海外旅行や海外赴任、留学などで現地を訪れた際、慣れない道路状況や交通ルールによって交通事故の被害に遭うことがあります。日本とは文化や言語、さらに自動車保険の仕組みまで大きく異なるため、いざ事故が起きたときにどのように対処すればいいのか、事前に理解しておくことがとても重要です。特に、海外の高速道路で重大事故が発生し、著名アスリートや旅行者が巻き込まれるケースも報じられています。ここでは、海外滞在中に交通事故被害に遭ったときの具体的な対応方法と、知っておきたい保険に関する知識を詳しく整理して解説します。
海外で交通事故に巻き込まれたケースの実例
海外での交通事故と言うと、大きなニュースとして取り上げられた、マレーシアの高速道路で起きた著名バドミントン選手の事故が思い浮かぶ方もいるかもしれません。現地の高速道路上でタンクローリーに衝突し、残念ながら運転手が亡くなるという痛ましい出来事でした。同乗していたコーチやスタッフも負傷し、選手自身も骨折や打撲などの大けがを負ったものの、幸いにも命に別状はなく治療を受けるに至っています。
このようなニュースを目にすると、「海外旅行や海外赴任中に事故に遭ってしまったら、一体どうすればよいのだろう?」と不安に思うのではないでしょうか。日本と異なる環境だからこそ、いざというときの対処法を知っておくことはとても大切です。以下では、海外で運転する際に必要な事前準備や、事故発生時の具体的な手順などを紹介します。
海外で運転する前に知っておきたい基礎知識
日本の免許証だけでは運転できない国もある
基本的に日本の運転免許証は国内専用のため、海外で自動車を運転する場合は「国外運転免許証」や「現地の免許証」が必要になります。一般的には「ジュネーブ条約」に加盟している国であれば、日本で発行される国際免許証が有効となります。ハワイ(アメリカ)やカナダ、オーストラリアなどはジュネーブ条約加盟国です。一方で、加盟していない国では日本の国際免許証が通用せず、渡航先で独自の免許証を取得しなければならない場合もあるため注意が必要です。
また、レンタカーを借りるときに国際免許証を持っていれば貸してくれるケースも多いのですが、実際の運転が法律的に有効かどうかは別問題となる場合があります。必ず公式情報や現地の免許事情を確認し、無免許運転にならないようにしましょう。
海外ならではの交通事情を理解する
日本とは道路の走行レーンが逆である国や、二重三重にクラクションを鳴らしながら走行するような国など、交通ルールやマナーは大きく異なります。特に、左ハンドル・右側通行か、右ハンドル・左側通行かの違いが混乱を招くことも多いです。自分が慣れない環境で運転していると、事故につながるリスクは格段に高くなるため、海外で運転をする際はあらかじめ現地ルールを学習しておき、細心の注意を払うことが重要です。
海外で交通事故が起きたときの基本的な対処法
1. 安全を最優先に確保する
海外に限らず交通事故が起きたときに最も大切なことは、まずは自分と周囲の人命を守ることです。追突など大きな衝撃を受けた場合、パニックに陥りがちですが、車両を安全な場所へ移動できる場合は速やかに路肩などに移動させ、追加の衝突を回避するよう努めます。負傷者がいれば、その状態の把握が第一です。自分や同乗者に大きなケガがないかを確認し、もし必要であれば救急車の手配を最優先に行います。
2. 警察に連絡する
海外で事故に遭遇したら、まず現地の緊急通報番号に電話します。アメリカやカナダであれば「911」、オーストラリアなら「000」、ヨーロッパ(EU圏)なら「112」という共通番号が知られています。ハワイ(米国)であれば、ケガの有無に関わらず緊急の場合は「911」を利用し、軽微な物損事故などで緊急性が低いときはホノルル警察のNon-emergency(808-529-3111)にかけるのが一般的です。
オーストラリアのように、24時間以内にインターネットなどを通じて警察へ事故報告する義務がある国もあります。大きな事故であれば警察が現場に急行しますが、軽微なものだと警察が現場に来ない場合もあります。いずれにしても、事故当事者の情報を交換してから速やかに警察へ連絡し、事故報告を行うことが求められます。
3. レンタカー会社や保険会社にも連絡を
現地でレンタカーを使用している場合は、警察へ連絡すると同時にレンタカー会社にも事故発生を知らせましょう。通常、レンタカー会社に連絡する際は、契約書面に記載されているサポート番号に電話します。会社によっては事故対処マニュアルを契約時に渡してくれるので、その手順に沿って行動するとスムーズです。
