自動車保険の等級制度、事故有係数と無事故係数の違い

自動車保険の等級制度、事故有係数と無事故係数の違い

自動車保険に加入する際、「等級」という言葉を耳にしたことがあると思います。「等級が上がると保険料が安くなる」となんとなくは知っていても、その詳しい仕組み、特に「事故有係数」と「無事故係数」という言葉の違いまで正確に理解している方は、ベテランドライバーでも意外と少ないかもしれません。

運転免許を取りたての方や、久しぶりにハンドルを握るペーパードライバーの方にとっては、少し難しく感じてしまうかもしれませんね。ですが、ご安心ください。この等級制度は、安全運転を心がけるドライバーが損をしない、とても合理的で大切な仕組みなのです。

この記事では、自動車保険の根幹ともいえる「等級制度」について、そして保険料に大きく関わる「事故有係数」と「無事故係数」の違いを、どこよりも分かりやすく、丁寧にかみ砕いて解説していきます。

この記事を読み終える頃には、等級制度の「なぜ?」がスッキリ解消され、ご自身の保険への理解が深まるだけでなく、「やっぱり安全運転が一番お得で大切なんだ!」と改めて感じていただけるはずです。それでは、一緒に自動車保険の世界を覗いていきましょう。

そもそも自動車保険の「等級」って何?

まずはじめに、基本となる「等級」そのものについてご説明します。難しく考える必要はありません。一言でいえば、「ドライバーの運転歴や事故歴に応じたランク付け」のようなものです。

等級はドライバーの「信頼度」の証

自動車保険における等級は、正式には「ノンフリート等級別料率制度」と呼ばれます。なんだか難しそうな名前ですが、要は、契約している自動車が9台以下の契約者(これをノンフリート契約者と呼びます)に適用される、保険料の割引・割増率を決める区分のことです。

この等級は、1等級から20等級までの20段階に分かれています。

  • 1等級:最も保険料が割高になる等級
  • 20等級:最も保険料が割引になる等級

つまり、等級の数字が大きければ大きいほど、「事故リスクの低い優良ドライバー」と保険会社から評価され、保険料が安くなる仕組みなのです。逆に、数字が小さいほど「事故リスクの高いドライバー」と見なされ、保険料は高くなります。

初めて自動車保険に加入する場合、原則として「6等級」からスタートします。ここから1年間、保険を使うような事故を起こさなければ、翌年の契約更新時に1つ等級が上がって「7等級」になります。これを繰り返していくことで、最大20等級まで上がっていくわけです。

この制度があるおかげで、長年無事故で安全運転を続けているドライバーの保険料は安く、一方で事故を頻繁に起こしてしまうドライバーの保険料は高くなり、契約者間での保険料負担の公平性が保たれています。

等級はどうやって決まるの?上下する仕組みを徹底解説

等級が保険料を決める大切な要素であることはお分かりいただけたかと思います。では、この等級は具体的にどのようなルールで上がったり下がったりするのでしょうか。その仕組みを詳しく見ていきましょう。

基本は「1年無事故で1等級アップ」

等級制度の最も基本的なルールは、とてもシンプルです。保険契約期間の1年間、保険を使う事故を起こさなければ、翌年度の契約更新時に等級が1つ上がります。

  • 6等級で契約開始 → 1年間無事故 → 翌年7等級に
  • 15等級で契約中 → 1年間無事故 → 翌年16等級に

このように、コツコツと安全運転を続けることが、保険料を安くするための着実な一歩となります。

事故を起こすと等級はダウンする

一方で、残念ながら事故を起こしてしまい、ご自身の自動車保険を使って修理費や賠償金を支払った場合には、翌年度の等級が下がってしまいます。これを「等級ダウン」と呼びます。

ここで重要なのが、事故の内容によって下がる等級数が異なるという点です。事故は、大きく分けて「3等級ダウン事故」「1等級ダウン事故」「ノーカウント事故」の3種類に分類されます。

3等級ダウン事故

最もペナルティが大きいのが、3等級ダウン事故です。翌年度の等級が一気に3つも下がってしまいます。

主な例:

  • 他人の車や家の壁などを壊してしまった(対物賠償保険の使用)
  • 歩行者などにケガをさせてしまった(対人賠償保険の使用)
  • 電柱にぶつかるなどして自分の車を壊してしまった(車両保険の使用)

例えば、15等級の人が3等級ダウン事故を起こすと、翌年度は12等級になってしまいます。せっかく積み上げてきた等級が大きく下がってしまうため、保険料も大幅に上がることになります。

