ここ数年、世界各国で電気自動車(EV)の販売台数が大きく伸びています。かつては一部の先進的な国や企業による取り組みに限られていましたが、今ではグローバル規模でEVシフトが加速しています。特に中国やヨーロッパ圏の各国は、政府の普及政策や充実した購入補助金を活用して大きく伸ばしており、世界全体でもEV市場の勢いが著しく高まっている状況です。
当記事では、世界の電気自動車の最新動向を詳しく解説します。普及率や販売台数、総台数をはじめ、国ごとのEV普及目標や充電インフラの整備状況、そしてどのメーカー・モデルが人気を集めているのかまで網羅してお伝えします。今後のEV市場を見通すうえで押さえておきたいポイントを整理しましたので、ぜひご覧ください。
世界の電気自動車の普及率は18%
EV普及率が年々上昇
国際エネルギー機関(IEA)の発表データによると、電気自動車(BEV・PHEV)の新車販売台数が全体に占める割合は、2023年時点で世界平均18%まで拡大しています。2020年は4.2%、2021年は9%、2022年は14%、そして2023年には18%と、ここ数年で大幅な伸びを見せています。
とくにここ3~4年で伸びが顕著で、従来の「EVはまだ実用に不安がある」といったイメージが少しずつ払拭されつつあることが伺えます。
BEV(Battery Electric Vehicle)
完全に電気のみで駆動するバッテリー式電気自動車。内燃機関は一切持たず、充電スタンドなどから電力を補給して走行します。PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)
エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド車の一種で、外部電力からの充電が可能なタイプ。基本的にはバッテリーでモーターを駆動し、バッテリー残量が不足するとエンジンが補助を担います。
国別の普及率
2023年時点で、電気自動車(BEV・PHEV)の新車販売台数に占める割合がもっとも高いのはノルウェーで、なんと93%という圧倒的な数字を記録しています。アイスランド71%、スウェーデン60%、フィンランド54%、デンマーク46%と、北欧を中心としたヨーロッパの国々が上位を占める状況です。
ヨーロッパ全体では21%となり、2023年に販売された新車のうち5台に1台以上が電気自動車という計算になります。
一方で、中国は38%と、ヨーロッパ以外の地域で頭一つ抜けた存在といえます。エリア全体での市場規模が非常に大きいこともあり、普及率に加えて販売台数や総台数の面でも世界をリードする存在となっています。
日本の普及率は3.6%にとどまり、主要先進国のなかでは低めに推移しているのが実情です。国内では、EV購入時の補助金制度や充電インフラの整備など、政策面の拡充が課題とされています。
世界のEV販売台数と総台数
中国が世界最大のEV市場
世界全体の電気自動車市場をリードしているのは中国です。
2023年のEV販売台数は約1,400万台に達しましたが、そのうち約60%が中国で販売されました。さらに欧州が約25%、アメリカが約10%を占めています。中国・欧州・アメリカの3地域だけで世界の自動車販売総数の約65%に及んでおり、いかにこの3市場がEVのグローバル動向を牽引しているかが分かります。
中国
- 2023年の電気自動車販売台数:810万台(世界シェア約60%)
- EV総台数:2,190万台(世界のEVの半数以上)
中国国内では比較的安価な小型EVも人気を集めており、補助金の段階的な終了後も勢いは衰えていません。都市部を中心に充電インフラが急速に拡大していることも普及を後押ししています。
ヨーロッパ
- 2023年の電気自動車販売台数:330万台(世界シェア約25%)
- EV総台数:1,120万台(世界全体の約28%)
ヨーロッパでは、ノルウェーやアイスランドなど非常に高い普及率を持つ国も多く、補助金や税制優遇を受けて勢いよく販売台数を伸ばしてきました。2023年に販売された新車のうち約21%がEVとなっており、これは世界平均18%を上回る数字です。
なかでもドイツは欧州最大の自動車市場であり、2022年には83万台が販売されましたが、2023年には補助金が停止された影響で70万台に減少。それでも依然として欧州1位のEV市場を維持しています。フランス(47万台)、イギリス(45万台)と続きます。
アメリカ
- 2023年の電気自動車販売台数:139万台(世界シェア約10%)
- EV総台数:480万台(世界の約12%)
アメリカでは、テスラをはじめとした国内メーカーのブランド力や広大な地域におよぶ急速充電ネットワークの展開などが普及を支えています。さらにインフレ抑制法(IRA)による税額控除の影響もあり、今後も継続的に販売台数が上昇すると予想されています。
日本
- 2023年の電気自動車販売台数:14万台(世界シェア約1%)
- EV総台数:54万台(世界のEVの約1%)
日本は他の主要先進国と比較するとまだEV導入が遅れているといえます。ただし、政府が2035年までに新車販売をすべて電動車にする目標を掲げていることから、中期的にはさらなる普及拡大が期待されます。
