり、警察の実況見分調書、ドライブレコーダーや防犯カメラ映像、目撃者の証言など事故状況を示す証拠を提出して説明することで、自分側の主張を裏付けます。また、当てはまる事故状況の過去判例や専門書を示すことも有効です。

しかし、被害者が一人で証拠を集めたり、判例を調べたりして交渉するのは難しいことが多いです。そのため、交通事故に詳しい弁護士に相談するのも有効な手段です。専門家が間に入ることで、保険会社に対して法的根拠を示しながら説得力のある主張ができるようになります。弁護士に依頼すると費用がかかりますが、多くの自動車保険には「弁護士費用特約」が付帯しており、この特約を使えば弁護士費用を保険でカバーできます。

それでも交渉で合意に至らない場合は、示談以外の手段を検討します。たとえば、ADR(裁判外紛争解決)の「交通事故紛争処理センター」や簡易裁判所での調停制度を利用する方法があります。交通事故紛争処理センターは、交通事故に詳しい中立の弁護士が間に入り、公正な立場で和解案を提示してくれる機関です。利用は無料かつ非公開で、示談交渉が難航する場合に頼りになります。さらには、最終的には裁判を提起して裁判所に過失割合や賠償金を判断してもらうことも可能です。これらの法的手段を検討する際にも、弁護士のサポートを受けることがスムーズな解決につながります。

ドライブレコーダーや証拠の重要性

近年は多くの車にドライブレコーダーが搭載され、事故の瞬間を映像で記録できるようになりました。ドライブレコーダー映像は事故発生前後の状況を客観的に示すため、過失割合の判断に非常に役立ちます。当事者同士の証言が食い違っている場合でも、「実際にどちらが何色の信号で進入したか」「車の位置関係はどうだったか」などを映像で確認できるため、正しい事故状況を証明しやすくなります。保険会社もドライブレコーダー映像があると過失割合を決めやすくなるため、提出を求めるケースが多いです。ただし、提出は任意であり、相手が拒む場合は裁判所の命令が必要になります。

また、警察が作成する実況見分調書も過失割合を決める重要な証拠です。実況見分調書には事故現場の状況や車両の動き(相手車両を発見した地点、ブレーキ位置、衝突地点など)が詳細に記録されています。これらの映像・書面による証拠を示談交渉や訴訟で提示することで、「自分にはこんなに注意していた」「相手が赤信号で交差点に侵入した」など、自分に有利な事情を客観的に示せます。実際にドライブレコーダー映像などで事故状況を証明し、早期に過失割合0%で示談できた事例も報告されています。事故後は証拠の保全(映像データの保存や事故写真の撮影、目撃者確保など)を意識し、示談交渉に備えることが大切です。

安全運転へのアドバイス

交通事故を防ぎ、過失割合で不利にならないためには、何より普段からの安全運転が不可欠です。以下のような点に注意しましょう。

  • 速度と車間距離の確保: 速度は法定速度だけでなく道路状況に応じた「安全速度」を守りましょう。前方車両との車間距離を十分にとることで、急ブレーキ時にも追突を避けやすくなります。
  • 信号・標識・優先道路の遵守: 交差点では赤信号で止まる、横断歩道前で歩行者を優先するなど基本ルールを徹底します。見通しの悪い交差点では、一時停止や一時徐行して左右をよく確認しましょう。
  • 方向指示器や確認の徹底: 右左折時は早めにウインカーを出し、合図をしていないとみなされないようにします。車の死角(サイドミラーに映りにくい位置)に歩行者・自転車がいないか、特に注意して確認してください。
  • 悪天候・夜間の注意: 雨天・強風・夜間など視界が悪いときは速度を落とし、ライトで早めに周囲を確認しましょう。タイヤの溝やライト点灯、ワイパーの状態など、車両の点検も怠らないようにします。
  • 気を散らさない運転: 運転中はスマートフォン操作をせず、ながら運転は絶対に避けましょう。また、疲れや眠気を感じたら休憩をとり、集中力を維持することが大切です。

これらの安全運転の心がけにより、事故の発生リスクを減らし、万一事故に遭った際も自分の過失を抑えることにつながります。日頃から事故の予防を徹底し、安全なドライブを心がけましょう。

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