MaaS(マース)とは何か?スマホ一つで実現する次世代サービス

MaaS(マース)とは何か?スマホ一つで実現する次世代サービス

私たちの社会には、日常的に発生する渋滞や駐車場不足、過疎地での交通手段の欠如、高齢者ドライバーによる事故増加など、多くの交通にまつわる課題が存在しています。都市部では車の台数が増えすぎた結果、道路の混雑や駐車スペースの不足が深刻化し、地方では人口減少や高齢化が進むにつれて、そもそも公共交通機関が存続できない地域が増えています。これらの問題を解消する手立ての一つとして、いま注目されているのが「MaaS(マース)」です。MaaSはスマートフォンひとつで様々な移動手段を組み合わせ、予約から決済まで一括で行える次世代のモビリティサービスです。単なる乗り物の予約に留まらず、観光や宿泊、飲食など、移動に付随する幅広いサービスとも組み合わせることで、私たちの暮らしそのものを大きく変える可能性を秘めています。ここでは、MaaSの基本的な仕組みや解決が期待される社会課題、そしてコロナ禍での活用や今後の展望などについて、詳しく見ていきましょう。

MaaS(マース)とは何か?従来の交通サービスとの違い

MaaS(Mobility as a Service)とは、複数の公共交通やシェアサービスなどを組み合わせ、出発地から目的地までの移動手段をアプリやウェブ上で一括検索・予約・決済できる仕組みのことを指します。鉄道やバス、タクシー、カーシェア、シェアサイクルなど、さまざまな交通機関を利用しながらも、利用者はスマホのアプリを通じてまとめて支払いまで完結させることができます。従来であれば、目的地までの交通手段を個別に検索・予約し、それぞれの運賃や料金を個別に支払う必要がありました。しかしMaaSを活用すれば、電車とバス、あるいはシェアサイクルとタクシーといった異なる手段を自由に組み合わせ、ワンストップで移動できるようになります。

フィンランドの首都ヘルシンキでは、このMaaSをいち早く実用化した「Whim(ウィム)」というサービスが有名です。月額定額プランなどで公共交通やタクシー、シェアサイクルなどを利用できるため、ユーザーのマイカー利用を大きく減らすことに成功しました。日本でも同様のサービスを実現するため、国や地方自治体、民間企業が連携しながら実証実験やサービス開発を進めています。

MaaSがもたらす社会的インパクト~地方・都市部それぞれの課題解消へ

日本国内では、地域や都市によって交通事情が大きく異なります。地方部ではそもそも鉄道やバスの本数が限られていたり、タクシーの台数も十分ではないなど、住民の生活を支えるための交通インフラが脆弱になりつつあります。また高齢者が運転免許を返納したくても、代替となる交通手段がないという悩みも深刻化しています。そこでMaaSが導入されれば、地域住民同士で乗り合うAIオンデマンド交通や、シェアサービスなどを通じて、ドア・ツー・ドアでの移動を安価に実現できます。必要なときに必要な人数分だけ車両が手配される仕組みがあれば、運転手不足やコストの問題をある程度カバーしながら、移動機会を確保できるのです。

一方、都市部では過度なマイカー使用により、慢性的な交通渋滞や駐車場不足、路上駐車の問題が顕在化しています。特にオフィス街や商業地などでは、通勤や買い物などで多くの人々が自家用車を利用するため、道路は混雑し、排気ガスによる環境負荷も高まります。MaaSの導入により、利用者が「公共交通機関を使ったほうが安くて便利だ」という状況になれば、結果的に自家用車の利用が減り、渋滞緩和や環境負荷の軽減が期待されます。実際にヘルシンキの事例では、定額の乗り放題プランが人気となり、車を手放しても快適に移動できるライフスタイルが定着しつつあります。

