「未来の車」と聞くと、環境に優しい電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)、完全な自動運転技術を搭載した車、さらには空を飛ぶ車など、まさにSFの世界を思わせるビジョンを抱く方も多いでしょう。実際、こうした「次世代自動車」の開発は世界中で進んでおり、すでに実用化・販売に至っているモデルも存在します。さらに、今後20年のうちに自動車産業が大きく変わるという予測も出ており、既存の「自家用車を買い、ドライバー自身が運転する」というスタイルすら大きく変わる可能性があります。
本記事では、次世代自動車に注目しながら、その種類や特徴、すでに販売・開発されている具体的な車の事例をご紹介します。さらに「これから20年で起こる変化」の視点も交えながら、自動車産業の未来図について詳しく解説していきます。ぜひ最後までご覧いただき、近い将来どのようなカーライフやモビリティ社会が訪れるのか、一緒にイメージをふくらませてみてください。
次世代自動車とは
次世代自動車とは、これからの社会や環境を見据えて開発が進められる新しいタイプの車の総称です。主に以下のような特長を持つ自動車が「次世代自動車」と呼ばれています。
- 環境負荷を抑える(電気を動力源とするEV、燃料電池車など)
- 自動運転技術を導入し、運転操作を支援または不要にする
- IoTによるインターネット接続(コネクテッドカー)
- 空飛ぶ車(エアモビリティ)の構想や開発
ここからは、代表的な次世代自動車である電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)、プラグインハイブリッド車(PHV/PHEV)の概要と代表的なモデル、自動運転車、そして空飛ぶ車について順を追って解説します。
電気自動車(EV)
電気自動車(EV)は、ガソリンではなく電気を動力源とする車です。エンジンの代わりにモーター、ガソリンタンクの代わりにバッテリーを搭載することで走行します。最大のメリットは、排気ガスを出さないこと。走行中に二酸化炭素をはじめとする有害物質が排出されないため、環境性能に優れた自動車として世界的な注目を浴びています。
また、モーター駆動ならではのスムーズな加速、低騒音・低振動がもたらす快適性、そしてガソリンを使わない分だけ燃料費が抑えられるなどの特徴もあります。ただし、充電設備の整備状況がまだガソリンスタンドほどには行き届いていない地域が多く、充電時間の長さも課題となっています。それでも年々、充電スポットは拡大しており、今後EVがより普及すれば、さらなる環境負荷低減や都市部の騒音問題の改善に貢献すると期待されています。
日産 LEAF
日産 LEAFは、日本を代表するEVとして多くの方に知られています。夜間などに自宅の充電設備につないでおけば翌朝にはフル充電できる手軽さが強みです。カタログ数値(WLTCモード)で約458kmの航続距離を実現し、日常使いでも不自由しにくい点が評価されています。加速性能もモーターならではのダイレクト感があり、街乗りでも高速走行でもストレスフリーの運転が期待できるモデルです。
マツダ MX-30 EV
マツダ MX-30 EVは、マツダ独自の電動化技術「e-SKYACTIV」を採用し、電気のみでの走行を可能にしたモデルです。内装にリサイクル素材を取り入れるなど、環境への配慮を細部にわたって行っている点が特徴といえます。急速充電なら約40分で80%までバッテリーを回復できるため、外出先でも充電待ちのストレスが比較的少なく済むでしょう。航続距離はWLTCモードで約256kmです。
アウディ e-tron スポーツバック
アウディ e-tron スポーツバックは、電気自動車の静かな走りとSUVの力強さを両立したプレミアムEVです。フロントとリアに合計2基のモーターを搭載し、高い走行性能を実現しています。特徴的なのは、電力の調達にも環境への配慮がある点です。自然エネルギー由来の電力プランの提供も行っており、車だけではなく電力の面からも「環境に優しい選択」ができます。一度の充電で約423kmの走行が可能です。
メルセデス・ベンツ F015
メルセデス・ベンツ F015は、まるで近未来のコンセプトカーのような独創的デザインのEVです。前後のドアが観音開きのように開くため、車内に出入りしやすく、車内は「動くリビングルーム」を目指したラグジュアリー空間になっています。単純なバッテリー走行時の航続距離は約200kmですが、燃料電池と組み合わせることでさらに大きな航続距離を実現できる可能性を示しています。今後の技術進化でどこまで走行距離を伸ばせるかも注目です。
燃料電池車(FCV)
