高齢運転者講習とは?70歳以上の安全運転を解説

高齢運転者講習とは?70歳以上の安全運転を解説

近年、高齢の運転者による交通事故が社会問題として大きく取り上げられています。特に高齢者ドライバーが引き起こす死亡事故のニュースは耳にする機会が増え、「自分はまだ大丈夫だろうか」「家族に運転を続けてもらって平気だろうか」と、不安に思う方も多いのではないでしょうか。日本の法律では、70歳以上の方が免許を更新する際に「高齢者講習」という制度を設けていますが、75歳以上になるとさらに「認知機能検査」や「運転技能検査」が必要となる場合もあります。こうした制度の背景には、加齢による身体機能や認知機能の低下を見極め、安全運転を続けるためのサポートを行う目的があるのです。本記事では、高齢者が免許を更新するために必要な高齢者講習の内容や手続き、対象年齢、検査項目の詳しい流れなどを解説し、あわせて自主返納や相談窓口などの情報も盛り込みながら、高齢ドライバーが安心して運転を続けるためのポイントを徹底的にご紹介します。

ここでは、道路交通法が定める「高齢者講習」「認知機能検査」「運転技能検査」などを中心に、制度の概要から手続きの流れ、費用までをわかりやすく整理しています。さらに、高齢ドライバーの方自身や、家族として高齢者の運転に不安を感じている方も、具体的にどのようなアクションを取ればいいのか知ることで、より適切な判断ができるようになるでしょう。長年ハンドルを握ってきた方々が、今後も安全に運転を続けられるようサポートする情報をまとめましたので、ぜひご一読ください。

高齢者講習とは何か:義務化の背景と対象年齢

道路交通法の改正により、高齢ドライバーが免許更新時に受講しなければならない「高齢者講習」が義務付けられています。具体的には、免許証の更新期間が満了する時点(誕生日の1ヵ月後の日)で70歳以上の方が対象です。70歳以上の方は、この講習を受けなければ免許を更新できません。

そもそも、高齢ドライバーによる死亡事故件数が増加傾向にあることが問題視されています。年齢を重ねると、視力や認知力、判断力が衰え、運転操作におけるミスが起こりやすくなります。アクセルとブレーキの踏み間違いや、交差点での注意力散漫などは、加齢による変化の代表例といえるでしょう。こうした背景から、高齢者講習によって高齢ドライバーの交通安全意識を高め、事故の減少を図ることが重要とされています。

さらに、2022年5月の道路交通法改正では、75歳以上の方に対する認知機能検査の義務付けや、一定の違反歴がある方への運転技能検査の制度化など、より厳格な安全対策が進められています。なお、免許を更新しない、あるいは自主返納する方は、高齢者講習そのものを受ける必要はありません。

高齢者講習を受けられる期間や回数について

高齢者講習を受講できる期間は、更新期間満了日の6ヵ月前から満了日までです。これは、免許証の有効期限が誕生日の1ヵ月後まであるため、その前後を含めて受講できるよう考慮されているものです。合否判定がない講習のため、期間中に1回だけ受ければ問題なく更新手続きを進められます。

ただし、高齢者講習は事前予約制となっている自治体が多く、教習所や運転免許センターが混み合う時期には予約が取りにくくなるケースもあります。更新期間満了日間近になると定員がいっぱいになってしまい、ギリギリでは受講が難しくなることもあるため、「講習のお知らせ」が届いた段階で早めに予約するのが望ましいでしょう。

高齢者講習の内容:テスト問題や費用、所要時間

高齢者講習は、大きく分けて以下の3ステップで進みます。

1. 講義(座学)
2. 運転適性検査(視力や反応速度などの測定)
3. 実車による指導(教習コース内で運転)

免許の種別によっては実車による指導が省略される場合もあり、その場合の講習所要時間は短くなります。たとえば、普通自動車免許を持つ方は2時間の受講が基本ですが、原付や二輪、小型特殊(小特)などのみの場合は1時間の講習で終了します。

警視庁の公表している講習手数料は以下のとおりです。

– 普通自動車対応免許所持者:6,450円(2時間)
– 原付、二輪、小特、大特のみの方:2,900円(1時間)

これらはあくまで東京都の例ですが、基本的には全国的に同等の金額設定です(自治体や教習所によって若干の差異がある場合があります)。

講義(座学)

