アイドリングストップを廃止するメーカーが増加中!その理由は?

アイドリングストップを廃止するメーカーが増加中!その理由は?

近年、一時期はほぼ標準装備かと思われたアイドリングストップ機能を「あえて廃止」または「新型車で非搭載化」するメーカーが増えてきています。アイドリングストップはエンジン停止により燃料消費と排気ガスを削減する仕組みとして登場しましたが、時代の変遷や技術の進歩によって、その存在意義やユーザーにとってのメリット・デメリットが改めて見直されている状況です。この記事では、アイドリングストップ機能の基礎から、なぜメーカーが廃止に動いているのか、そして実際に搭載する場合のメリット・デメリットについて、わかりやすく解説します。クルマ選びの参考にしてみてください。

クルマの基礎知識

はじめに、アイドリングストップの話題に入る前に、クルマの燃費やエンジン制御に関する基礎知識を整理しましょう。アイドリングストップはその名のとおり、信号待ちなどで停止している間にエンジンを止めることで燃料を節約し、環境負荷も軽減する仕組みとして登場しました。かつては「ストップ&ゴー」が多い市街地走行において、燃費数値を少しでも向上させるための有力手段とされてきたのです。

しかし、自動車技術は近年大きな進歩を遂げ、エンジン内部の摩擦低減技術や、ハイブリッドシステム・モーターアシストなどの新技術が普及・進化しました。その結果、アイドリングストップが持っていた「燃費向上」「排気ガス削減」というメリットが相対的に小さくなりつつあります。一方で、アイドリングストップの再始動における振動やタイムラグ、専用バッテリーの高コストなどのデメリットが目立つようになり、メーカーやユーザーの評価が変化してきたのです。

アイドリングストップ廃止に向かうメーカー

実際に、アイドリングストップ機能を完全に廃止している国内メーカーはないものの、新型モデルやマイナーチェンジのタイミングで「アイドリングストップをあえて搭載しない」という動きが徐々に広がっています。その代表的な例として、トヨタ、ホンダ、ダイハツの3社が挙げられます。

以下は、各社がアイドリングストップ非搭載化へ向かう動きと、具体的な車種例です。

  • トヨタ
    2018年以降の新型ガソリン車を中心に非搭載化する傾向があります。たとえば、ヤリス、シエンタ、ノア/ヴォクシー、アルファードなどではアイドリングストップを採用していません。ハイブリッド技術の普及や、エンジン自体の高効率化によって、アイドリングストップなしでも十分に燃費面でアピールできることが背景にあります。
  • ホンダ
    2022年頃から、ガソリン車を中心にモデルチェンジや新型投入時にアイドリングストップ非搭載へ切り替える傾向があります。具体的には、フィットやWR-V(海外モデル)、ヴェゼル、フリードなどでアイドリングストップを採用していないケースが確認できます。ホンダもまたハイブリッド技術に注力しており、電動化で燃費や走りをカバーできると考えられます。
  • ダイハツ
    2023年から、一部の車種でアイドリングストップ非搭載車のラインナップを開始しています。タント、タフト、ムーヴキャンバスなどで非搭載モデルが存在し、「アイドリングストップなし」を求めるユーザーにも対応する形をとっています。ダイハツは軽自動車メーカーとして燃費重視のイメージが強いですが、ユーザーニーズの多様化や、実際の使用環境を踏まえて判断したと考えられます。

もちろん、これらのメーカー以外にもアイドリングストップ非搭載の車を販売しているケースはあります。もし中古車などでアイドリングストップ非搭載車を積極的に探したい場合は、ディーラーや中古車販売店に問い合わせてみると良いでしょう。

積極的に採用を続けるメーカーも

一方で、すべてのメーカーがアイドリングストップ非搭載へ向かっているわけではありません。たとえばスズキは、「燃費性能の良さ」を強みとしていることもあり、現時点ではほぼ全車種(ジムニーを含む)でアイドリングストップを採用しています。こうした姿勢は、カタログ上の燃費数値を少しでも向上させることを重視しているからだと推察できます。

スズキ以外にも、グローバル市場や環境規制への対応策としてアイドリングストップを継続しているメーカーは存在します。海外では欧州などを中心に、アイドリングストップが義務化に近い形で広く普及した背景があるため、海外向けに合わせて国内仕様も同機能を継続しているという場合も見受けられます。

アイドリングストップ廃止の理由は?

