高速道路を走行していると、突然渋滞に巻き込まれ、「なぜこんなところで?」と疑問を感じることはありませんか。工事や事故で車線規制が行われているわけでもないのに車列が動かなくなると、多くのドライバーがストレスを感じます。ですが実は、「渋滞」は道路環境の要因だけではなく、ドライバー側の無意識な運転操作など複数の要素が影響して起こっています。
本記事では、渋滞の定義や原因、渋滞が起きやすい場所やメカニズムをできるだけわかりやすく解説しながら、渋滞時にドライバー個人で取り組める回避策や事故防止策をご紹介します。さらに、高速道路の運営各社が取り入れている渋滞対策についても触れます。渋滞にうまく対処することで、無用なストレスや事故のリスクを減らし、安全に運転を楽しんでいただければ幸いです。
渋滞の定義と発生の仕組み
渋滞の定義は、道路を管理・情報提供する機関によって微妙に異なります。たとえば、日本道路交通情報センター(JARTIC)では、一般道路で時速10km以下、高速道路で時速40km以下の状態を「渋滞」とし、NEXCO東日本では「時速40km以下で停止・発進を繰り返す車列が1km以上かつ15分以上継続する」状態を「渋滞」と定義しています。いずれにしても共通するのは、極端に速度が低下している車列が長時間にわたって連なっている状態と考えればよいでしょう。
さらに、渋滞の原因を大まかに分けると、「交通集中渋滞」「工事渋滞」「事故渋滞」の3つが挙げられます。一般的には、工事や事故による車線規制や通行止めの影響で渋滞が起きるというのはイメージしやすいかもしれません。ところが、実際に発生している渋滞の7割以上は「交通集中渋滞」といわれる、いわば“道路に多くの車が集まることで起きる渋滞”なのです。では、工事や事故でないのに車の流れが滞ってしまうのは、一体どのようなメカニズムによるのでしょうか。
工事や事故だけじゃない?大半を占める「交通集中渋滞」とは
渋滞の先頭に注目すると理由が見えてくる
渋滞と聞くと「どこか先頭に事故車や工事のための車線規制があるのでは」と考えがちですが、実際に高速道路会社が調査を行うと、原因がまったく見当たらない「自然渋滞」と呼ばれる現象がたびたび確認されています。これは道路に車が多く流入した結果、一部の車両が無意識に速度を落とすことで連鎖的にブレーキがかかり、流れが滞ってしまうことによって起きます。こうした「交通集中渋滞」を深掘りしていくと、次のような場面で特に起きやすいことがわかっています。
上り坂・サグ部での速度低下
「サグ部」とは、下り坂から上り坂に変化する凹状になった地形を指します。遠目にはわかりにくい緩やかな上り坂になっていても、車は多少なりともパワーを必要とするので、ドライバー自身も知らないうちに速度が落ちてしまうケースがあります。前方車両がじわじわと速度を落とすと、後続車はさらに反応遅れも加わってブレーキを踏むタイミングが連鎖的に早まり、最終的に渋滞が伸びていきます。日本の高速道路はサグ部が多い地形が少なくありませんので、意識的にスピードメーターを確認する習慣が大切です。
トンネルや合流部の渋滞
トンネル入口で周囲の明るさが急に変化すると、圧迫感や暗さを感じて自然と速度を落としがちです。このちょっとした減速が渋滞を引き起こす一因になります。また、インターチェンジやサービスエリアなどの合流部では、合流車線と本線との速度差が生まれやすく、車線変更や合流のタイミングでブレーキを踏む車が増えます。こうした合流部周辺も渋滞ポイントの代表例といえるでしょう。
接続道路や料金所でのボトルネック
高速道路から一般道路へ降りる際、料金所や信号機があると、それだけで一時的に通過能力が落ちます。渋滞が発生する条件としては「一度に処理できる車の台数(通過能力)を超える車が流入すること」が重要です。車の流れがスムーズに処理されず、高速道路本線まで車列が伸びると、そこで渋滞が始まってしまいます。これが「ボトルネック現象」です。
