運転中のまぶしさがもたらす危険性
運転中、太陽光や対向車のヘッドライトなどが原因で、強いまぶしさを感じてしまうことは意外に多いものです。晴天時の太陽光はもちろん、夕方の西日、道路標識や路面の反射、雨上がりの水たまりやフロントガラスの乱反射など、さまざまなシーンで運転者の視界を妨げます。まぶしさのあまり、瞬間的に視界を奪われてしまえば、反応が遅れることは容易に想像できるでしょう。高速道路や幹線道路など、スピードが出やすい道路で一瞬でも視界が遮られれば、重大な事故につながるリスクが高まります。
さらに、光のぎらつきによって標識や信号機が見えにくくなるだけでなく、先行車との距離感を誤ったり、歩行者や自転車を見落としたりする可能性も否定できません。とくに対向車のヘッドライトが直接目に入る夜間や、日の落ちかけた時間帯は、もともと視界が暗くなりがちなため、まぶしさによる視野の悪化が一段と問題となります。運転者にとって、良好な視界を確保することは事故防止の大原則であり、そのための手段としてサングラスを活用することは非常に有効です。
しかし一口にサングラスといっても、そのレンズの色や濃さ、機能によって運転に適しているかどうかは大きく異なります。選び方を間違えると、かえって視界が暗くなりすぎて見づらくなったり、信号の色を判別しにくくなったりする可能性があります。そのため、サングラスを活用するのであれば、運転に適している製品を正しく選ぶ必要があるのです。
運転用サングラスの基準を定めるJIS規格とは
サングラスのレンズは工業製品として扱われるため、日本産業規格(JIS)において安全性の基準が定められています。運転用として販売されるレンズには、以下のような要件が求められ、これらをクリアしたレンズのみが「運転適合」として認められます。
1. 視感透過率8%以下のレンズは運転用として不適
サングラスの濃さを表す視感透過率(可視光線透過率)が8%以下の場合、光をほとんど通さず視界が極端に暗くなってしまうため、運転目的での使用は安全性に大きな疑問が残ります。
2. 475~600nmの波長域において、分光透過率の最小値が0.2×視感透過率以上である
これは、可視光線のなかでも重要な波長域を適切に通し、赤や緑、黄など交通信号の色認識に支障が出ないようにするための規定です。
3. 昼間の運転には視感透過率8%以上
日中の運転で必要以上に暗いレンズを使うと、周囲の状況が見えづらくなりかえって危険です。昼間に使用できるためには8%以上が基準となります。
4. 夜間の運転には視感透過率75%以上
夜間の運転で暗いレンズを使用すると、ただでさえ少ない視界情報がさらに減り、歩行者や障害物を見落とす危険性が高まります。夜間に使用するなら75%以上の透過率が求められます。
5. 運転時に信号の色を正確に認識できる色調である
赤・黄・緑・青などの区別がはっきりつき、信号の誤認識を引き起こさないようにすることが求められます。
上記のような基準を満たすサングラスであれば、運転中に使用しても安全面での大きな問題を起こしにくいといえます。レンズの濃さだけではなく、信号の色をしっかり判別できるかどうかも重要です。
可視光線透過率(視感透過率)の重要性
運転用サングラスを選ぶ際に必ずチェックしたいのが「可視光線透過率(視感透過率)」です。これは人間の目に見える光をどれだけ通すかを数値で示したもので、数値が高いほど多くの光を通し、数値が低いほど光をカットすることを意味します。
– 数値が低いサングラス
太陽光や反射光をしっかりカットしてくれる反面、暗い場所へ入ったときに視界が悪くなります。たとえばトンネル走行の際、いきなり暗い空間へ入ると「一瞬何も見えない」という状態になりやすく、非常に危険です。
– 数値が高いサングラス
まぶしさのカット効果は限定的ですが、明るい場所と暗い場所を行き来しても視界の変化に対応しやすくなります。また、標識や信号、周囲の交通状況を見落としにくいメリットがあります。
昼間専用で使う場合でも、真夏の直射日光下と夕方以降では環境が大きく変化します。したがって、運転用サングラスを購入する際は、自分の運転時間帯や走行環境を考慮した可視光線透過率のレンズを選ぶことが重要です。必要に応じて専門店で相談しながら、自分に合った濃度のレンズを確認するとよいでしょう。
偏光サングラスがもたらす快適な視界
運転用サングラスを選ぶときに、あわせて検討したいのが「偏光レンズ」です。偏光サングラスはレンズの内側に偏光フィルターという特殊なフィルムを組み込み、地表やフロントガラスなどで反射したギラついた光をカットする機能を持っています。