世界のEV充電インフラの動向
充電インフラの整備が普及のカギ
電気自動車の普及には、車両そのものだけでなく充電インフラの整備が欠かせません。特に公共の充電スタンドの数が十分でないと、EV購入をためらうユーザーも多く、各国がインフラ拡充に力を注いでいます。
2023年時点の世界の公共EV充電器は約390万台に達しました。
その内訳を見ると、
- 中国:普通充電器150万台、急速充電器120万台(世界の急速充電器の約85%、普通充電器の約60%)
- ヨーロッパ:普通充電器59万台、急速充電器11万台
- アメリカ:普通充電器14万台、急速充電器4万3,000台
- 日本:普通充電器2万2,000台、急速充電器9,600台
といった状況です。なかでも中国はインフラ数でも世界を圧倒しており、特に急速充電器に関しては世界全体の85%以上が中国に集中しています。
アメリカの充電規格統一の動き
アメリカでは、充電器の数だけでなく充電規格の統一が注目を集めています。2023年12月には自動車技術者協会(SAE International)が、テスラの北米充電規格(NACS)を北米全域の標準として使用することを正式に発表しました。
従来はCCS(Combined Charging System)など複数の規格が併存しており、車種ごとに利用できる充電ステーションが異なるという課題がありましたが、NACSの標準化が進むことで相互運用性が高まり、ユーザーがより便利に充電環境を利用できるようになることが期待されています。
日本の充電インフラ目標
日本政府は2030年までに公共用の急速充電器3万口を含む充電器30万口を整備することを目標に掲げています。これによって「ガソリン車と同じ感覚でどこでも充電できる」環境に近づけ、EV普及の遅れを取り戻そうとしています。
日本における現状の急速充電器は1万口にも満たないため、今後はロードサイドや商業施設、サービスエリアなどを中心にさらなる設置促進が望まれます。
各国政府の電気自動車普及目標
中国
中国政府はもともと2030年までに新エネルギー車(NEV)の新車販売比率を40%以上、2035年には50%以上にする目標を掲げていましたが、電気自動車市場の急拡大に合わせて新目標を引き上げ、2027年までにNEV比率を45%にまで伸ばす考えを示しています。
ガソリン車に対しても、2035年にはすべてのガソリン車をハイブリッド(HV)に切り替える方針を打ち出しており、従来型のエンジン車は市場からほぼ姿を消すことになるでしょう。
政府購入補助金は2022年末で終了しましたが、販売台数の伸びは衰えていません。価格競争力のある小型EVの台頭や、都市部での環境意識の高まりがさらなる普及を後押ししています。
ヨーロッパ
欧州連合(EU)は2035年までに、合成燃料(e-fuel)を除くガソリン・ディーゼル車の新車販売を禁止する方針を打ち出しました。早期からEV購入補助金や税金の優遇措置を手厚く実施してきた背景があり、ノルウェーやアイスランド、スウェーデン、ドイツ、オランダといった国々が高いEV普及率を誇っています。
ただし、普及が進むにつれ、補助金や税優遇の段階的な廃止や縮小に移行する国も増えています。充電インフラ整備や電力インフラの安定供給など、次のステップに移っている段階といえるでしょう。
アメリカ
アメリカ政府は2030年までに新車販売のうち50%以上をEVと燃料電池車にする目標を掲げています。
2022年8月に可決されたインフレ抑制法(IRA)では、北米で最終組み立てを行うEVに対して1台あたり最大7,500ドルの税額控除を認める制度を整えました。これにより、国内外メーカー問わず北米での生産を増やし、雇用創出とEV普及を同時に推進する狙いがあります。
また、充電ステーションの設置や整備にも大規模な投資を行っており、EVユーザーが利用しやすいインフラ環境を整えることにも注力しています。
日本
日本政府は2035年までに新車乗用車販売を100%電動車にするという目標を掲げています。ここでいう「電動車」にはHV(ハイブリッド車)・PHEV・EV・FCVなどが含まれます。
さらに、2030年までに公共用の急速充電器3万口を含む30万口の充電インフラを整備し、ガソリン車並みの充電利便性を目指します。購入補助金や充電インフラ導入補助金の予算も拡充されており、今後、国内メーカーのEVラインナップが充実してくれば普及に弾みがつくと期待されています。
韓国
韓国政府は2030年までに電気自動車を420万台普及させ、EV1.9台あたり1台の充電器(約123万台の充電インフラ)を整備する目標を掲げています。
補助金については、車両価格が5700万ウォン(約600万円)未満であれば満額支給される仕組みで、消費者がEVを購入しやすい環境を整えています。また、自動車メーカーとの連携でバッテリー開発を加速し、世界のEV生産国トップ3入りを目指すなど、産業面でも積極的な戦略を打ち出しています。
世界で販売台数トップの電気自動車メーカー・モデルは?