フィンランドに見る成功例と日本版MaaSへの取り組み

MaaSの先駆けとなったフィンランドのヘルシンキ市では、利用者がスマホアプリ「Whim」を開けば、バスや鉄道といった公共交通はもちろんのこと、タクシーやレンタカー、シェアサイクルの予約から決済まで一括で行えるようになっています。月額定額制や従量制など、複数の料金プランが用意されており、利用者のライフスタイルや予算に合わせてプランを選ぶことができます。特筆すべきは、これらの仕組みによってマイカー所持率の減少が進み、公共交通の利用率が増大した点です。公共交通の利用者が増えれば、交通事業者の収益も安定し、それをサービスやインフラ整備に還元できる好循環が生まれます。

日本でも「日本版MaaS」と呼ばれる形で、各地で実証実験が行われています。都市圏では複数の鉄道路線やバス事業者を束ね、統合的に乗り放題とするようなシステム開発に取り組む事例が見られ、地方部ではAIオンデマンド交通などを組み合わせて実証実験を進めています。観光地においては宿泊施設や観光施設との連携を図り、移動と観光アクティビティを一括で予約・決済できるようにする試みも注目されています。これらが普及すれば、旅行者は旅先での移動のわずらわしさから解放され、地方の観光資源をより効率的に巡ることが可能になるでしょう。

AIオンデマンド交通の可能性~利用者と地域社会にもたらすメリット

AIオンデマンド交通とは、利用者が予約を入れるとAIが最適な配車ルートやダイヤを自動的に組み立てて、共有車両を柔軟に動かしていくサービスです。路線バスのように決まったルートを巡るのではなく、利用者の予約状況に応じてリアルタイムで走行ルートを変えるため、効率的な乗り合いが可能です。乗客にとっては、自分が乗りたいタイミングで最寄りの停留所に迎えが来て、ほぼ希望時間通りに目的地付近まで運んでくれるため、タクシーほどの高額な料金にならずにある程度の自由度を得られます。事業者や自治体にとっては、既存の路線バスのように固定コストがかさむ運行を続けるよりも効率的で、過疎地での公共交通維持にもつながります。

地方では、住民の高齢化が進むと同時にバス路線や鉄道の廃止が相次いでおり、移動手段を失った高齢者や免許返納者が日常の買い物や通院に苦労するケースが増えています。AIオンデマンド交通をMaaSに組み込めば、「必要なときに予約するだけで移動手段が確保できる」という仕組みができあがり、公共交通の空白地域を埋める大きな助けとなるでしょう。同時に地域内の複数の施設や店舗と連携すれば、買い物や病院、役所の手続きなども一括で予定を組むことができ、地域住民の利便性向上に大いに役立ちます。

新型コロナウイルス禍で進む安全対策~混雑回避情報の活用

コロナ禍では、公共交通機関を利用するうえで「密」を避けることが強く求められました。バスや電車での混雑を避けたい利用者が増えた一方で、事業者側も車両の消毒や換気、乗客の距離確保などを徹底し、利用者の安心感を高める必要がありました。そのために有用だったのがリアルタイムの混雑情報です。バス車内のセンサーや利用者の乗車状況を把握し、乗客数や混雑度合いを可視化して、スマホアプリなどで随時提供する仕組みが整備されつつあります。

こうした混雑情報は、MaaSとの連携によりさらに利便性が高まります。たとえば移動だけでなく、目的地での混雑状況も合わせて確認できれば、利用者は「混雑しにくいバスで移動して、人気の飲食店はピークを外した時間帯に行き、その後空いている観光施設を回ってホテルへチェックインする」というように、一連の行動を計画的に立てられます。コロナ禍をきっかけに、利用者が「いかに混雑を回避するか」を意識するようになったことで、MaaSが提供する包括的なサービスの価値はますます高まっています。