普通のサングラスは光を全体的に減らすのに対し、偏光レンズは「乱反射だけを効果的に減らす」特徴があります。路面のテカリや、水たまり、先行車のリアガラスが反射した光などのぎらつきを抑えつつ、標識や周辺の景色は比較的はっきり見えるのです。
これによって生まれるメリットは以下のとおりです。
– 反射光やぎらつきを低減し、クリアな視界を確保
– 視界が極端に暗くならないため、目が疲れにくい
– トンネルなどで急激に視界が暗くなりすぎるリスクを軽減
反射光によるまぶしさは運転者の集中力を削ぐ大きな要因のひとつです。偏光サングラスを着用することで、長時間運転による眼の疲労を和らげつつ、交通標識や信号機を見間違えるリスクを低減する効果が期待できるでしょう。
偏光サングラスの注意点とフレーム選び
偏光サングラスは非常に便利である一方で、以下のような注意点も存在します。
– レンズの濃さや色調
偏光レンズだからといって、極端に濃い色味を選んでしまうと日中は良くても、夕暮れ時や曇天時に暗さを感じやすくなります。運転には最低限の可視光線透過率を確保した製品を選ぶことが大切です。
– フレームの形状
サングラスのフレームが大きすぎたり、形状が視界を遮ってしまったりすると、サイドミラーやバックミラーを確認するときの視界が狭まり、安全確認に支障が出る場合があります。とくにフェイスラインに合わないフレームは、こめかみ部分や耳の裏に負荷がかかったり、視界が狭くなったりして集中力を損なう恐れがあるため要注意です。
– ダッシュボードのメーター類への影響
一部の偏光サングラスは、液晶ディスプレイの角度によってはメーター類やカーナビ画面が見にくくなる可能性があります。試着時に車内のディスプレイや表示計器がどのように映るかも確認しておくと安心です。
メガネの上からかけられるオーバーグラスという選択肢
視力矯正のため、普段から度付きのメガネをかけている人は、運転時に「メガネをかけ替えるのが面倒」「度付きサングラスを新調するのにコストがかかる」といった悩みを抱えがちです。そんなときに便利なのが、オーバーグラス(メガネの上からかけられるサングラス)です。
オーバーグラスのメリットは、以下のような点が挙げられます。
– 既存のメガネに重ねるだけでまぶしさをカット
– 必要に応じて着脱しやすい
– 視力矯正用のメガネをそのまま使えるため、別途度付きサングラスを作成する手間や費用を抑えられる
最近ではおしゃれなデザインやサイズバリエーションも増えており、自分のメガネにフィットしやすいタイプも多く発売されています。運転時だけでなく、釣りやアウトドアなど多用途に使えるため、手軽なサングラスとして検討する価値があるでしょう。
夜間のサングラス着用は違法ではないが要注意
夜間の運転では、対向車のヘッドライトや街灯などが眩しく感じられるシチュエーションもあります。そこで「ナイトサングラス」や「夜間専用サングラス」と呼ばれる製品も一部で出回っていますが、実際のところは多くの場合、夜間の視界を損なう可能性が高いのが実情です。
法律的には、夜間にサングラスをかけて運転していてもそれ自体が違法と判断されることはありません。しかし、周囲の歩行者や自転車を見落とすなど、安全運転に重大な支障をきたせば安全運転義務違反として処罰の対象になり得ます。とくに視感透過率が低いレンズを夜間に使用すると、ほとんど前方の様子が確認できなくなり、事故のリスクが急増します。
どうしても夜間のヘッドライトやミラーの反射がまぶしいという方は、視感透過率が高い(75%以上)サングラスや、イエロー系のナイトドライブ用レンズを試してみるのも一つの方法です。ただし、夜間に暗い場所を運転する際は十分気をつけなければならず、本当に必要性があるかどうかを慎重に判断することが大切です。
運転用サングラスで抑えておきたいレンズカラーの違い
サングラスのレンズカラーは見た目の印象だけでなく、色の特性によって視界の明るさやコントラストの感じ方が変わります。運転時の安全性を考えるうえでも、カラー選びは意外に重要です。以下に代表的なカラーと、それぞれの特徴を簡単にご紹介します。
– グレー系
もっとも一般的なサングラスカラー。光を均等にカットするため、自然な色味を保ちやすく、信号や標識の色の判別もしやすい傾向があります。運転用には無難な選択肢といえるでしょう。
– ブラウン系
コントラストを高めやすく、晴天時に路面が見やすくなるメリットがあります。景色が若干暖色系に見えることが多いため、好みは分かれるかもしれませんが、運転時には比較的使いやすいカラーです。
– イエロー系(アンバー)
コントラストを強調しやすい反面、日中の強い光を受け止めるにはやや弱い面があります。曇りの日や薄暗い時間帯に視界をクリアにする効果が期待できますが、強い直射日光下ではまぶしさを十分にカットできない可能性もあります。