ではなぜ、アイドリングストップを廃止する(もしくは非搭載化する)動きが出てきているのでしょうか。大きく分けると、以下のような理由が考えられます。

理由① 車の燃費性能自体が向上している

アイドリングストップが広まり始めたのは10~20年前で、当時はまだ燃費性能を高めるための技術が現在ほど多岐にわたっていませんでした。エンジンの省燃費技術も今ほど進んでおらず、「信号待ちなどでエンジンを止めるだけ」で燃費向上に貢献できるのは大きなメリットだったのです。

しかし、近年はエンジンの直噴化、熱効率の大幅向上、軽量化、そしてハイブリッドやモーターアシスト技術の進化などにより、燃費を良くする手段が格段に増えました。もはやアイドリングストップ単独の効果は小さく、他の技術によって同等あるいはそれ以上の燃費改善が見込めるのです。結果として、「わざわざアイドリングストップを搭載しなくても、求める燃費性能を満たせる」ケースが増えています。

理由② WLTC表記で効果が見えにくい

燃費の計測方法と表記基準がJC08モードからWLTCモードに移行したことも、アイドリングストップの評価を下げる一因です。WLTCモードでは、市街地モード・郊外モード・高速モードの3種類の走行パターンを組み合わせて燃費を計測します。これにより実際の走行環境に近い数値が得やすくなりましたが、アイドリングストップによる停止時間の割合はJC08モードほど大きくありません。

以前は「アイドリングストップの有無」でカタログ燃費に大きな差が生じることも多々ありましたが、WLTCモード下では、アイドリングストップが燃費数値に与える影響が軽減されました。そのため、メーカーとしてはカタログ燃費を向上させる手段としてのメリットが薄れているわけです。

理由③ ユーザーから不満の声が多い

アイドリングストップ機能は、実際に運転してみると以下のような不満点を抱えるユーザーが少なくありません。

  • 再始動時のエンジン音や振動が気になる
  • 発進にタイムラグが生じる(加速が一瞬もたつく)
  • 停車中にエアコンが弱くなる、または送風だけになる
  • 右左折や一時的な減速でも勝手にエンジンが止まる場面がある

こうした不満を抱えたユーザーの中には、わざわざ「アイドリングストップオフ」ボタンを押して機能を解除して運転している人もいます。つまり、「ユーザー体験」や「実使用における快適さ」の観点でマイナス要素が目立つようになっているのです。メーカーもこれらの声を無視できず、ユーザーの利便性を優先して非搭載化へ舵を切ることがあります。

理由④ バッテリーが高価で寿命も短い

アイドリングストップ搭載車には、通常のバッテリーより耐久性が高い専用バッテリーが必要です。再始動を頻繁に繰り返すため、瞬間的に大きな電力供給が必要になるほか、アイドリングストップ中でもヘッドライトや空調などの電力供給を維持できなければなりません。

専用バッテリーは高価で、かつ頻繁な充放電によって消耗しやすい特性があります。一般的には、アイドリングストップを積極的に使うとバッテリー寿命は1年半〜2年程度といわれ、通常のバッテリーより交換サイクルが短くなる場合も少なくありません。その結果、ユーザーにとってバッテリー交換コストがかさみ、「あまり経済的でない」と感じる要因になります。

実際、ダイハツのタントを例にとると、アイドリングストップ搭載車は非搭載車と比べて新車価格が3万3,000円ほど高額に設定されています。この価格差の多くは専用バッテリーや関連パーツのコストが影響していると考えられます。

搭載で燃費はどれくらい良くなる?