燃料電池車(FCV)は、水素と酸素を化学反応させて電気をつくり、その電気でモーターを回す仕組みの自動車です。排出されるのは水だけで、ガソリン車のような排気ガスが出ない点で非常に環境性能が高いといえます。さらに水素充填にかかる時間はガソリン給油と大差ないため、EVのように長時間の充電を待つ必要がありません。ただ、水素ステーションの普及が進んでいない、燃料電池に使われる白金が高価であるといった課題によって、まだ車両価格は高めです。
トヨタ MIRAI
トヨタ MIRAIは、水素自動車として世界をリードしてきたモデルの一つです。重心が低いスタイリッシュなデザインと、滑らかな走行性能が特徴とされています。一度の水素充填で最大約850km(WLTCモード)の走行が可能とされ、長距離移動でも安心感があります。安全性能も充実しており、衝突回避や被害軽減を支援するブレーキシステムなどが搭載されています。
ヒュンダイ ix35 fuel cell
ヒュンダイ ix35 fuel cellは韓国の自動車メーカーが量産化に踏み切ったSUVタイプの燃料電池車です。欧州を中心に展開され、700kmの走行実験に成功したことも報じられました。アクセルを踏み込んだ際の騒音が少なく、燃料電池車ならではの静粛性が光ります。右ハンドル・右ウインカーにも対応し、日本の道路環境下でも運転しやすい仕様といわれています。
プラグインハイブリッド車(PHV・PHEV)
プラグインハイブリッド車(PHV/PHEV)は、ガソリンエンジンと電気モーターの両方を搭載する次世代自動車です。外部電源から充電できる点が特徴で、充電が可能な環境ではEV的に走行し、必要に応じてガソリンエンジンでの走行も可能なので、遠出でも安心感があります。大容量バッテリーを搭載している車種が多く、家庭の非常用電源としても利用できることがメリットです。一方で、車両価格が高め、充電設備設置のコストやスペースが必要という課題は残ります。
トヨタ プリウスPHV
トヨタ プリウスPHVは、ハイブリッド車の代名詞的存在「プリウス」に充電機能を追加したモデルです。1500Wのアクセサリーコンセントを標準装備し、車内に2つコンセントがあるため、屋外イベントや緊急時の電力供給源としても重宝します。電気だけの走行であれば約60kmの航続が可能とされ、ガソリンと組み合わせれば長距離もこなせます。
BMW 330e iPerformance
BMW 330e iPerformanceは、電気モーターとターボガソリンエンジンを組み合わせることで、BMWらしい走りと電動化の静粛性を両立させたプラグインハイブリッド車です。高速走行時もパワフルに加速できる点が特徴で、一度の充電で最大約52.4kmの電気走行が可能です。さらに、大容量バッテリーをトランク下に配置しているため、室内空間が広く保たれています。
三菱 アウトランダーPHEV
三菱 アウトランダーPHEVは、SUVボディにPHEVシステムを搭載して高い走破性と環境性能を両立したモデルです。日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した実績を持ち、同社独自の制御システム「S-AWC」により安定した走行を実現しています。一度の充電でEV走行のみなら約103kmの航続が可能で、日常の移動であれば電気主体で十分にこなせるでしょう。
自動運転車
自動運転車とは、ドライバーがハンドルを握らなくても走行できる技術を搭載した車です。米国運輸省道路交通安全局では、0から5までのレベルに分類していますが、日本をはじめ多くの国では「レベル2」や「レベル3」の開発が進み、すでに一部の先進機能が市場に投入されています。日本政府は2025年を目標に、レベル5(完全自動運転)の実現を目指す方針を打ち出しており、今後さらに研究・開発が加速していくことでしょう。
自動運転車が普及すれば、交通事故や渋滞の大幅な緩和、運転免許を持たない人の移動手段確保など、多くのメリットが期待されます。しかし、万が一の事故時に責任をどこが負うのかといった法的整備、セキュリティ対策(ハッキングなど)といった問題をクリアしなければならない点も課題です。
日産 コンセプトカー NISSAN IMx
日産 コンセプトカー NISSAN IMxは、完全な自動運転を想定したEVコンセプトカーとして登場しました。2基のモーターを前後に搭載し、4WD駆動でパワフルかつ安定した走行性能を実現する設計です。未来的なデザインも注目され、将来的には指定した場所に無人で迎えに来るような未来像すら描かれています。
トヨタ Concept-愛i
トヨタ Concept-愛iは、AIを活用してドライバーの感情や好みを推測し、安全運転や走行プランの提案を行うコンセプトカーです。ドア下部をガラス張りにするなど、まるで乗っている人と外の景色を一体化させるような斬新なデザインも特徴的。移動中に「会話でコミュニケーションを取りながら運転をする」という新しい体験を提供することを目指しています。