講義では、DVDなどの映像教材を視聴しながら、交通事故の特徴や安全運転に関する基礎知識を学びます。単なる聞き流しではなく、講師が受講者に直接問いかけたり、意見を求めたりする双方向型の形式が多いのが特徴です。高齢者講習だからといって一方的に話を聞くだけではなく、「自分はどのような運転習慣を持っているのか」「どんな点に注意が必要なのか」を考えるきっかけになるでしょう。

運転適性検査

運転適性検査では以下のような検査を行い、加齢による機能低下の度合いを把握します。おもな項目は動体視力検査、夜間視力検査、水平視野のチェックなどです。通常は教習所にある専用の機器を使って行い、30分程度で完了します。

視力基準をはじめ、合格基準は免許の種別ごとに決められています。たとえば、普通第一種免許の場合、両眼で0.7以上かつ一眼でそれぞれ0.3以上といった要件があります。矯正視力(メガネやコンタクトレンズ使用)でも基準を満たせば問題ありません。もし基準を満たさない場合は、免許更新が困難になるか、条件付きとなる可能性があります。

実車による指導

実車指導では、教習所のコース内を実際に運転しながら、指導員が運転状況を確認し、随時アドバイスを行います。走行中の速度調整、一時停止のタイミング、右左折のしかた、信号通過の注意点など、基本的な運転行動がきちんとできているかを確認する流れです。約1時間の運転を行い、終了後には講習を修了した証明として「高齢者講習終了証明書」が交付されます。合否判定があるわけではなく、「受講を完了すること」が免許更新の前提となります。

高齢者講習の流れと予約方法

高齢者講習を受ける流れは、基本的に以下の通りです。

1. 更新期間満了日の約6ヵ月前に「講習のお知らせ」はがきが届く
2. はがきを受け取ったら、記載されている連絡先または希望の運転免許センター・教習所に電話して予約を取る
3. 指定された日時に、必要書類と手数料を持参して受講する

必要となる持ち物は、以下を目安としてください。

– 「講習のお知らせ」はがき
– 運転免許証
– 講習手数料(普通免許の場合6,450円、原付・二輪などの場合2,900円)
– 筆記用具(黒ボールペンなど)
– 矯正器具(眼鏡・コンタクトレンズなど)

なお、免許更新には別途で更新手数料2,500円が必要です。講習手数料と更新手数料を混同しやすいので注意しましょう。

70〜74歳と75歳以上で異なる免許更新の流れ

免許更新時の手続きは、70〜74歳か、75歳以上かで大きく異なります。

70~74歳の方:高齢者講習のみ

免許の更新期間満了日の年齢が70歳~74歳の方は、高齢者講習を1回受講すれば免許の更新が可能です。認知機能検査や運転技能検査を受ける必要はありません。ただし、道路交通法の改正によって、運転経験や違反歴などによっては臨時で検査を受ける可能性もあるため、違反を繰り返さない安全運転を心がけておくことが大切です。

75歳以上の方:認知機能検査が必須

75歳以上になると、高齢者講習だけではなく「認知機能検査」が追加されます。検査結果で「認知症のおそれなし」と判断されれば、高齢者講習を受けて免許を更新できますが、「認知症のおそれあり」と判定された場合は、専門医の診断(臨時適性検査)または医師の診断書の提出が求められます。ここで認知症と診断されると、免許の取り消しや効力停止になるケースもあるのです。

75歳以上で一定の違反歴がある方:運転技能検査が必要

2022年5月13日に施行された改正道路交通法では、75歳以上の方で一定の違反歴(信号無視・速度超過・横断歩行者妨害など)がある場合、運転技能検査を受けて合格しなければ更新手続きができない制度が導入されました。運転技能検査では、教習所のコースで実際に車を運転し、一時停止や右左折などの基本操作が適切に行えるかを採点し、基準に達していない場合は不合格となります。合格ラインは第一種免許が70点以上、第二種免許が80点以上です。何度でも受験は可能ですが、有効期限までに合格しなければ免許更新ができません。

75歳以上が受検する認知機能検査のポイント

検査内容と合否判定

認知機能検査は、主に「記憶力」と「時間の見当識」を測定するものです。イラストを記憶して回答する問題(手がかり再生)や、検査時点の日付・曜日・時間を回答する問題(時間の見当識)などがあります。満点は50点ですが、36点未満となると「認知症のおそれあり」と判定され、専門医による臨時適性検査を受けるか、診断書を提出するよう求められます。

検査結果が不合格の場合

36点未満の場合、さらに踏み込んだ臨時適性検査(医師の診断)を受ける必要があります。ここで実際に認知症であると診断されれば、免許の取消や停止措置が下されることになりかねません。一方で、認知症ではないと診断されれば高齢者講習に進めます。ただし、この一連の手続きには時間と手数料がかかるため、早めの行動が重要です。