1等級ダウン事故

3等級ダウン事故に比べて、比較的軽微とされる特定の事故が該当します。翌年度の等級が1つ下がります。

主な例:

  • 車が盗難にあった
  • 走行中に飛び石が当たり、フロントガラスがひび割れた
  • 落書きやいたずらで車に傷をつけられた

これらの原因で車両保険を使った場合、1等級ダウン事故として扱われることが一般的です。例えば、15等級の人が1等級ダウン事故を起こすと、翌年度は14等級になります。

ノーカウント事故

事故にあい保険を使っても、等級に全く影響せず、翌年度も通常通り1等級上がる事故のことです。「事故がなかったこと」として扱われるため、このように呼ばれます。

主な例:

  • 自分や同乗者がケガをして治療費を受け取った(人身傷害保険や搭乗者傷害保険のみの使用)
  • 事故の相手方との交渉を弁護士に依頼した(弁護士費用特約のみの使用)
  • 原付バイクで事故を起こしてしまった(ファミリーバイク特約のみの使用)

これらのように、契約している特約(オプション)のみを使用し、対人賠償や対物賠償、車両保険を使わなかった場合にノーカウント事故となるケースが多いです。もしもの時に等級を気にせず使える保険や特約があるのは、とても心強いですね。

このように、事故の種類によって等級への影響が大きく異なることを、ぜひ覚えておいてください。

本題!「無事故係数」と「事故有係数」の違いとは?

さて、ここからがこの記事の最も重要なポイントです。等級制度には、実はもう一つ、保険料を左右する大切な要素があります。それが「無事故係数」と「事故有係数」です。

「同じ等級なのに、友人と保険料が違うのはなぜ?」と感じたことがある方もいるかもしれません。その答えの鍵を握っているのが、この2つの「係数」なのです。

同じ等級でも割引率が違う「2つの物差し」

簡単に言うと、同じ等級であっても、

  • 事故を起こしていない人には、よりお得な割引率(無事故係数)
  • 事故を起こしてしまった人には、少し厳しい割引率(事故有係数)

が適用される仕組みになっています。これは、よりきめ細かく契約者間の公平性を保つための制度です。長年無事故を続けている人と、最近事故を起こして等級が下がってきた人が同じ等級になった場合、全く同じ割引率を適用するのは不公平だと考えられたため、このような二重の仕組みが導入されました。

無事故係数とは?

「無事故係数」は、その名の通り、前年度の契約で等級ダウン事故を起こさなかった契約者に適用される割引・割増率です。事故を起こしていない優良ドライバー向けの、お得な係数と覚えておきましょう。

事故有係数とは?

「事故有係数」は、前年度の契約で等級ダウン事故(3等級ダウンまたは1等級ダウン)を起こしてしまった契約者に適用される割引・割増率です。「無事故係数」に比べて割引率が低く設定されており、同じ等級でも保険料は割高になります。

つまり、保険料の計算は、「等級」という大きな枠組みがあり、その中でさらに「無事故か、事故有か」という係数によって、最終的な割引率が決定される、という二段階構造になっているのです。

「事故有係数」はいつまで適用されるの?

事故を起こしてしまうと、等級が下がるだけでなく、割高な「事故有係数」が適用されるというダブルパンチを受けることになります。では、このペナルティである「事故有係数」は、一度適用されると、いつまで続いてしまうのでしょうか。

ここで登場するのが「事故有係数適用期間」という考え方です。

事故有係数適用期間の仕組み

「事故有係数適用期間」とは、その名の通り、「事故有係数」が適用される年数のことを指します。この期間は、起こしてしまった事故の種類に応じて、以下のように加算されます。

  • 3等級ダウン事故を1回起こす → 事故有係数適用期間が「3年」加算される
  • 1等級ダウン事故を1回起こす → 事故有係数適用期間が「1年」加算される

そして、この「事故有係数適用期間」は、保険を更新するたびに1年ずつ消化されていきます。この期間が「0年」になるまで、割高な事故有係数が適用され続けるのです。

具体的な例で見てみましょう

言葉だけでは少し分かりにくいので、具体的なケースで見ていきましょう。

ケース1:15等級のAさんが、3等級ダウン事故を1回起こした場合

  1. 事故を起こした翌年
    • 等級:15等級 → 12等級(3等級ダウン)
    • 事故有係数適用期間:0年 → 3年
    • 適用される係数:「事故有係数」
  2. その1年後(無事故だった場合)
    • 等級:12等級 → 13等級(1等級アップ)
    • 事故有係数適用期間:3年 → 2年(1年消化)
    • 適用される係数:「事故有係数」
  3. その2年後(無事故だった場合)
    • 等級:13等級 → 14等級(1等級アップ)
    • 事故有係数適用期間:2年 → 1年(1年消化)
    • 適用される係数:「事故有係数」
  4. その3年後(無事故だった場合)
    • 等級:14等級 → 15等級(1等級アップ)
    • 事故有係数適用期間:1年 → 0年(1年消化)
    • 適用される係数:「事故有係数」
  5. その4年後(無事故だった場合)
    • 等級:15等級 → 16等級(1等級アップ)
    • 事故有係数適用期間:0年
    • 適用される係数:ようやく「無事故係数」に戻る!