「アイドリングストップはデメリットが多い」という声がある一方、それが燃費改善に一定の効果をもたらすのも事実です。実際、日常的にストップ&ゴーが多い環境で運転する人にとっては、アイドリングストップが有効に働くシーンもあります。では、実際にどれくらい燃費が向上するのかを見てみましょう。

効果は「2~5km/L」ほどか

燃費向上幅は車種やエンジンの仕様、運転環境によって異なります。ここでは具体例として、ダイハツ「タント」のアイドリングストップ搭載車と非搭載車のWLTCモード燃費を比較してみます。

ISS搭載
(アイドリングストップあり)
ISS非搭載
(アイドリングストップなし)
WLTC燃費 22.7km/L 20.1km/L
市街地モード 20.9km/L 16.6km/L

WLTC燃費で比較すると2.6km/L、市街地モードでは4.3km/Lもの差があります。とくにストップ&ゴーの多い市街地モードでは大きな効果が期待できるとわかります。

たとえば、WLTC燃費の条件をそのまま当てはめて5,000kmを走行し、ガソリン価格が1Lあたり170円と仮定すると、燃費が22.7km/Lの車と20.1km/Lの車では、約5,000円ほどの燃料代の差が生じます。乗り方や交通状況によって差は前後しますが、アイドリングストップの影響がまったくのゼロではないことがわかります。

搭載と非搭載、どちらが経済的?

アイドリングストップの有無で、どちらが経済的かを一概に判断するのは難しいです。以下の点を踏まえて総合的に判断する必要があります。

  • バッテリー交換のコスト(専用バッテリーは高価、交換サイクルも短い)
  • 燃費差によるガソリン代の変動(走行距離や燃料価格次第で変わる)
  • アイドリングストップ搭載車の新車価格や中古車価格の差
  • 実際の走行環境(市街地が多いのか、郊外・高速が多いのか)

もし、年間走行距離が多く、市街地走行の比率が高い場合には燃費差が大きくなるため、アイドリングストップ搭載車の方がガソリン代の節約につながるケースもあります。しかし、バッテリー交換費用や初期費用を考慮すると、トータルコストで得になるかどうかは実際に試算してみないとわかりません。

逆に、走行距離が少なかったり、エンジンを頻繁に停止させたくない(エアコンを切らせたくない、再始動の音や振動が嫌、など)と感じるユーザーにとっては、アイドリングストップ非搭載の方がストレスが少なく、結果的にコストメリットもそこまで変わらないかもしれません。

車選びに関するおすすめ記事

アイドリングストップの有無以外にも、車選びではエンジンの種類(ガソリン、ハイブリッド、ディーゼルなど)やトランスミッション、車体重量、安全装備など総合的に考慮する要素が多くあります。特に燃費に直結する要素としては、車両重量や空力特性、エンジンの効率のほか、ハイブリッドや電気自動車への切り替えタイミングが重要です。

最近は中古車市場でもハイブリッド車や電気自動車の価格が下がりはじめ、一方で軽自動車やコンパクトカーも新型エンジンの導入で燃費性能がさらに向上しています。アイドリングストップの有無だけに注目せず、総合的な維持費や乗り心地、目的に合った使い方を考えて購入を検討するのがおすすめです。

もし中古車でアイドリングストップ非搭載車を探したいという場合は、大手中古車販売店(たとえばガリバーなど)に相談し、「非搭載モデルが欲しい」と明確に伝えてみると適した車種や在庫情報を提供してもらいやすくなるでしょう。

まとめ

アイドリングストップは「燃費向上」や「排気ガス削減」を狙った機能として登場しましたが、車のエンジン技術やハイブリッド化が進んだことで、その重要性は相対的に低下し始めています。また、再始動時の振動やタイムラグ、エアコンの効きの低下、専用バッテリーのコストなど、ユーザーにとってデメリットとなる側面も指摘されるようになりました。メーカー側もこうしたユーザーの声やコスト構造、WLTCモードへの移行による燃費表示の変化を踏まえて、アイドリングストップ非搭載車を増やしはじめています。

とはいえ、アイドリングストップ自体が無意味になったわけではありません。市街地で頻繁に停止するシーンが多い環境では、その分だけ燃料消費や排気ガスを抑えられる可能性があります。最終的には、あなたの走行スタイルや年間走行距離、バッテリー交換コスト、乗り心地の好みなどを考慮し、トータルのメリット・デメリットを見極めることが大切です。クルマ選びの際には、アイドリングストップ以外にもハイブリッドやEVの導入状況、メンテナンス費用、リセールバリューなど幅広い視点で比較・検討してみてください。

これからクルマの購入を考えている方は、ぜひ新型車だけでなく中古車も含めて、アイドリングストップの有無や実燃費、バッテリー交換の手間などをトータルに見比べながら、自分に最適な一台を探しましょう。

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