ホンダ コンセプトカー Honda NeuV(ニューヴィー)
ホンダ NeuVは、AIと自動運転技術で安全運転を支援するだけでなく、ライドシェアとしても活用できるコンセプトカーです。所有者が使用しない時間帯に自動運転で車をシェアし、他の利用者を運ぶことで収益を得る可能性も提案しています。自動車が移動手段だけでなく、新しいビジネスのプラットフォームになる未来を感じさせるモデルです。
空飛ぶ車
「空飛ぶ車」と聞くとSFのようにも感じられますが、世界各国で本気の開発が進められており、「エアモビリティ」「Aircar」「Frying car」などの名称で呼ばれ始めています。形状や仕組みは開発企業によって異なり、大きくしたドローンのようなスタイルをもつものや、プロペラを複数搭載したEV、飛行機と車が合体したようなデザインのものなど、バリエーションは多岐にわたります。
実際に離着陸して短距離を飛ぶためには、安全性や法整備、インフラ(離着陸スペースや充電・燃料設備など)が必須です。現状では試験飛行の段階ですが、すでに受注を開始しているモデルもあり、実現はそう遠い未来ではないかもしれません。空飛ぶ車が普及すれば、渋滞の解消や離島などへの迅速な移動手段、災害時の緊急活動支援などで大きく貢献する可能性があります。
エアロモービル スカイカー
エアロモービル スカイカーは、スロバキアのメーカーが手掛ける2人乗り用の空飛ぶ車です。飛行時は時速160kmで空を飛べ、欧州ではすでに飛行許可を取得しています。地上走行も想定されており、まるで車と飛行機が融合したような外観が目を引きます。
PAL-V リバティ
PAL-V リバティは、オランダのメーカーが開発した2人乗りの空飛ぶ車。プロペラを折りたたんで地上走行ができ、飛行時には最高時速180kmを誇ります。こちらも欧州で道路の走行許可を取得しており、今後は航空認証の取得が期待されています。空飛ぶ車市場はまだ黎明期ですが、早ければ10年以内にも都市部で見かける機会が出てくるかもしれません。
これからの自動車産業が迎える変化
ここまで、次世代自動車の具体例としてEV、FCV、PHV/PHEV、自動運転車、空飛ぶ車などをご紹介してきました。これらの動きはすべて、次の20年の間に自動車産業が大きく変化していく兆候ともいえます。ここでは「CASE」と呼ばれるキーワードや世界の自動車市場のトレンドを交えつつ、予測される変化を整理してみましょう。
世界生産:自動車産業の台数成長が止まる可能性
いままで自動車産業は、グローバルで見ても長期的に右肩上がりで台数成長を続けてきました。新興国がモータリゼーションを支える格好で、市場全体が拡大していたのです。しかし、ある予測では2030年を迎える前に世界の自動車販売台数がピークに達し、その後は減少・横ばいに転じるとされています。理由の一つが、中国市場をはじめとする巨大市場の需要減退です。欧州も環境規制の厳格化や、カーシェアの普及などによって需要が減る可能性が指摘されています。インドや東南アジアなど、一部地域の成長余地は残りますが、世界全体で見ると今後20年のうちに「自動車台数そのものの成長」が頭打ちになるという見方が広がりつつあります。
この背景には、移動手段としての車のスタイルが大きく変化し、「必要になったときだけシェアして乗る」など、所有に対する価値観が変わっていることもあるでしょう。若い世代にとって車は「単なる移動手段」であり、趣味やステータスシンボルとは限らなくなりつつあるのです。
EV(電気自動車)の普及:2040年代には新車の半数以上がEVに
環境問題の観点から電動化が急激に進むと考えられ、2043年頃には世界の新車販売台数の2/3ほどをEVが占めるという予測もあります。欧州連合(EU)の主要国では2035年以降にエンジン搭載車の販売を禁止する方向で議論が進んでおり、中国でも積極的な電動化政策が打ち出されています。アメリカでは連邦政府がEV普及を後押しするインセンティブを用意し、インドでも大都市圏を中心にEVシフトが勢いを増すでしょう。
とはいえ完全なEVシフトには課題も残ります。バッテリーの製造コストや原材料の確保、充電インフラの整備などが追いつかなければ、急速な普及に伴う歪みが生じる可能性もあるからです。また、ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)も引き続き一定の需要を維持すると考えられ、大型トラックなどの分野ではエンジンの優位性が残るという見方もあります。
自動運転技術:2030年代には「運転不要の車」が本格普及か