このように、一度3等級ダウン事故を起こすと、元の無事故係数に戻るためには、事故後の3年間も割高な保険料を払い続けなければならないのです。

期間は累積する点に注意!

さらに注意が必要なのは、この事故有係数適用期間は最大6年まで累積する、という点です。

例えば、事故有係数適用期間が残り2年の状態で、新たに1等級ダウン事故を起こしてしまった場合、残りの2年に1年が加算され、翌年からの事故有係数適用期間は「3年」となります。

事故を繰り返してしまうと、ペナルティ期間がどんどん長引いてしまう、厳しい仕組みになっているのです。

具体例で見てみよう!事故有係数の影響力

では、実際に「無事故係数」と「事故有係数」では、どれくらい保険料の割引率に差が出るのでしょうか。保険会社によって実際の割引率は異なりますが、一般的な参考料率を例に、その影響力の大きさを見てみましょう。

ここでは、同じ「12等級」のAさんとBさんを比較してみます。

  • Aさん:新規で契約後、6年間無事故で順調に12等級に到達した人
  • Bさん:もともと15等級だったが、3等級ダウン事故を起こして12等級になった人

この場合、Aさんには「無事故係数」、Bさんには「事故有係数」が適用されます。

等級Aさん(無事故)の割引率(参考)Bさん(事故有)の割引率(参考)
12等級約48%割引約29%割引

いかがでしょうか。同じ12等級というランクにもかかわらず、割引率には約19%もの大きな差が生まれています。

仮に、基準となる保険料が年間10万円だったとすると、

  • Aさんの保険料:10万円 × (1 – 0.48) = 5万2000円
  • Bさんの保険料:10万円 × (1 – 0.29) = 7万1000円

その差は、年間で1万9000円にもなります。Bさんは事故有係数適用期間である3年間にわたって、Aさんよりも高い保険料を払い続けることになるのです。

このように、たった一度の事故が、翌年以降の家計に大きな影響を与えることがお分かりいただけると思います。「事故を起こさない」ことが、いかに経済的にも重要であるかが実感できますね。

知っておくと役立つ等級制度の豆知識

等級制度の基本と、事故有係数の仕組みについて深く理解できたところで、さらに知っておくと役立つ豆知識をいくつかご紹介します。いざという時に慌てないためにも、ぜひ頭の片隅に入れておいてください。

保険会社を乗り換えても等級は引き継げる

「保険料を安くするために、別の保険会社に乗り換えたい。でも、せっかく上げた等級がリセットされるのは嫌だ…」と心配される方がいますが、ご安心ください。

現在契約している保険の満期日から、次の保険の開始日までの間が7日以内など、一定の条件を満たしていれば、等級は次の保険会社にそのまま引き継ぐことができます。もちろん、事故有係数適用期間も一緒に引き継がれます。

事情があって車を手放す場合は「中断証明書」

海外赴任や病気での長期入院など、やむを得ない事情で一時的に車を手放すこともあるでしょう。その場合、何もしなければ等級はリセットされてしまいますが、「中断証明書」を発行してもらうことで、最大10年間、等級を維持することができます。

再び車に乗るときに、この証明書を提出すれば、中断した時の高い等級から保険を再開できる、とても便利な制度です。

家族間での等級の引き継ぎ

等級は、配偶者や同居している親族であれば、引き継ぐことが可能です。

例えば、長年運転してきた親が免許を返納する際に、その高い等級(例えば20等級)を、免許を取りたてでこれから車に乗る子供に引き継ぐ、といった活用方法があります。新規で6等級から始めるよりも、保険料を大幅に抑えることができるため、家族で車に乗る方がいる場合は、ぜひ検討してみてください。

保険を使うかどうかの賢い判断基準

軽い自損事故でバンパーを少し擦ってしまった、といったケース。修理代は3万円ほどかかりそうです。この時、すぐに「保険を使おう」と考えるのは、少し待ってください。

もし、この修理で車両保険を使い、3等級ダウン事故扱いになったとします。翌年からの3年間で、保険料が合計で5万円上がってしまう可能性も十分に考えられます。この場合、保険を使わずに自己負担で3万円を払って修理した方が、トータルで見て2万円もお得になる計算です。