– グリーン系
比較的バランスが良いカラーで、色覚に影響を与えにくいものの一つです。ただし個人の好みや目の感じ方によっては「やや視界が落ち着かない」と感じる場合もあるため、実際に試して選ぶとよいでしょう。
いずれにしても、交通信号の色を正しく判別できるかどうかは非常に重要なポイントです。運転を想定したサングラスを選ぶ際は、自分の目でカラーの見え方を確認し、日中や夕方など複数の環境で試着するのが理想的です。
トンネルや駐車場など明暗差のある環境への対処
ドライブでは、明るい場所と暗い場所を頻繁に行き来するシーンが多くあります。たとえば高速道路のトンネルや屋内駐車場などです。強い日差しの中を走行していて、突然トンネルへ入ると一瞬で暗くなり、驚くほど視界が低下することがあります。そこでは以下のような対策が考えられます。
– レンズの濃さを抑えたサングラスを選ぶ
日中のまぶしさをある程度カバーしつつ、トンネルや日陰に入っても視界が失われにくい中程度の濃さがよいとされています。
– 調光レンズを検討する
光量によってレンズの濃さが変化する「調光レンズ」は、明るい環境では濃く変化して紫外線をカットし、暗い場所に入ると元の薄い色に戻る機能を持ちます。ただし即座に色が変わるわけではなく、変化に数秒から数十秒かかるため、急に暗くなるトンネルでの一瞬の視界確保には十分でない場合もあります。
– 走行ルートを把握しておく
トンネルが多い区間や高架下が連続する区間などでは、前もってサングラスを外せるように準備しておく、または急な暗転でも見えやすいレンズを選ぶなど、状況に応じた工夫が大切です。
眼科や専門店での相談がベスト
サングラスは「濃さ」「カラー」「偏光度」「レンズ素材」など、さまざまな要素が絡み合って選択の幅が広いアイテムです。自分がどんな環境で運転するのか(高速道路の長距離移動が多いのか、夜間走行が多いのか、街中を走る機会が多いのか)によって、最適なサングラスの条件は変わってきます。
また、もし運転中に強いまぶしさを感じやすくなった、以前より視界が悪くなったといった変化があれば、視力や目の調節機能が低下している可能性も考えられます。自己判断でサングラスを選んでも、根本的な視力低下が原因の場合、十分な改善が得られないこともあるでしょう。
こうした理由から、運転用サングラスを選ぶ際は、眼科医や認定眼鏡士のいる専門店で相談しながら、自分に合った最適な一本をじっくり探すことをおすすめします。店頭で試着し、実際に外の明るさや信号の色味を確認してから購入すると、失敗を防ぎやすくなります。
運転時のサングラス着用と安全運転のポイント
サングラスをかけることで光の刺激を抑えられれば、まぶしさによる一瞬のブラインド状態を回避し、交通状況を安定的に把握できるようになります。ただし、運転中は周囲の状況を常に把握し続ける必要があるため、サングラスの着用そのものが目的にならないように注意が必要です。
– 周囲の歩行者や標識などへの視認性を最優先
レンズが暗すぎると、横断歩道を渡る歩行者や自転車を見落とす危険が高まります。明るさの感じ方は個人差が大きいので、夕方や悪天候時に使用しても問題ないレンズを慎重に選んでください。
– サングラスをこまめに外すタイミング
トンネルに入る前、急に天気が悪くなって暗くなってきたときなど、場面によってはサングラスを外したほうが安全な場合もあります。運転に集中しながらも、自分の視界を最適に保つ工夫を怠らないようにしましょう。
– サングラスのメンテナンス
レンズに傷や汚れがあると、かえって見にくくなるだけでなく、光が散乱しやすくなりまぶしさを増幅することもあります。定期的にクリーニングし、レンズ表面のコーティングを傷めないように扱いましょう。
– 定期的な視力検査
年齢とともに視力や視野の変化が起こるのは自然なことです。サングラス選びだけでなく、定期的な視力検査や運転免許の更新時に行われる適性検査を受け、自分の視覚能力を正しく把握しておくことが大切です。
まとめ
運転用サングラスは、強い日差しや乱反射を抑え、まぶしさによる危険性を減らしてくれる非常に心強いアイテムです。しかし、濃すぎるレンズや不適切なカラーのサングラスを使うと、かえって標識や信号が見づらくなり事故のリスクを高める可能性もあります。運転中の光環境は天気や時間帯、走行ルートなどによって頻繁に変化するため、自分の視力や運転環境に合ったサングラスを選ぶことが肝心です。JIS規格をクリアした運転用レンズや、偏光機能・フレームデザインなども含めて総合的に検討し、安全運転をサポートしてくれる一本を選んでください。眼科や専門店で相談することで、最適なサングラスとの出会いをスムーズに見つけることができます。