世界トップメーカーは「BYD」
2023年のグローバルEV市場で最も多くの車両を販売したのは、中国のBYD(比亜迪)です。もともとバッテリー製造を中核事業としており、2008年に電気自動車の販売を開始。質の高い自社バッテリーを武器に、手頃な価格帯の車種を数多く展開して一気にシェアを拡大しました。長らく世界1位の座にあったアメリカのテスラを抜いて世界最大のEVメーカーに成長した点は非常に注目されています。
2位にはテスラが続きます。テスラはEV専業メーカーとして、長距離走行性能や高性能な自動運転技術を武器に市場を先導してきました。充実した急速充電ネットワーク(スーパーチャージャー網)を自前で構築していることも強みで、ユーザーからは高い支持を得ています。
3位にはドイツのBMW、4位には中国のGAC Aion、5位にはフォルクスワーゲンといった順番です。注目は7位に急浮上した中国のLi Auto(理想汽車)で、新興メーカーながら急速に販売台数を伸ばしており、来年以降もさらなる躍進が期待されています。
日本メーカーではトヨタが19位にランクイン。欧米や中国勢と比較するとやや出遅れている印象ですが、グローバル展開を加速させる方針が示されており、今後の巻き返しに注目が集まります。
世界トップモデルは「テスラ モデルY」
モデル別の販売台数を見ると、2023年は「テスラ モデルY」が首位となりました。SUVタイプであるモデルYは、広い車内空間と高い航続距離を兼ね備えており、北米だけでなく欧州や中国でも人気を博しています。
2位にはBYD「Song」、3位にテスラ「モデル3」が続きます。BYDの「Song」は手ごろな価格帯に豊富なモデルバリエーションを展開し、中国国内で特に支持を集めています。そのほか、BYD「Qin Plus」「Yuan Plus / Atto3」「Dolphin」など複数の車種が上位にランクインしているのも特徴的です。
トップ20のうち16車種が中国メーカー製であることから、中国勢が世界市場を席巻しつつある現状がはっきりと見て取れます。
世界の電気自動車、今後の展望
国際エネルギー機関(IEA)の見通しでは、2030年には世界の電気自動車総台数が2億5,000万台、2035年には5億2,500万台に達すると予測されています。これは、2035年には路上にある4台に1台がEVになる計算であり、現在の18%からさらに大きく普及が進むことが見込まれます。
また、年間の新車販売台数においても、2030年に約4,500万台、2035年には約6,500万台に増えるとされ、普及率は2030年に40%、2035年には50%を超えるという試算があります。
これだけ大規模に電気自動車が普及するためには、今以上に充電インフラが整備される必要があります。IEAの試算によれば、世界のEV充電器の台数は2030年までに現在の4倍となる1,500万台を超える見通しです。国を挙げたインフラ拡大施策や充電方式・充電規格の統一、電力の安定供給など、クリアすべき課題は多々ありますが、EV市場が拡大し続けることはほぼ確実といえるでしょう。
まとめ
2025年時点での世界の電気自動車動向を振り返ると、以下のポイントが挙げられます。
- 世界の電気自動車普及率は18%(2023年)
2020年から続く大幅な伸びにより、いよいよ新車販売の約2割をEVが占める時代に突入しました。 - 世界の電気自動車販売台数は約1,400万台(2023年)
そのうち約60%を中国が占め、ヨーロッパ(25%)、アメリカ(10%)が続きます。 - 世界の電気自動車総台数は約4,000万台(2023年)
半数以上が中国、約3割近くを欧州が保有し、アメリカが続いています。 - 世界の公共EV充電器は約390万台(2023年)
中国がそのうち大半を占め、世界の急速充電器の約85%、普通充電器の約60%を有しています。 - 国や地域によって普及スピードに差
ノルウェーのように90%以上の新車がEVという国もあれば、日本のようにまだ数%にとどまる国もあります。各国政府はそれぞれ高い目標を掲げ、補助金やインフラ整備などの施策に力を入れています。 - 世界で最も売れている電気自動車メーカーはBYD
2位にはテスラ、3位にはBMWが続きます。モデル別ではテスラ「モデルY」が1位、BYD「Song」が2位を獲得。 - 今後の見通し
IEAは2035年までに世界のEV総台数が5億台を超えると予測。普及率も50%を超える可能性が高く、急速充電インフラの拡充や電力安定供給体制の整備など、今後も各国で課題に取り組みつつ市場が拡大していくとみられます。
国によって政策やインフラ整備状況、消費者の意識が異なるため、EVの普及ペースにはまだばらつきがあります。しかし、車種の充実化や充電時間の短縮化、電池の低コスト化など、技術的な進歩が着実に進んでおり、電気自動車の選択肢は広がる一方です。温室効果ガス削減という地球規模の課題と相まって、電気自動車の普及はこれからも加速するでしょう。
メーカー各社は競争しながら新型EVの開発を推し進め、世界各国の消費者はより多様なEVを選べるようになっていく流れです。今後も各国政府の政策や補助金、インフラ投資の拡大を注視しつつ、世界の電気自動車市場がどのように成長を遂げていくか注目していきたいところです。