運転技能検査とは:75歳以上かつ一定の違反歴を持つ方の手続き

運転技能検査は、75歳以上のドライバーが3年間の間に特定の違反を繰り返した場合に義務付けられる検査です。対象となる違反は、信号無視・通行区分違反・速度超過・横断歩行者等妨害・安全運転義務違反など多岐にわたります。

運転技能検査の手順は以下の通りです。

1. 予約をし、教習所のコースで実車試験を行う
2. 100点満点からの減点方式で採点
3. 第一種免許は70点以上、第二種免許は80点以上で合格

合格しない限り免許の更新ができないため、該当者はなるべく早めに準備を始める必要があります。万が一不合格でも、有効期間内であれば何度でも再チャレンジは可能です。

臨時認知機能検査・臨時高齢者講習について

基準行為をした場合は更新時以外でも検査が必要

75歳以上の方が「信号無視」「通行禁止違反」「交差点優先車妨害」などの特定違反を起こした場合、更新時期とは関係なく「臨時認知機能検査」の受検が必要になります。これが「臨時認知機能検査」であり、所要時間は約30分、手数料は1,050円です。そこで「認知症のおそれあり」となると、臨時適性検査(専門医の診断)や診断書の提出が必要になり、認知症と診断されると免許の取り消し・停止となる可能性が高くなります。

臨時高齢者講習が必要になるケース

臨時認知機能検査で「認知症のおそれなし」と判定された場合でも、過去の検査結果と比較して記憶力や判断力が明らかに悪化している場合には、「臨時高齢者講習」を受講しなければなりません。これは、通常の高齢者講習と同じように2時間程度かかり、費用は6,450円程度と設定されています。

高齢者講習が免除される場合:運転免許取得者等教育

高齢者講習を受けずに免許を更新したいと考える方には、「運転免許取得者等教育」を受講する方法があります。これは、公安委員会の認定を受けた教習所などで行われる有料の講習で、高齢者講習と同等の内容を学び、修了証を取得すると高齢者講習を受けずに更新手続きが可能になる制度です。教習所によって講習の実施状況や費用は異なるため、興味がある方は事前に確認しておきましょう。

運転に自信がなくなったときの選択肢:自主返納や安全運転相談窓口

加齢とともに身体的・認知的な変化が進み、自分自身で「運転がつらくなった」「安全が確保できないかもしれない」と感じる方も少なくありません。そのような場合、以下の選択肢も検討してみましょう。

運転免許証の自主返納

運転に不安を覚えたときは、免許を自主返納することが可能です。運転免許証を返納してしまうと、身分証として困るのではないかと心配する方もいますが、返納後に取得できる「運転経歴証明書」は公的な本人確認書類として使用できるため、金融機関や各種手続きなど、日常の多くの場面で活用が可能です。なお、処分対象となっている方や停止・取消基準に該当する方は、手続きが制限される場合もあるので注意が必要です。

安全運転相談窓口でのアドバイス

各都道府県には、運転に不安を持つドライバーやその家族が無料で相談できる「安全運転相談窓口」が設置されています。医療系の資格を持つスタッフや専門知識を有する担当者が、運転や健康状態、自主返納の手続きなどについて丁寧に相談に乗ってくれます。自主返納に踏み切るべきかどうか迷っている方や、家族の運転が気になる方は、一度この窓口で相談してみるとよいでしょう。

また、地方によっては、高齢者を対象にしたシミュレーター訓練や補助的な講習会を行っている教習所や自治体も存在します。視力や認知機能に関する測定を行い、結果に応じてアドバイスが得られることもあるため、定期的に受講することで自分の運転状態を客観視できるメリットがあります。

まとめ

高齢ドライバーが免許を更新する際には、70歳以上の方は必須となる「高齢者講習」、75歳以上になると「認知機能検査」に加えて「運転技能検査」が求められるケースもあります。これらの制度は、加齢に伴う視力・判断力・認知機能の低下を正しく把握し、事故防止に努めるための大切な仕組みです。免許更新手続きには事前予約や手数料が必要となるため、通知はがきが届いたらできるだけ早く行動を開始しましょう。また、運転に自信がなくなったと感じる方は、自主返納や安全運転相談窓口の利用という選択肢もあります。大切なのは自分自身や家族の安全を第一に考え、必要な講習や検査をきちんと受けつつ、今後の運転について冷静な判断を下すことです。

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