「保険を使うことによる翌年以降の保険料アップ額」と「今回の修理費」、この2つを天秤にかけることが非常に重要です。

判断に迷った場合は、まず保険会社に「この事故で保険を使った場合、翌年の等級と保険料はどのようになりますか?」と相談してみるのがおすすめです。保険会社はシミュレーションをしてくれるので、その結果を見てから、保険を使うかどうかを冷静に判断しましょう。

等級を守るために!今日からできる安全運転のコツ

ここまで、等級制度の仕組みを詳しく解説してきました。等級制度を理解すればするほど、日々の安全運転がいかに大切か、身に染みて感じていただけたのではないでしょうか。

最後に、皆さんの大切な等級を守り、なによりもご自身と同乗者、そして周りの人の安全を守るために、運転初心者の方でも今日からすぐに実践できる安全運転のコツをいくつかご紹介します。

1. 十分な車間距離は「心の余裕」のバロメーター

運転で最も大切なことの一つが、十分な車間距離を保つことです。前の車との距離が近すぎると、相手が急ブレーキを踏んだ際に追突してしまう危険性が高まります。

目安として「2秒ルール」を意識しましょう。前の車が電柱などの目標物を通過してから、自分の車が同じ場所に到達するまで「いち、に」と数えて2秒以上あれば、適切な車間距離が保てています。雨の日など路面が滑りやすい状況では、さらに長めの距離をとるように心がけてください。十分な車間距離は、万が一の時に対応できる時間的な余裕だけでなく、精神的な余裕にも繋がります。

2. 「かもしれない運転」を習慣に

「かもしれない運転」とは、常に危険を予測しながら運転する心構えのことです。

  • 物陰から子供が飛び出してくるかもしれない
  • 対向車がセンターラインをはみ出してくるかもしれない
  • 前の車が急にブレーキを踏むかもしれない

このように、常に「かもしれない」と考えて運転することで、危険に対する反応が早くなり、事故を未然に防ぐことができます。「だろう運転」(大丈夫だろう、出てこないだろう)は事故の元です。

3. 周りのドライバーと上手にコミュニケーション

運転は、道路を共有する他のドライバーとのコミュニケーションも大切です。

  • 車線変更を譲ってもらったら「サンキューハザード」を点滅させる
  • 早めにウィンカーを出すことで、自分の意思を周りに明確に伝える

こうした小さな気遣いが、お互いの気持ちに余裕を生み、交通の流れをスムーズにします。イライラした運転は判断力を鈍らせ、事故のリスクを高めます。常に譲り合いの気持ちを持ってハンドルを握りましょう。

4. 運転に集中できる環境づくり

運転中は、運転に集中することが絶対条件です。

  • スマートフォンの操作や通話は、絶対にやめましょう。ハンズフリーであっても、意識が散漫になることが分かっています。
  • カーナビの操作は、必ず安全な場所に停車してから行いましょう。
  • 体調が悪い時や、眠気を感じる時は、無理せず休憩をとることが大切です。

自分は大丈夫、という過信が、取り返しのつかない事故に繋がります。

まとめ

今回は、自動車保険の「等級制度」、そして「無事故係数」と「事故有係数」の違いについて、詳しく解説してきました。

最後に、この記事の重要なポイントを振り返ってみましょう。

  • 等級制度は1〜20等級まであり、数字が大きいほど保険料が安くなるドライバーのランク付け。
  • 1年間無事故なら1等級アップ、事故で保険を使うと内容に応じて1〜3等級ダウンする。
  • 同じ等級でも、事故を起こしていない人に適用されるお得な「無事故係数」と、事故を起こした人に適用される割高な「事故有係数」がある。
  • 一度事故を起こすと、「事故有係数適用期間」として最大6年間、割高な保険料が続くペナルティがある。
  • たった一度の事故が、翌年以降の保険料に大きな影響を与えるため、日々の安全運転が何よりも重要。

自動車保険の仕組みを正しく理解することは、万が一の時に自分を守るだけでなく、無駄な保険料を払わないための賢い自衛策にもなります。そして、その根底にあるのは、やはり「無事故」であることです。

今日ご紹介した安全運転のコツを常に心に留め、譲り合いの気持ちと優しい心を持ってハンドルを握ってください。皆様のカーライフが、安全で、楽しく、そして経済的にも豊かなものになることを心から願っています。

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