渋滞を回避するためのドライバーの心がけ
事前に渋滞情報をチェックする
もっともシンプルで効果的な渋滞回避策は、事前の情報収集です。日本道路交通情報センター(JARTIC)のウェブサイトやNEXCOの公式サイトでは、道路工事予定や各区間の渋滞予測が公開されています。行楽シーズンや連休前後など、混雑が予測される日は特に入念に確認し、ルートを工夫してみましょう。
また、カーナビや交通情報アプリはリアルタイムの混雑状況を反映してくれるため、突発的に起こった事故渋滞などにも対応しやすいというメリットがあります。場合によっては高速道路を降り、一般道で迂回するほうがスムーズに移動できるケースもあるので、常に最新の渋滞情報を活用することが大切です。
走行中は速度計をこまめに確認する
サグ部や上り坂、トンネルの入口などは、知らぬ間に速度が下がりやすいポイントです。普段、高速道路では前の車との車間やミラーの確認をする人は多いですが、スピードメーターをまめに見る習慣がないと、速度低下に気づきにくいものです。先頭車両が意図せず速度を落とすと、その影響はどんどん後続に波及して渋滞の原因となります。
もしスピードメーターを見て「思ったより遅い」と感じたら、前の車との車間を確認しつつ、法定速度内でアクセルを踏んで速度を戻しましょう。一定速度を保てれば車間の急激な変化が減り、後続もブレーキを踏む頻度が少なくなります。それが結果的に渋滞緩和につながる可能性があるのです。
ETC2.0で情報を先取りする
ETCは料金所で停止する必要がなくなるだけではなく、交通情報の提供サービスがセットになっている「ETC2.0」を利用すると、より踏み込んだメリットを得られます。ETC2.0ではサグ部や事故多発地点など、渋滞の起きやすい場所をあらかじめ通知してくれる機能があり、運転中に無意識に速度を落とすことを予防する効果が期待できます。
加えて、ETC専用レーンの整備が進むことで料金所付近の混雑も緩和されます。料金所が複数レーンに増設されている場所なら、自分の車両に合ったレーンを選びつつスムーズに通過し、本線に合流するようにしましょう。このように、車両側のデバイスも活用することで、ドライバー自身の負担を軽減すると同時に渋滞の防止に寄与できるのです。
高速道路会社が取り組む渋滞対策の事例
車線増設やETC普及だけじゃないさまざまな工夫
高速道路会社も渋滞を緩和するためにさまざまな取り組みを行っています。代表的な施策には、交通量の多い区間の車線増設やスマートインターチェンジの設置、ETCゲートの拡充などが挙げられます。これらは大掛かりな工事が必要になりますが、工事が完成すると渋滞のボトルネックを物理的に解消できるという点で効果的です。
しかし、大規模工事以外にも「ちょっとした工夫でドライバーに意識させ、渋滞を抑制する」対策が積極的に導入されています。知らず知らずのうちに速度を落としてしまう場所には、看板や路面標示、照明設備などを設けてドライバーの視覚をうまく刺激し、一定速度を保ちやすくすることが狙いです。実は、高速道路上で見かける看板や線のデザインには、細やかな工夫が凝らされているのです。
「速度低下注意!」の看板や水平ライン
上り坂やサグ部など、速度の低下が特に顕著な場所には「速度低下注意!」と書かれた看板や標識が設置されています。これらは、「ここは速度が落ちやすいポイントですよ」という警告をドライバーに視覚的に与えて、無自覚な減速を防ぐ効果をねらったものです。
また、壁面や遮音壁に水平ラインが描かれている場合がありますが、これは微妙な勾配をドライバーに意識させるための工夫です。上り坂になるにつれてラインと視線の変化が生じ、「あ、ここは上り坂なんだな」と気づくきっかけになります。この気づきが速度低下を防ぎ、結果として渋滞対策につながる仕組みです。