自動運転システムのコストが急速に低減しており、2040年には都市部を走るタクシーが無人運転になっているかもしれません。現在はレベル2やレベル3の技術が中心ですが、2030年頃にはレベル4、さらに技術が進歩すればレベル5(完全自動運転)の車が一部の国や地域で実用化されると予想されています。
ただし、自家用車と移動サービス(MaaS)用車両では自動運転技術の普及ペースが異なります。MaaSの分野では、無人タクシーやバスなどの「ドライバーなしで運用できるシステム」がビジネス的にも有望視されているため、大手IT企業やスタートアップが競って技術開発を進めています。これにより、自動車産業の中心が「車を個人に売る」から「移動サービスを提供する」へとシフトする可能性もあります。
CASEによるビジネスモデルの転換:価値の源泉が変わる
「CASE」(コネクテッド、オートノマス、自動運転、シェア&サービス、電動化)は、これまでの自動車の価値観を大きく覆す概念です。自動車メーカーはエンジン技術を磨き上げ、個人オーナーに「運転の楽しさ」と「所有する価値」を訴求してきました。しかし、CASEの時代では、エンジンを搭載しないEVへの移行、自動運転の普及、シェアリングで「所有しない」選択肢が広がるなど、従来のメーカーの強みが大きく変質します。
実際、ソフトウェアやサービスこそが付加価値の源泉になりつつあり、車両のハードウェアは「エンジンを含めてモジュール化」され、差別化が難しくなるかもしれません。さらに、ユーザーは車両購入後もソフトウェアのアップデート(OTA: Over the Air)で自動運転機能を強化したり、車内エンタメを追加したりするような「サブスク」ビジネスの時代に突入する可能性が高いと考えられます。
オンライン販売とディーラー網の変革
テスラが象徴するように、車の販売にディーラーを介さない直接販売モデルが徐々に拡大しています。EVは一般的にメンテナンスの負荷が低く、ディーラーが従来果たしてきた「点検・整備」の部分が縮小されるからです。さらに、スマートフォンのようにオンラインで注文・決済し、必要に応じて少数拠点での受け渡しのみを行うなど、これまでとは違う流通形態が増えるかもしれません。日本メーカーでもオンライン販売の実験的導入が始まっていますが、本格的にディーラーレスの流れが加速するかどうかは、まだ見通しが立ちきっていない部分でもあります。
とはいえ、ディーラーが培ってきた地域密着のサービスやアフターケアの体制は依然として大切です。高額商品である車の購入に際しては、実車を確認したい消費者ニーズも根強いため、オンライン販売とディーラー網の両立・融合が進む形になる可能性もあるでしょう。
まとめ
次世代自動車として注目を集めるEV、FCV、PHV/PHEV、そして自動運転車や空飛ぶ車まで、すでに世界ではさまざまな「未来の車」が開発・販売されています。環境問題や交通事故の削減、人口減少によるドライバー不足など、社会が抱える課題の解決策としても、これらの次世代自動車には大きな期待が寄せられています。
加えて、今後20年の間に自動車産業全体が「CASE」をはじめとする概念変革を迎え、エンジン車の終焉や自動運転・シェアリングの普及、ディーラーの販売形態の刷新など、これまでの常識を覆す変化が起きると予想されています。自家用車を所有することがステータスや移動手段の中心だった時代から、「必要なときだけ乗る」「ソフトウェアで機能をアップデートする」「空を飛んで移動する」といった、多様な移動の選択肢が同時に存在する社会に向かっているのです。
もちろん、技術的なブレークスルーや法整備の進捗、安全性への不安をどう克服するかなどの課題は少なくありません。それでも、私たちの想像を超えるスピードでモビリティの未来は形作られており、早ければ数年、遅くとも10年単位で大きなイノベーションが現実化するでしょう。これからの時代は、単に自動車を「買う・持つ・運転する」という発想から解放され、「移動をどう使いこなすか」という視点にシフトしていくのではないでしょうか。
世界的にも環境配慮の流れは加速しており、各種のエネルギー政策と相まって、EVをはじめとする電動車両の普及や燃料電池技術の向上が進んでいます。自動車メーカーだけでなくIT企業、スタートアップ、電力会社など、産業の枠を超えたプレーヤーが入り乱れながら、新しいビジネスやサービスが次々と生まれていくでしょう。
私たちが日常的に関わる「車」という存在は、この先の10年~20年で劇的に姿を変える可能性が極めて高いといえます。次世代自動車の動向を追いかけていけば、社会や生活様式の変化までも見通せるかもしれません。これからやって来る「未来の車」時代を楽しみにしつつ、環境と安全、そして自分自身のライフスタイルに合った移動の選択肢を探してみてはいかがでしょうか。