観光・ビジネス・日常生活で活きるMaaS~一貫したサービスの実現

MaaSの大きな特徴は、単なる交通手段の効率化だけではなく、移動に付随する様々なサービスとの連携を想定している点です。観光客向けには、鉄道やバスに加えて、地域特有の乗り物(ロープウェイや水上バスなど)や、レンタカー、タクシー、シェアサイクルを一つのアプリ内でシームレスに利用できるメリットがあります。さらに飲食店や観光施設、宿泊施設の予約・決済まで組み込めれば、旅行プランを総合的にコーディネートすることが可能です。

ビジネス用途でも、その場その場で最適な交通手段を一括で予約できれば、出張先での移動時間やコストを削減できます。複数人が別々の経路をとる必要がある場合でも、同じアプリで移動手段を確保でき、かつ企業の経費処理を簡素化するといったメリットが生まれます。日常生活であっても、買い物や通院、子供の送り迎えなど、短い移動を頻繁に行うような場面でこそ、利便性の恩恵は大きく感じられるでしょう。車を所有しなくても地域内や隣接地域を快適に行き来できる環境が整えば、生活そのものの質が向上するだけでなく、将来的には「マイカーを持たない」という選択肢を後押しすることにもつながります。

今後の展望と課題~MaaSが変えるわたしたちの暮らし

MaaSはまだ発展途上の概念であり、今後もさらなる技術革新やサービス連携が期待されています。しかし、その普及にはいくつかの課題も伴います。まず、複数の交通事業者やサービス提供者が連携し、データを共有し合うための仕組みづくりが不可欠です。運賃体系や運行情報、顧客データなど、多様な情報をどうやって一元管理するかが大きなポイントとなります。さらに、情報セキュリティや利用者の個人情報保護の観点も重要です。移動履歴や支払い情報など、利用者のプライバシーに直結するデータが集まるため、適切に管理・運用しなければ信頼を失う恐れがあります。

また、地方と都市部では交通事業者の数や規模、自治体の協力体制などが大きく異なるため、一律に同じMaaSを導入しても十分な効果が得られない場合があります。地域の実情に合わせ、柔軟にサービスを設計しなければいけません。特に過疎化が進む地域では、自治体や交通事業者が一方的に運用を続けるだけでなく、住民自身が積極的に利用することで初めて成り立つケースもあるでしょう。持続可能なMaaSを育てるためには、行政・企業・住民の三者が連携し、それぞれの利害やメリットを明確にしたうえで協力関係を築くことが大切です。

自動運転技術やドローン配送など、モビリティに関わるテクノロジーは急速に進化しています。やがては自動運転車がMaaSの一翼を担い、深夜や早朝の移動をカバーしたり、高齢者や身体の不自由な方をサポートすることが可能になるかもしれません。ドローンがラストワンマイルの物流を担い、人や物の移動がより柔軟かつ安全に行われる未来がそう遠くない将来に訪れる可能性もあります。MaaSは、これら次世代の移動手段と連携し、総合的な社会インフラの一部として機能するようになるでしょう。

最後に、都市部だけではなく地方の交通問題をも同時に解決する潜在力を持っているのがMaaSの魅力です。スマホ一つあれば、どこへ行くにも移動手段を確保できる社会になれば、高齢者も若者も、多様なライフスタイルを選択できるようになります。移動の利便性が向上することで人やモノの流れがスムーズになり、経済活性化につながる可能性も十分にあるでしょう。私たちの生活の基盤となる「移動」の概念が大きく変わる転換点に、いま私たちは立っているのです。

まとめ

MaaSは、複数の交通手段を一括で検索・予約・決済し、観光や飲食店、行政サービスまで含めて総合的にサポートする新しい移動サービスです。スマートフォンひとつで移動と付随するあらゆる活動をシームレスに完結できるため、地方の交通難や都市部の渋滞、環境負荷の軽減など多様な課題を解決する大きな可能性を秘めています。今後、自動運転やAIオンデマンドなど最先端技術との連携が進むことで、私たちの暮らしや街づくりはさらに進化し、移動の概念が大きく変わっていくでしょう。

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