エスコートライト(速度回復誘導灯)
トンネル内など、圧迫感や暗さにより自然と速度が落ちる場所では、壁面に連続して点滅するライトが設置されていることがあります。これがエスコートライト(速度回復誘導灯)です。生物は光の刺激の方向へ移動しようとする性質があり、これを応用してドライバーがライトの流れに合わせて自然と一定速度を維持する効果が狙われています。
エスコートライトは連続的に点灯・点滅を繰り返しているため、ドライバーに「前方へ進もう」という感覚を与え、渋滞の原因となるような過度の減速を防ぐ仕組みになっています。実際に設置箇所での速度低下が抑えられ、トンネル入口やトンネル内の渋滞がある程度緩和されているというデータも報告されています。
渋滞時の事故対策と注意点
渋滞末尾の追突事故を防止する方法
渋滞が発生しているとき、もっとも注意したいのが「渋滞末尾に追突される事故」です。高速道路は一般道路に比べて速度域が高いため、車間が詰まっている状況でブレーキが間に合わないと、大きな事故につながる危険があります。自分が渋滞最後尾にいるとわかったら、ハザードランプを数回点滅させて後続車に「前方が渋滞している」ことをいち早く知らせましょう。
また、車間距離を十分に保ち、減速や停止のタイミングが明確にわかるよう、ブレーキランプを早めにつけることも重要です。特に後方車両にトラックや大型車がいる場合、視認性や制動距離の観点から気を配る必要があります。追突事故を回避するためにも、渋滞の列が近づいているときは早めの合図と減速が基本です。
イライラ運転が引き起こす二次トラブル
渋滞に巻き込まれると、予定時間に遅れたりストレスがたまったりして焦りが募りやすくなります。しかし、焦りや苛立ちは運転ミスを誘発しやすく、わずかに車間が空いたからと過度な加速をしてしまったり、無理な車線変更をして周囲の車と接触したりといった二次トラブルを生む原因にもなります。
渋滞時こそ「心に余裕を持つ」ことが大切です。ラジオや音楽を聴きながら、あえてゆっくり進むつもりで運転すると、ストレスを軽減できることもあります。周囲がギスギスしているときほど、適度な車間距離と落ち着いた操作を心がけてください。
もし事故や故障が発生したら
万が一、渋滞中に自車が故障してしまったり、事故に巻き込まれたりした場合は、まずは安全を最優先に行動しましょう。自力走行が可能なら路肩へ移動し、ハザードランプや非常点滅表示板を使って後続車へ事故や故障の存在を知らせます。車外へ出る際は、対向車や後続車に十分注意しつつ、ガードレールの外側など安全な場所に避難します。
高速道路上でのトラブルは二次事故のリスクが非常に高いので、焦らずにまず身の安全を確保し、その後に交通管理者や保険会社、ロードサービスなどへ連絡を取りましょう。ロードサービスが到着するまでの間も車道にはむやみに立ち入らず、常に周囲の車の動きを確認しながら待機していることが肝心です。
まとめ
渋滞は単に「事故や工事が起きているから」という理由だけではなく、ドライバーの運転行動や道路の構造が複雑に影響し合って起こる現象です。特に、交通量が増大するシーズンには些細な減速が瞬く間に連鎖し、大きな渋滞を引き起こす可能性があります。また、渋滞時には追突事故や接触事故が起きやすいため、前方の状況をよく見て速度を調整し、ハザードランプやブレーキランプで後続車に状況を伝えるなど、リスクを最小限に抑える工夫が求められます。
ドライバーとしてできる渋滞回避のポイントとしては、出発前の情報収集、こまめな速度計の確認、そしてETC2.0などの活用が挙げられます。高速道路会社もさまざまな渋滞対策を講じているとはいえ、利用者が意識して運転することで初めて最大の効果を発揮します。渋滞は誰にとってもストレスですが、正しい知識や対処法を身に付けることで、そのストレスを少しでも軽減し、安全運転の維持につなげていきましょう。