レンタカーを使用していない場合や、自家用車を現地で利用している場合は、加入している現地の自動車保険、あるいは海外旅行保険会社に連絡をします。ただし、後述するように多くの海外旅行保険は「自動車の運転中の対人・対物賠償」を補償外としているケースが多いです。加入プランに自動車事故の特約が含まれているかどうか事前に確認しておくことが大切です。
4. 事故相手の情報を収集する
相手がいる事故の場合、連絡先や車のナンバー、保険加入状況などを正確に控えておく必要があります。例えば、以下の項目をメモしておくと安心です。
- 相手の氏名・住所・電話番号
- 相手の運転免許証番号
- 車のメーカーや色、ナンバープレート
- 加入保険会社の名称、ポリシーナンバー
日本語が通じない国でも、最低限の英語フレーズや事前に用意しておいたメモなどを使ってやり取りを行いましょう。可能であれば現場の写真や動画をスマホで撮っておくと、後々のトラブル防止や証拠保全に役立ちます。
5. むやみに謝罪しない
日本人はつい「Sorry」や「すみません」と口にしてしまいがちですが、国によってはその言葉が自分の過失をすべて認める発言と受け取られ、裁判や保険の過程で不利になる可能性があります。事故を起こしてしまった直後はお互いが動揺しているため、あえて言葉を選んでコミュニケーションすることが重要です。特に海外では文化や法律が異なるため、相手に対して安易に謝罪しないよう注意しましょう。
海外で使える保険の知識
日本の自動車保険は海外では基本的に使えない
日本国内で加入している自動車保険には、ほとんどの場合「日本国内で生じた事故に限る」といった地理的な制限がかけられています。そのため、日本で契約している自動車保険を海外での事故に適用することはできないケースが圧倒的に多いです。また、「他車運転特約」が付帯されていても、その適用範囲が国内に限定されていることがほとんどで、海外での事故は補償対象外となってしまいます。
海外旅行保険でも自動車事故は補償されないことが多い
海外旅行保険は、旅行先でケガや病気にかかった場合の治療費や、携行品の破損・盗難などを補償するための保険です。海外旅行で体調不良になったときの診療費や、物を壊してしまったときの賠償責任をカバーしてくれるものも多いですが、「自動車の運転に起因する対人・対物事故」は特約をつけても補償外とされることが一般的です。これは、そもそも自動車事故はリスクが高いうえに、保険契約上の想定範囲から外れている場合が多いからです。
もし海外旅行保険で自動車事故の補償を受けたい場合は、保険会社が提供している「レンタカー特約」や「自動車運転中の補償」が対象となるプランがないかを確認しなければなりません。ただし、これらの特約も利用条件や適用範囲が厳しく、国や地域によっては適用されないこともあります。必ず事前に保険会社へ問い合わせて確認しましょう。
海外レンタカーを借りる際は現地の保険が必須
海外でレンタカーを借りる際、多くの場合レンタカー会社が提供する保険への加入が義務または強く推奨されています。具体的には以下のような保険が一般的です。
- 対人・対物賠償保険(LP/PPなど):第三者への賠償責任をカバー
- 車両保険(LDW/CDWなど):レンタカー車両の損害を補償
- 盗難保険(TP):レンタカー車両が盗難に遭った場合の補償
- 搭乗者傷害保険(PAI):ドライバーや同乗者のケガを補償
- 追加の賠償責任保険(SLI):対人・対物賠償の補償限度額を大幅に引き上げる
例えば車両保険CDWには盗難補償が含まれていないことが多いため、TPを追加しなければ盗難事故に対応できません。また、国や地域によっては、現地独自の保険制度があり、手続きも複雑化しがちです。保険料を節約したい気持ちはあるかもしれませんが、万一に備えて十分な補償が受けられるプランを選ぶことをおすすめします。
実際の海外事故対応例:ハワイでレンタカー事故に遭った場合
日本人旅行者に人気のハワイを例に取ってみましょう。ハワイは道路や交通ルールが比較的整備されている一方、慣れない右側通行や外国語による標識を読み間違えて事故を起こす可能性があります。万が一事故を起こしてしまった場合、すぐに「911」に連絡が必要です。軽微な物損事故でも警察に報告を行い、その場を離れないようにしましょう。警察が到着したら、運転免許証やレジストレーションカード(車両登録証)、自動車保険証券、レンタカー契約書などを提示します。
続いて、レンタカー会社にも速やかに連絡し、指示を仰ぎます。事故相手との情報交換もお忘れなく。ハワイでは、相手の名前や住所、電話番号、保険会社、ポリシーナンバー、車両ナンバーを確実にメモすることが重要です。あわせて、写真や動画を撮影し、できるだけ正確に事故の状況を記録しておきましょう。警察による調書作成が終わったら、車を返却し、のちの保険対応はレンタカー会社や保険会社と交渉していく形になります。
海外事故後の治療や示談の進め方
治療中の海外渡航は慎重に
日本国内で交通事故に遭った場合と同様に、海外で交通事故が起きた場合も、ケガの治療が最優先になります。大けがであればそもそも長時間のフライトや海外渡航が難しく、現地の病院で長期治療が必要となることも考えられます。とくに留学や海外赴任など、長期間の滞在予定がある方は、治療を継続しつつ赴任や学業を継続するのか、それとも帰国して治療を受けるのか、慎重に判断しなければなりません。
また、海外で治療した場合、後遺障害の認定や日本国内の自賠責保険への請求手続きなどで書類のやり取りが煩雑になる場合があります。必要書類や診断書が外国語で作成されるため、日本語への翻訳や形式の違いが問題になることもあるでしょう。海外渡航前に、医療機関の情報や必要書類の取得方法を確認しておくと安心です。
示談交渉や後遺障害認定への影響
海外で発生した交通事故を日本国内の保険会社が扱うケースや、日本で発生した事故の被害者が海外赴任中に示談を進めるケースもあります。このような場合、弁護士や保険会社との連絡を綿密に取ることが不可欠です。海外と日本の時差があるため、やり取りのタイミングを工夫する必要がありますし、対面での打ち合わせも難しくなります。
さらに、海外での通院実績や診断書を、後遺障害等級の認定手続きに活かす場合もあるため、海外の医療機関に自賠責保険用の書式を作成してもらう場面があるかもしれません。英語やその他の言語で作成された診断書を、日本の保険会社がどこまでスムーズに受け付けてくれるかはケースバイケースです。専門家に早めに相談し、必要な手続きを把握しておくとトラブルを最小限に抑えられます。
海外で交通事故に遭わないための心構え
事故が起きたときに備えるだけでなく、そもそも事故を防ぐための安全意識を持つことも大切です。以下のようなポイントを心がけましょう。
- 渡航先の交通ルールや特徴を事前に調べる
- 日本とは異なる標識や運転マナーに注意する
- レンタカー利用時は、十分な試運転を行ってから本格的に走り出す
- 携帯電話やスマートフォンを操作しながら運転しない
- 運転に不安がある場合は、無理に車を借りず、公共交通機関やタクシーの利用を検討する
海外での運転事故は、日本よりも対応が難しくなりがちです。言語の壁や保険制度の違いを考慮しつつ、少しでもリスクを回避する行動をとりましょう。
まとめ
海外で交通事故に遭った場合、日本国内とは大きく異なる点が多く、対処に手間取ることが十分に考えられます。まずは人命を守るために安全確保と警察への連絡を優先し、その後、レンタカー会社や保険会社への報告、事故相手との情報交換を行う流れが基本です。日本人ならではの「すぐに謝ってしまう」という態度は、相手国の法律や裁判手続きにおいて不利に働くこともあるので注意が必要です。
加えて、海外旅行保険があっても、ほとんどの場合は自動車事故に対する賠償責任をカバーしていないことが多く、現地で自動車を運転する際はレンタカー会社が提供する保険の内容をしっかり確認して加入することがとても大切です。長期滞在者で現地の車を購入する場合も、現地の自動車保険に加入しなければ無免許運転や無保険運転とみなされるリスクがあります。
さらに、ケガを負ってしまった場合の治療や、後遺障害が残った場合の手続きは日本国内のケースよりも複雑になることが多いです。現地の医療機関で作成される書類の言語や形式、保険の適用範囲など、事前にできるだけ情報を収集しておきましょう。もし海外での交通事故に関する不安がある場合は、専門家や加入している保険の日本語サポートデスクに相談し、万全の態勢を整えて旅や生活に臨むことをおすすめします。
海外に行く際は、事故が起きてしまったときの対処や保険知識を十分にリサーチし、備えておくことが、結果として快適で安全な海外生活や旅につながります。事前準備を怠らずに、もしものときに迅速かつ冷静な対応ができるよう、しっかりと心づもりをしておきましょう。